育成年代の指導者に求められるものとは【写真:Getty Images】

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【連載コラム】ドイツ在住日本人コーチの「サッカーと子育て論」――年配指導者が説く“手本”の必要性

 ふと思い出した話がある。以前、ある年配のドイツ人指導者らと会食をしていた時のことだ。他愛のないことをみんなでわいわい話していると、1人の男性がふいに、最近入ってきた若い同僚が使えないと、職場での愚痴を吐露し始めた。

「まだ経験がないんだからミスをするのは分かるが、そのミスを認めようとしないんだ。ふくれてばっかり。『最近の若い奴らは……』って、俺たちも言われてきたけど、今の若い連中も『まったく、最近の若い奴らは……』だ」

 それを聞いた周りのほとんどの人がこれに同意し、口々に「いや、ウチの職場でも……」とか、「本当に年上に対するリスペクトがないよね」とこぼし出した。

 すると、それまで黙って耳を傾けていた年配指導者がそっと口を開いた。

「最近の若い奴らは……、か。なるほど、たしかに若者、少年たちの中には、他人に対する態度ができていない者がいるな。リスペクトの気持ちを感じさせない者もいる。しかし、では、彼らはどうやってリスペクトをすることの大切さを学ぶべきだと思う? 年配者が率先して他者をリスペクトし、コミュニケーションを取ることの大切さを見せないで、どうやって若者がそれを知ることができるだろうか?」

「何が分からなくて困っているのか」を子供の立場に立って考える姿勢が大切

 一瞬でその場は静まり返り、切り出した男性もバツが悪そうにグラスをいじっていた。すると、年配の指導者はニコッと笑い、「こじれた距離を詰めるにはこれが一番だ」といって乾杯の音頭を取り、また和やかな雰囲気が戻ってきた。

 これは育成年代の指導にとても必要なものではないだろうか。指導者も、両親も、関係者も、「何も分かっていない」「なんでできないんだ」と上の立場から見下ろしていては、永遠にその距離は縮まらない。

「何が分からなくて困っているのか」

 子供の立場に立って考えられる姿勢が大切なのだ。

 ヨーロッパでは小さい子供の指導者ほど、経験豊富な年配の指導者が務めることが多い。言葉だけでは伝えられないこの年代の難しさを知り、彼らの立場に立つことができ、彼らが心から欲しているものへのヒントを与えることができるからだ。

 それぞれの個性を尊重し、相手の目線に合わせて自然としゃがみこんで話を聞き、彼らなりの理屈にもしっかりと耳を傾ける姿勢を持つためには十分な経験が必要だろう。輪から離れた子にそっと声をかけてあげる心配りが、「僕は1人ではないんだ」という安らぎをもたらしてくれる。