11月中旬に東京で開かれた九州・山口県の合同婚活支援イベント「ミライカレッジ九州・山口 LIFE DESIGNミッション」。9県は婚活や移住の支援で連携した取り組みを行っている(写真・ツヴァイ)

11月中旬の日曜日、東京・渋谷のヒカリエホールに福岡県の博多明太子や佐賀県の佐賀のり、長崎県の皿うどんなど九州ならではの食材を使った変わり種のロールケーキが並んだ。といっても開かれていたのはグルメイベントではない。九州・山口県9県が合同で開催した婚活・移住促進イベントだ。

イベントに集まったのは20〜30代の独身男女144名。地方移住をテーマにしたトークセッションの後、参加者は男女ほぼ同数で県ごとに分かれ、ワークショップに取り組んだ。課題は、各県の特産品を使った特製ロールケーキのPRや、県の魅力を伝えるためのポスター作りだ。参加者は実際にケーキを試食し、ホールロビーに配置された各県のブースも回りながら、ポスターを完成させていった。

婚活イベントらしく、ワークショップはテーブルごとの自己紹介からスタート。作業が進むと、参加者の表情は和み、会話も多くなっていった。参加者は九州・山口地域へのU、I、Jターンの希望者。出身地や興味のある地域といった共通の話題があると、初対面でも会話が弾みやすいようだ。

人口減への危機感で九州・山口がタッグ


佐賀県の山口祥義知事は「結婚、出産、育児の希望がかなう社会づくり」に力を入れている。自身も男性の育児参加を呼びかけるキャンペーン動画に出演している(写真:ツヴァイ)

九州と山口の9県が婚活や移住の支援で手を組んだのはなぜか。九州全県の人口は2015年に2005年比で2.5%減少。全国の0.5%減を上回る人口減のペースに各県は強い危機感を抱く。イベントで登壇した佐賀県の山口祥義知事は「自治体の婚活支援には賛否両論あるが、出会いや結婚のすばらしさを自治体がアピールすることには意義がある。地域のよさも積極的にアピールしていきたい」と話す。

今回のイベントは結婚相手紹介大手のツヴァイが、移住情報誌『TURNS(ターンズ)』および電通と共同で2015年に始めたプロジェクトの1つだ。地方創生に「地域活性化」と「結婚支援」の両面から取り組み、「都会から地方への人の流れ」を作るのが狙い。ライフデザイン(人生設計)講座や移住促進イベントなどを自治体から受託している。

「移住婚ツアー」も展開する。都市圏の女性と地方圏の男性との出会いを作るための婚活ツアーで、2015〜2016年度合計で男性368人、女性341人が参加。カップル成立率は52%で、すでに6組のカップルが成婚・移住した。ツアーに当たっては男女とも事前セミナーを実施。都市圏の女性には地方で結婚や子育て、仕事をすることについて考えるきっかけにしてもらおうと、各地域の情報や移住例を紹介する。


今年9月に北海道で実施した「ミライカレッジとうや湖」には北海道と首都圏の独身男女が参加し、洞爺湖でカヌーを楽しんだ(写真:ツヴァイ)

地方圏の男性には、地域の魅力を伝える方法や女性との会話の進め方、服装などを指導する。今年9月に北海道で実施した「ミライカレッジとうや湖」では、首都圏から参加した女性からは「共同作業で男性の人柄を知れてよかった」「初めての体験が多くて楽しかった」など、男性側からは「地元をPRする機会があったのがよかった」との声が出たという。

婚活支援も国の補助金対象に

自治体が行う婚活支援の取り組みは拡大の一途だ。共同通信社が今年行った調査によると、すでに全都道府県が婚活支援事業を実施。市区町村単位でも半数超が取り組む。この背景には、「出産・育児の前にまずは結婚を」という安倍晋三政権の少子化対策もある。2013年度補正予算で地域少子化対策強化交付金(30.1億円)が創設され、婚活支援も国の補助金の対象となった。以後、予算が継続され、2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」に「結婚支援の充実」が盛り込まれると、2016年度補正予算では過去最大の40億円が計上された。

