スウェーデンがイノベーションを生み出す秘密とは?(撮影:梅谷秀司)

世界有数の福祉国家でありながら、イケアやスカイプといったグローバル企業を生み続ける国、スウェーデン。日本人があこがれる国の1つといっても過言ではないかもしれません。
彼らはいかにして今の状況を作り上げてきたのか。スウェーデン大使館、科学・イノベーション参事官のニクラス・クヴィセリウス博士に聞きました。

ステレオタイプや偏見を持たせない環境


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――スウェーデンはイノベーションランキング2017で世界2位、『フォーブス』にBest Country for Business(ビジネスをするのに最適な国)で1位に選ばれました。イケア、スカイプ、マインクラフトなど名だたるグローバル企業がスウェーデンをベースとしています。グローバルとイノベーション。世界の国々が求めているものをどうしてスウェーデンは成し遂げられているのでしょうか。

その1つは「Tolerance(寛容性・耐久力)」にあると思います。イノベーションを起こすためには、さまざまな意見と視点が生まれる多様性が重要ですが、寛容なことは多様性があるチームで働くときにとても大切なことです。

まず、スウェーデンには小さい頃から男の子、女の子、肌の色、宗教に対してのステレオタイプや偏見を持たせない環境があります。

男の子は青、女の子はピンクというような固定観念はなく、親はさまざまな色を子どもに着せます。洋服でもおもちゃでも、お店であからさまに男の子向け、女の子向けというディスプレーはされません。

学校教育が担う役割も大きいです。学校ではスポーツやアクティビティはすべて男女混合で行います。肌の色、宗教、LGBTも関係ないことをきちんと理解をするために、物事に偏見がない小学生のときからさまざまな宗教や世界の地理を学び、移民や宗教関係の人に話をしてもらうこともあります。

私が高校のときにはLGBTの人が学校に来て、「自分のままでいいんだよ!」ということを話してくれましたよ。そのような環境から自然と寛容性が身に付くのです。

こうした意識がそのまま社会に出ても保たれており、スウェーデンでは男女、子ども、LGBT、マイノリティ、障害などすべての人に平等の権利が与えられています。逆に言えば人口が少ないので、みんなが力を合わせて働くことが当たり前なのです。移民も好意的に受け入れ、優秀な即戦力として働いています。スウェーデンの企業といっても、スウェーデン人が創業者でないこともあるのですが、そんなことも気にしません。多種多様な文化や価値観を受け入れる土壌が、より広い視野で物事を動かしていく力になります。

イノベーションには考える力も大切です。小学校から大学までクリティカルシンキングのスキルも重要視され、取り入れられています。スウェーデンはとても教育レベルが高く、1477年にはすでに大学がありました。大学ではただ座って講義を聴くということは少なく、グループディスカッションなどで意見を言い合い、アクティビティを行うことでチームワークを身に付けることが多く行われます。「きみはどう考える?」ということをつねに問いかけられるのです。小学校から大学までクリティカルシンキングや、Creativity(創造性)を養う教育環境があり、社会に出る頃にはこれらの素養がしっかりと身に付いています。

英語を話せるのが当たり前な理由

――日本では就学前と小学校ではCreativityを養う教育がまだありますが、中学校、高校と上がるにつれて受験に向けた詰め込み教育の比重が増し、その素養が残念ながら失われていきます。ところで、スウェーデンは2016年の世界英語能力ランキングで3位と、英語でのコミュニケーションも普通に行えますよね。


スウェーデン大使館、科学・イノベーション参事官のニクラス・クヴィセリウス博士(撮影:梅谷秀司)

はい、英語にまったく問題がないというのが、グローバル企業が多い理由の1つにあると思います。

スウェーデンの人は英語が話せるというのが当たり前です。映画やテレビ番組などをスウェーデン語に訳すほどマーケットが大きくないため、英語のまま放送されています。テレビ・映画・本などが英語で周りにあふれていますので、普段の生活の中で英語に親しむ環境があり、大学生になる頃には流暢(りゅうちょう)に英語を話すようになります。

移民を受け入れているということも、英語が伸びる理由かもしれません。移民の人はスウェーデン語を話さない人もいますので、目の前にいる人がスウェーデン語を話すかどうかはわからないのです。必然的にグローバル言語である英語が必要になります。ネットでこれだけ情報が得られる社会では、英語ができることで世界中の情報を得ることができます。また、自分たちの商品を最初から英語で作ることで、発信できる先も一気に広がるのです。

――日本はまだマーケットが大きいので、国内で売ることを前提として商品は企画され、日本語のみで記載されていますね。

スウェーデンでは逆にスウェーデン語のみで記載されている商品を見ることがほとんどありません。ゲームなども盛んですが、すべて初めから英語です。英語で作っているため、世界中をマーケットとしてビジネスを展開できるのです。

