永井秀樹「ヴェルディ再建」への道(6)
〜激闘のプリンスリーグ関東(後編)

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染みついた固定観念を壊して
ある意味まったく異なるサッカー感を伝えている

 2017年9月23日、高円宮杯U-18サッカーリーグ2017・プリンスリーグ関東の第14節。首位の川崎フロンターレU-18と敵地で対戦した、永井秀樹監督率いる4位の東京ヴェルディユースは0-2で敗れた。

 しかしこの試合で、永井は負けた悔しさを上回る”発見”と学び”を得たという。年代別代表に招集されたり、負傷で戦列を離れていたり、主力選手が半分ほど不在の中で、得たものとは何だったのだろうか――。

「我々指導者が最もしてはいけないことは、選手の可能性にフタをしてしまうこと。でも実際は、指導者によって、その後の可能性の芽を摘まれてしまう選手がたくさんいる。自分もそういう選手を大勢見てきた。

 例えば今日、センターバックのスタメンで起用した山下柊飛(やました・しゅうと)は、身長160cmそこそこ。指導者によっては、『おまえにセンターバックは無理だ。その身長でどうやってやるんだ』というかもしれない。でも、今日の試合で山下は、川崎フロンターレU-18のエースであり、U-17日本代表のエースでもあるFW宮代大聖を完封し、守備に関しても、ビルドアップに関しても、ほぼ完璧な仕事をしてくれた。

 結局、『身長が低いからセンターバックは無理』というのは、偏見にすぎない。身長でサッカーをするのではなくて、どれだけいい仕事ができるかどうかで、その選手のよさを判断すべき。そのうえで、その選手が最も力を発揮できるポジションであったり、役割であったりを見極めていくことが大切になると思う。

 あるJリーグの下部組織では、ジュニアからジュニアユースに昇格させる判断の基準のひとつに、今後どの程度まで身長が伸びるか、それを知るために骨密度を測定するらしい。自分から言わせてもらえば、『それって、何の意味があるの!?』って思う。(選手を)見るべきところは、もっと他にある」


ヴェルディユースで緻密な指導を繰り返している永井秀樹監督(右)

 今、永井はユース監督という立場で、未来につながる新しいヴェルディの「型」を作り始めている。そしてその「型」を作るためには、選手個々やチームの中に存在するものをすべて、一度壊してしまう必要があった。その作業はとてつもない労力を強いられるが、永井はその苦労も厭わない。

「例えば高校3年生、18歳の選手がいるとして、彼が5歳からサッカーをしていたとすれば、13年間の固定観念が染みついているわけでしょ。自分は、その彼が持つ固定観念を壊して、ある意味まったく異なるサッカー感を伝えている。だから、選手はかなり大変(笑)。

 2トップのあり方について例を挙げれば、自分は今『ワイドに張れ』と(選手に)伝えている。でも、13年間『FWはこの場所にいろ』と言われ続けてきた選手にとっては、いきなり『ワイドに張れ』なんて言われても、なかなかすぐには対応できない。純粋な心の持ち主で、柔軟性のある考え方ができる選手でない限り、染みついた固定観念に縛られたまま。

 もしグアルディオラ(マンチェスター・シティ監督)がヴェルディユースの監督になって、『いいか、キミたち、今日からFWはワイドに張りなさい』と言えば、すんなり受け入れられるかもしれない。でも自分は、選手としての実績はそれなりにあっても、指導者としては1年生。正直、選手が『えっ!? ほんとに張ってもいいのかな。大丈夫かな……』となるのもわかる。

 あと、自分は『ボールの近くに最低2人はサポートにいけ』と指導している。でも、他の指導者からは『(ボールの)近くに寄るな、離れろ』と言われてきた子たちもいる。ボールの近くに人がいくと、人(相手)を連れてきてしまうから『離れろ』と。

 そういう考え方ももちろんあるかもしれないけど、ボール保持率をコンセプトに掲げるサッカーを志向するのであれば、5m以上のパスを確実に通せない育成段階の選手たちが、(中心となる)ボール保持者である味方から離れていってしまったら、どうやってボールを保持するのか。ハイプレッシャーの中でボール保持者にプレッシャーがかかると、近くにサポートする味方がいない限り、ボール保持は難しい。だから(自分は)『近くに行け』と言うけど、ずっと『(ボールの)近くに寄るな』『離れろ』と言われてきた選手は戸惑うよね。

