【ライターコラムfrom名古屋】佐藤寿人と佐藤勇人…J1昇格を懸けた史上最大の“兄弟げんか”が始まる

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 彼ら史上最大の“兄弟げんか”が始まる。言うまでもなく、彼らとは佐藤寿人と勇人の双子Jリーガーである。今季は名古屋グランパスのホームゲームで実現した二人の兄弟対決は、ジェフユナイテッド千葉が3−0と圧勝したことで勇人に軍配が上がる形となった。既に第3節で千葉での対戦は済んでいたので、久々の顔合わせは勇人の勝ち逃げで終わるかと思いきや、何の巡り合わせかはたまた運命か。寿人はリターンマッチの機会を今季の内に手にしている。J1昇格プレーオフで3位の名古屋の相手は土壇場で6位に滑り込んだ千葉に決定。「大きな大きな兄弟げんかになります」と、寿人は笑い、「両親や僕らの妻は相当複雑な気持ちでしょうね」と家族を思いやった。

 複雑なのは寿人もまた同様、いやそれ以上かもしれない。自身のキャリアはJ1での通算得点記録を始め、三度の優勝など煌びやかに飾ってきた一方で、勇人のそれは苦難の連続だった。2010年から続くJ2暮らしの中で、昇格を逃した経験は一度や二度ではない。「今まで千葉の昇格を願ってプレーオフを見てきて、記憶が正しければ2回、決勝で千葉が敗れています。そこで兄のJ1復帰に対する思い、千葉に対する思いは他の誰よりも知っているので、それを阻まなければいけないというのは複雑と言えば複雑」。今までなら純粋に喜び、頑張れと兄の背中を押せたところだが、まさか自分がその対戦相手になろうとは、思ってもみなかっただろう。

 しかし百戦錬磨のストライカーは、私情を勝負には持ち込まない。「でも、もう十分でしょう」。今季、千葉には2戦2敗で2試合合計0−5と手も足も出ていない。「ウチは千葉に勝ち点6も与えている。そろそろ僕らが千葉から奪わないと」と、手心を加えるどころか全力で叩き潰しに行くつもりだ。第41節での惨敗を受け、チームはより根本的な部分での整備を重ね、その結果として最終節のカマタマーレ讃岐戦を無難に勝ち抜いてもいる。「ジェフ戦で悪かったことを消化してできたのが良かった」と寿人は言い、今週は全日非公開となったトレーニングの中でもやるべきことをしっかり整理していくと意気込んだ。左サイドハーフがすっかり板についたこの終盤戦、彼は守備面での貢献度も含めてチームを力強くけん引してきた。ゴール前で仕事をしさえすれば良かったサンフレッチェ広島時代の、王様然とした寿人は名古屋にはいない。そこには、「常にチームのために戦えるのが楽しい」と充実した表情を浮かべる、ベテランのサッカー小僧が活き活きとボールを追いかけ、ゴールを狙っている。

 兄に仕返しを目論む弟のプレーやいかに。彼らのマッチアップは、これまで以上に激しい肉弾戦となるかもしれない。

文=今井雄一朗