自治体の婚活支援事業には、セミナーやイベントの実施、情報提供、ボランティアによる結婚相談、システムあるいは人手によるマッチングなどがある。総合窓口として支援センターを設置している自治体も多い。

茨城県は国の取り組みよりも早く、婚活支援事業を開始。2006年に開設した「いばらき出会いサポートセンター」が中核となって事業を推進する。お見合いの世話をするボランティアを「マリッジサポーター」として育成し、今や約1000人に達している。サポートセンターにはマッチングを希望する男女約2600人が登録。2016年末時点での成婚数は累計約1700組に上る。

茨城県の場合、サポートセンターに入会登録料として1万0500円を払うと、3年間マッチングサービスを利用できる。民間の結婚相談所では初期費用が10万〜20万円、月会費が1万〜1.5万円程度かかる。「成功報酬」として成婚料を取る相談所もある。それに比べれば、自治体のマッチングサービスは格安だ。自治体主催なら婚活イベントの参加費も安い。前述した九州・山口県合同イベントの参加費は500円だった。

婚活サイトや婚活パーティ、結婚相談所など多角的に婚活支援を展開しているIBJも、ツヴァイ同様、自治体から結婚支援のセミナーやイベントを受託している。IBJが現在、力を入れるのが「婚活サポーターセミナー」だ。これは自治体の婚活支援ボランティアに、自社の結婚相談所で培ってきたノウハウを伝授するもの。「実際に何をすればよいのかわからないボランティアの方も少なくないので、当社のノウハウを学んでスキルアップしてもらう。そうして育成した人材を婚活の“地域資産”として活用していただきたい」(常見哲明・IBJ事業企画室事業統括マネジャー)。

結婚相談所を多店舗展開するパートナーエージェントは、自社開発のマッチングシステムを京都府と福島県に提供している。民間企業にとっては、自治体が婚活支援事業に乗り出すことによって結婚相手紹介サービスの認知度が高まり、利用者増につながるのではないかとの期待もある。

カップル成立の数字だけを求める自治体も

こうした「官製婚活」に対しては、事業運営自体の問題点を指摘する声も少なくない。その1つは「単年度主義」だ。「年度ごとに予算化されることから、短期的な成果を求める傾向が強い。参加者何名、うち何組のカップル誕生と成果がはっきり出やすいイベントが好まれるのもそのため」(婚活関連会社の企画担当者)といえる。だが、実際にはイベントで知り合って交際を開始しても、うまくいかないケースもある。「カップル誕生から成婚まで支援するには時間も手間もかかるのだが、それを理解せずカップル成立の数字だけを求める自治体もある」(同)という。

自治体の婚活支援事業の参加者からは「自治体が開催しているので安心感がある」という好意的な声も聞かれる。一方、「思うような条件の相手がいない」「真剣に結婚を考えていない人も参加している」との厳しい意見も出ている。ミスマッチが起きていることについて、自治体支援も手掛ける結婚相談所は次のように分析する。「自治体の婚活支援事業は公共サービスの一環なので参加者をスクリーニングできない。また、利用料が安いこともあって、一定の金額がかかる民間の結婚相談所と比べると職業や年収、熱意などの点で利用者層が異なるのはやむをえない」。


11月に九州・山口9県が合同で開いた婚活・移住支援イベントのチラシ。人口減少が進む中、婚活支援に取り組む自治体には、働く場の創出など「結婚して住みたい街づくり」が一層求められている(提供:ツヴァイ)

民間企業のシステム担当者は、婚活向けのマッチングシステム導入を検討している自治体からある“無理難題”を持ちかけられたと打ち明ける。「複数の自治体との連携も考えているが、ほかの自治体の住民からこちらの住民への交際申し込みだけができるような一方通行の仕組みはできないか」というものだ。成婚の可能性を高めるためには一定の地域的広がりも必要になってくるが、自治体ならではの「エゴ」がそれを妨げることもある。

そもそも、自治体にとっては婚活支援自体が目的なのではなく、成婚したカップルがその地域にそのまま住み続ける、あるいは成婚を機に移住してくれることが重要だ。そのためには、起業を含めた就労機会の創出など多角的な取り組みが必要になる。「出会いの場づくり」にも増して「結婚して住みたい街づくり」こそが、行政の使命ではないだろうか。