 そうしたひとつひとつのことをとっても、選手たちは相当苦労していると思う。頭では理解していても、実際に動いたり、プレーしたりするのは非常に難しいからね。それでも、選手たちは一生懸命理解しようとして、プレーしようと努力してくれている。これまでとはまったく違う価値観のサッカーを求められているのにね。ほんと、選手たちには心から感謝している」

 この日、永井は今のチーム、そして選手個々において、新たな発見をし、自らがすべきことを改めて学んだ。それは、今後のヴェルディ再建へ、少なからず生かされていくだろう。

自分がやることは変わらない
いいサッカーを追求し続けていく

 新しい演出を積極的に取り入れたり、ニューヨーク公演を開催したりして、「歌舞伎界の革命児」と呼ばれた故・18代目中村勘三郎氏は、生前に「勘三郎さんの演技は型破りですね」とある記者に問いかけられた際、こう答えたという。

「型があるから型破り。型がなければ、それは形なし」

 型破りとは、常識を超えたやり方や考え方。しかしそれは、基本となる型があって初めて破れる、新しいものを生み出せる、ということだ。

 永井もまた『ラモスの魂』=『ヴェルディのサッカー』というものを学び、そのサッカーを理解したうえで、それだけにとらわれることなく、世界基準となる新たなヴェルディのスタイルを模索し、基本となる型作りを考えている。

 新しい「型」を作る作業は簡単なことではなく、すぐには完成されないかもしれない。目先の勝利にとらわれないこともあるため、批判の対象にもなりやすい。しかし、目先の勝利にこだわり続けた結果、トップチームはJ2に降格し、クラブ存続の危機にも立たされた。

「2010年に羽生(英之)社長がヴェルディ再建に関わって、ヴェルディに来ていただけていなければ、今頃ヴェルディは取り返しのつかない状況に陥っていたはず。そういう意味では最大の救世主であるその社長から、愛着のあるクラブ再建のチャンスをいただけたのだから、自分のできることのすべて、貢献できることを、最大限の力を注いで取り組んでいきたい。ヴェルディがヴェルディであるための『型』を作り、そして未来のヴェルディに貢献できる選手を、ひとりでも多く育てたい。そう思っている」

 たまたま外国人選手の補強がうまくいって一時的にJ1に昇格できたとしても、その選手がいなくなった途端、勝てなくなるチームは多々ある。永井の求めるヴェルディは、決してそういうチームではない。

 9月23日、首位フロンターレU-18との試合を終えた時点で、プリンスリーグ関東は残り4試合(※11月23日時点で残り2試合)。プレミアリーグ昇格参入戦の資格を得られる3位以内に入るためには、4位のヴェルディユースはひとつも落とせない厳しい戦いが続く。

 永井は言う。

「だからといって、やることは何も変わらない。とにかく、いいサッカーを追求する。『90分間ボールを持って、スペースを支配し、ゲームを支配する。相手を圧倒して、結果的に勝つ』というスタイルのサッカー。そして、メンバーが入れ替わったとしても、常に同じサッカーができるように選手の可能性を日々探り、質を向上させていく。

 目標は何も変わらない。やり続けることも変わらない。自分を信じて、ついてきてくれる選手がいる限り、たとえメンバーが5人になっても諦めない。『そんなサッカー無理ですよ』と言われて選手が去っていき、ゴールキーパーひとりと、フィールドプレーヤーひとりの2選手しか残らなかったとしても諦めない。たとえ、0対100で負けても諦めない」

 現役から退いて、指導者になっても永井秀樹は永井秀樹のままだった。

 信念は絶対に曲げない。叶えたい夢があれば、できる限りの努力をし続ける。

「だいたい、自分の監督生活は0対15(※)の大敗から始まったわけだから」
※2017年3月29日、早稲田大学との練習試合。

 永井は食後にホットコーヒーを飲みながら、目尻を下げて口もとを緩めた。

 いつ会ってもサッカーの話しかしないし、その話が尽きない。それもまた、現役時代と同じだった。

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