堀監督の下、チーム一丸となって悲願のアジア制覇を成し遂げた浦和。 写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

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 私は1999年のマンチェスター・ユナイテッド対バイエルン戦(いわゆるカンプ・ノウの奇跡)など、チャンピオンズ・リーグの決勝を過去6回取材した。しかし、11月25日のアジアチャンピオンズ・リーグ(ACL)決勝の第2レグは、それらにも勝る興奮があったように思う。
 
 浦和レッズのサポーターがアル・ヒラルにプレッシャーを掛けるさまは、まるで赤い荒波のようだった。1999年にカンプ・ノウの一部を埋め尽くしたマンUのサポーターたちを思い出した。
 
 試合前にアジア・サッカー連盟(AFC)が主導して行なったセレモニーを見て、私は「浦和にとってこれは不利に働くのでは?」と感じていた。というのも、式中に流れる音楽が大きく、浦和サポーターが作り出す荘厳な雰囲気がかき消されてしまっていたからだ。
 
 これは、第三者として観る者にとって、試合の雰囲気を台無しにする余計な演出のように思えたが、なによりサポーターの後押しを欲する浦和の選手たちにとっては少なからずマイナスに働いていたはずだ。無論、アウェーのアル・ヒラルにとってはポジティブな要素だっただろう。
 
 実際にアル・ヒラルはアウェーのプレッシャーをあまり感じていないように見えた。とくに後半は浦和のカウンターの芽を完璧に吸収して、攻撃のみに集中していたように思う。むしろ守勢に回された浦和のほうが神経質になっていた。
 
 とはいえ、赤きサポーターの耳をつんざくほどの声援とブーイングが浦和の選手たちにとって励みになったのは疑いようがない。この日の浦和は所々でパスミスが散見したが、サポーターの声は選手たちを俯かせず、前へ前へと突き動かした。
 
 浦和の勝利を信じ続けたサポーターたちにとって、第1レグを含む決勝戦で2ゴールをマークしたラファエル・シルバは、アジア制覇の英雄として記憶されるだろう。
 
 私にはR・シルバがここまでの大仕事をやってのけるようには思えなかった。というのも、試合序盤の彼は興奮気味で、空回りするシーンが目立ったからだ。彼のファーストタックルはレイト気味で明らかに相手の腕に当たっていたし、攻撃面でもドリブルを食い止められてフラストレーションを溜め込んでいるように見えた。
 
 そうした鬱憤を最後の最後に爆発させたR・シルバは、間違いなく浦和の英雄だ。こうしたヒーローの出現こそ、強者たる所以である。

【ACL決勝PHOTO】浦和が10年ぶりのアジア制覇達成! R・シルバが歓喜をもたらす
 
 この試合で浦和はふたつの戦い方の選択を迫られていた。というのも、彼らは第1レグでアウェーゴールを奪ったうえで、1-1という結果を得ていたからだ。
 
 とくにスコアレスで折り返した後半は、「攻めるのか? 守るのか?」 でチーム内にも精神面でのブレが出やすい展開となったが、ここで堀孝史監督のマネジメント力が光った。彼らは、完璧に統率の取れた連動性を披露したのだ。
 
 後半が始まってから間もなくは、アル・ヒラルが猛攻を仕掛けて浦和を自陣深く押し込んだ。しかし、守り切るという意思統一がされた赤い壁は、一糸乱れぬパフォーマンスを貫く。あの時間帯に点を失えば、逆の結果になっていた可能性もあっただけに、その集中力と守備の強度には賛辞を贈りたい。
 
 そして、大会MVPを受賞した男にも触れねばならないだろう。10番を背負ってピッチを駆け回った柏木陽介だ。
 
 全体的に疲れも見え始めた70分頃にもカウンターで敵陣へと飛び出し、また、セットプレーで好機を演出した柏木のプレーは、アル・ヒラルを大いに焦らせ、浦和に落ち着きを取り戻させた。
 
 私の見立てでは、決勝弾を決めたR・シルバよりも柏木のほうが、英雄と呼ぶに相応しいと思える。それくらいに彼の創造的なプレーは傑出していた。
 
 日本に9年ぶりのアジアタイトルをもたらした浦和。その長きに渡る空白の時間を鑑みても、今回のACL制覇はきわめて意義が高いものだと思う。彼らは日本サッカーを前進させるために大きな成果を上げたのだ。
 
 いまはただ、浦和に携わるすべての人々に『おめでとう、よくやった』という言葉を贈りたい。

取材・文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)