教えて! 尚子先生 ロヒンギャ問題とは何ですか?

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最近、メディアでも取り上げられることの多い「ロヒンギャ問題」。イスラム教を信仰するミャンマーの少数民族ロヒンギャにいま何が起こり、なぜあれほどの難民が発生したのか? 日本では珍しい女性の中東研究家として活躍する岩永尚子先生がわかりやすく説明します。

 60万人を超えるといわれる難民が発生した事件の発端は、今年8月25日にロヒンギャ(Rohingya people)の武装勢力が、警察などへの攻撃を行なったことでした。ミャンマー軍の治安部隊はその報復として、武装勢力だけでなく、ロヒンギャの人々に対しても容赦なく掃討作戦を行なったために、難民が大量に発生しているのです。

 60万人と聞くと「すごい数……」とは感じますが、なかなか実感がわきません。どれくらいになるのか、日本で人口60万人規模の都市を調べてみました。すると、埼玉県の川口市(約58万人)、鹿児島市(約60万人)、千葉県の船橋市(約62万人)などが該当していました。これらの都市の全員、赤ちゃんから老人に至るまですべてが、難民となっていたのだと考えると、あらためて壮絶さが実感できるかと思います。

 一連のミャンマー軍の報復について、国連の人権高等弁務官は、「民族浄化の典型例だ」と非難していますが、なぜ、このような悲惨な状況になっているのでしょうか? そもそもロヒンギャとは、どのような人々なのでしょう? ミャンマーの歴史を振りかえりつつ、彼らがどのように位置づけられているのかなどについて説明し、現在の状況についてまとめてみたいと思います。

イスラム教を信仰する少数派

 そもそもロヒンギャとはどのような人々なのでしょうか? おもにロヒンギャはミャンマー西部、バングラデシュと国境を接しているラカイン州に居住しています。人口は正確に把握されていませんが、100万〜130万人程度(世界中では約200万人ぐらい)といわれています。

 彼らはベンガル地方(現在のバングラデシュ)に起源を持ち、ロヒンギャ語(ベンガル語のチッタゴン方言のひとつ)を話しています。ロヒンギャ語では、ミャンマーの人々の約7割が話すというビルマ語とは、相互に理解しあうことは困難です。ロヒンギャ語の書き文字は、アラビア文字をもとに、ビルマ文字やウルドゥー文字も利用しつつ、1980年代になってから確立されたそうです。
 
 また、彼らはミャンマーの他の人々とは異なった身体的特徴を有しています。やや浅黒い肌の色、そして彫の深い顔立ち(私たち日本人がインド人やバングラデシュ人といわれて思いつくような顔立ち)をしています。
 
 つまり、ロヒンギャはミャンマーの多数派からみると、言語からも見た目からも、明らかに「他者」と感じられる人々なのです。
 
 さらに、ミャンマーではおおよそ9割の人が仏教徒だといわれています。ところが、ロヒンギャは仏教徒ではありません。ミャンマーの少数民族の中にはイギリス植民地下にキリスト教徒となった人々の例もありますが、ロヒンギャの人々はイスラム教を信仰する少数派です。

 ロヒンギャが「ロヒンギャ」という語を用い、「民族」として文書史料に登場するのは1950年以降だといわれています。「民族」としての自覚が芽生えたのは最近であったとしても、ロヒンギャの祖先たちと考えられるイスラム教徒たちは、15世紀にはすでに現在の居住地域に存在していたことがわかっています。

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