スウェーデンでは、ビジネスを立ち上げたときに最初から世界で売ることを考えて企画します。「どうしたら新しいマーケットを生み出し、グローバル展開できるか」を考えるのです。そのときに小さい頃から育まれた多様性への寛容と、考える力などが役立ちます。

国を挙げてイノベーションを応援

――イノベーションというとまずアメリカのシリコンバレーが頭に浮かびますが、2015年には評価額10億ドル(約1200億円)以上のベンチャー企業は5割がシリコンバレー以外で起業されています(英ベンチャーキャピタル・アトミコ調査)。その中でもスウェーデンは過去10年に設立された企業数が3位ですね。


イノベーションについて語るニクラス・クヴィセリウス博士(撮影:梅谷秀司)

スウェーデンではイノベーション庁があり、国を挙げてイノベーションに力を入れています。民間でも、スウェーデンでは会社から飛び出して起業したいという人を応援する土壌があります。成功した企業がスタートアップとしてこれからビジネスを拡大したい企業を応援する「エコシステム」があり、成功が成功を生み出す好循環を作っています。

これによって成功したゲーム会社などもたくさんあります。多様な価値観を持つ人が集まって考え、挑戦して失敗から学ぶというイノベーションが起こる要素があり、そしてその挑戦を社会全体が応援する流れがあるのです。

――若者は失敗を恐れたり、安定を求めたりしないのですか。

国の経済が安定していますし、職を失ってもセーフティネットがあります。学校の授業料がすべて無料なので、子どもの教育などの金銭的な懸念をすることなく安心してリスクをとることができます。

――子どもといえば、働き方がとても効率的なので、共働きでも子どもの世話もできますね。ビデオミーティングなども多いと聞きました。

広い国土に人が散らばっている中で効率的に働くために、デジタルコミュニケーションやモバイルコミュニケーションが早くに発達しました。スカイプが立ち上がったのもそうした背景があります。会社ではビデオミーティングは当たり前に行われており、大使館でもよく行いますよ。

「何がいちばん効率的か」を考えたときにわざわざ全員が同じ部屋に集まらなくてもビデオ会議を行えばいいのです。日本の方がスウェーデンの会社で働くと、ビデオ会議の多さにびっくりされるかもしれませんね。地方でもネットはつながっていますし、コンピュータリテラシーが高いので、都市部、地方関係なくスウェーデン全土でビデオ会議が行われています。

そして働く時間も、出社・退社時間が厳しく決められておらず、1日に働く時間数のみ決められています。自分のスケジュールに合わせて午前7時に来て、午後3時に帰ってもよいのです。子どものお迎えなどもあるので、そういう働き方が自然です。

――そうなると結果が重視され、一人ひとりの能力の高さが求められますね。

はい、それはそうです。創造性も考える力も教育の中で育まれてきていますから社会人になってすぐに、アイデアを出して会社で責任をもって仕事ができます。

結果は重視されますが、スウェーデンの言葉で「Lagom」というものがあります。「Just right(ちょうどよい)」という意味でしょうか。気楽にいけばいいんじゃない?というものです。そういう気質がスウェーデン人にはありますから仕事だけにのめり込まずに、プライベートも充実させていますよ。

世界をフィールドとして物事を考える人たちと一緒に

――スウェーデン発の世界企業としてIKEAがありますが、シンプルなデザインとリーズナブルさを追求し、さらにクオリティも妥協しない。それもスウェーデンの人の気質を表しているのでしょうね。世界で競争力を高めていくためには、古い慣習や価値観に縛られていては変化できませんね。

そうですね。スウェーデンで働けば古い価値観に縛られるということはありません。

スウェーデンで働くこともいいですが、その前の段階として大学に通うこともおすすめします。都市部はもちろんのこと、地方でも英語で授業を行っている大学がたくさんありますので、英語で、かつ安い学費で世界に通用する教育を受けることができます。当たり前に世界をフィールドとして物事を考える人たちとディスカッションやワークショップを通して学ぶことができ、その後就職すると世界をマーケットとしたビジネスを行うことができます。

スウェーデンは世界の縮図ともいわれており、グローバル企業が新しい製品を開発する際にスウェーデンでテストを行います。スウェーデンにいれば世界のさまざまなデータの近くにいることができ、それらが英語で入手できます。ただし、寒いのだけは覚悟してくださいね。


スウェーデンの木馬(撮影:梅谷秀司)

――グローバルビジネスを立ち上げたい人はスウェーデンに行って多様な仲間をつくり、世界に向けてビジネスを展開していくチャンスをつかんでほしいですね。