紀平梨花、西日本ジュニア選手権でのショートプログラムの演技

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11月24-26日、群馬県前橋市にて全日本ジュニア選手権が開催される。毎年、注目選手が鎬を削る大会だが、今季は特に女子の戦いが熱い。紀平梨花という次世代のエース候補が現れたことに加え、他にも世界のトップを狙えるホープが多数いる、レベルの高い大会となる。まずは女子の西日本勢からご紹介したい。

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■ 次世代のスター候補、大本命は紀平梨花!

福岡市で開催された西日本選手権、すべてのカテゴリーを含めても、紀平梨花が大会の主役だったと言って過言ではないだろう。日本のジュニア女子勢で唯一、12月に名古屋で開催されるジュニアグランプリファイナルへの出場を決めている。

昨シーズンの紀平梨花は、その能力の高さは誰しもが認めるところではあったものの、今一つ安定感に欠けるきらいがあり、昨年は全日本ジュニアで惨敗。シニアの全日本選手権、そして世界ジュニア選手権に駒を進めることなく、不本意な形でのシーズン終了となってしまった。しかし今季は大きく成長した姿を見せ、次世代エースの名にふさわしい活躍を見せているのは周知の通りだ。

紀平梨花といえば、とかくトリプルアクセルへの挑戦ばかりが取り沙汰され、さぞやプレッシャーになっているのではないかと心配になるほどだった。ところが本人は「トリプルアクセルの人、と見られていることを感じているので、成功を見てもらって、凄かった、感動した、と言ってもらいたいんです」と意に介さない大物ぶりだ。昨シーズンはトリプルアクセルの失敗も何度も経験したが、そこから多くを学んだようだ。「緊張すると、足が開いてしまってトリプルアクセルを失敗することが分かりました」また昨年は、トリプルアクセルを跳ぶときのカメラのシャッター音が気になっていたという。それが今年は「集中していると気になりません。シャッター音が気になるときは、集中できていない時。トリプルアクセルの直前はアクセルのことしか考えないように、集中することを心掛けています。集中さえしていれば跳べるようになりました」とメンタル面での成長も著しい。また紀平選手は、氷のコンディションをとても気にする繊細な面がある。特に柔らかい氷では実力を発揮できないことが多く、昨シーズンの不安定な成績は、氷へのアジャストに手こずったことも要因の一つだった。この点も、解決策を見出したようで、

「今も氷の違いは感じてしまいます。ただ昨シーズンに比べ、氷に合わせるのがだいぶ上手くなってきたかなと思います。感覚がいい時だと合わせるのも早いんです。完璧な状態でリンクに行くと、合わせるのも苦労が少ない」

と語ってくれた。そして彼女は、将来のフィギュアスケートの形をイメージして、今から先を見据えた取り組みをしている。

「これからトリプルアクセルを跳ぶ選手は増えてくると思います。アクセルを1本だけではなく、2本跳ぶ、さらに4回転にも挑戦します」

それが先々を見据えた彼女の結論なのだ。女子シングルの世界は、浅田真央を例外として、他の選手は5種類、7トリプルの枠内で、いかに加点を稼ぐかを競ってきた。そんな時代はもう終わる。紀平梨花が、新時代を切り拓くのだ。

西日本選手権でのフリー演技、大げさでなく、歴史に残る演技となった。3アクセル+3トウループ、そして2回のトリプルアクセル成功。ループジャンプでミスをしながらの195点。ジュニア世代にしての200点超えも現実味を帯びてきた。今回の全日本ジュニア、もちろん紀平梨花が優勝候補なのは間違いないが、そんなところで留まる選手ではない。大げさでなく、浅田真央の後継者がようやく現れた。そのことを確認できる大会となるだろう。

■ 西日本選手権では圧巻の演技!本調子を取り戻した山下真瑚

紀平梨花の陰に隠れてしまった感があるが、山下真瑚の西日本選手権での演技も素晴らしいものだった。ジュニアグランプリシリーズではファイナル出場を逃し、悔しい思いをしたが、ここに来て本調子を取り戻した印象だ。

「ルッツ+トウも跳べない時期がありました。特にフリーがうまく行っていませんでした」

今季、山下選手はフリップジャンプのエッジエラーの矯正に取り組んでいる。そのことがパフォーマンス全体を崩している面もあるようだ。この試合でも練習ではフリップジャンプに苦労していた。

「インエッジを意識するとうまく跳べない。本番は、インとか何も考えずにいつも通り跳ぼうと考えました」

とのことだ。どうやら試合本番ではエッジを気にせずに跳んだようだ。そのため、エラーやアテンションが付いてしまうのだが、エッジを気にして転倒するよりは良い、と割り切っている様子だ。

ジュニアグランプリで2戦戦ったことで、改めて練習に取り組むモチベーションを得たようだ。「ロシア勢など、強い選手達に負けないようにもっと練習します。海外の選手はジャンプまでの入りのステップ、つなぎが上手でした」。地元、名古屋のファイナル出場は逃したが、補欠1位のため、今でもひょっとしたら、という期待はある。しかし本人からは「たまたま行けるよりも、ちゃんと行きたい」との言葉。来季はしっかりと6位までに入ってもらいたいものだ。全日本ジュニアでは、西日本選手権を超える演技を期待したい。

■ トリプルアクセルに挑戦する選手がもう一人!滝野莉子

近畿ブロックでは、悔し涙を見せる場面もあった滝野莉子。そこから西日本選手権までおよそ1か月。しっかりと立て直してきた姿があった。

ブロックでは、トリプルアクセルへの恐怖心を率直に吐露していた。けれどもこの試合ではしっかりと挑戦することができた。

「逃げてばかりでは怖いという気持ちもなくなりません。試合で挑戦することで恐怖心を克服しようと決めました。練習を重ねることで、少しずつ恐怖心もなくなってきているので、乗り越えられると信じて練習しています」

このひたむきな姿勢。女子選手にとってのトリプルアクセルが、どれほどの難度か。恐怖心を感じるのがむしろ当たり前なのだろう。背が伸びたことのジャンプへの影響は克服しつつあるようで、練習はとても良かったのが印象的だった。身長について聞いてみると、「朝、計ったら147cmあります!」と背が高くなったことをアピールしていた。

「全日本ジュニアでトリプルアクセルを入れるかどうかは先生と相談して決めますが、仮に入れなかったとしても練習はしっかり続けていきたい」

試合でクリーンなトリプルアクセルを見られるのも、そう遠くはないことだろう。

■ 今季、注目を集める台風の目!荒木菜那

今季、ジュニアグランプリでの飛躍振りは見事なものだった。ベラルーシ大会では2位、イタリア大会で4位。一躍、世界で名前が知られたシーズンとなっている。だがそれも、昨年の西日本選手権での惨敗から始まっていたようだ。

「去年は西日本でショート落ちをしました。その悔しい思いを胸に、もうこんなつらい思いはしたくないと、練習を積んできたんです」

その後、今年の全国中学校大会で見事な復活を遂げ、一躍トップ選手の一角を占めるまでになったのだ。「緊張はしますが、以前よりも試合を楽しんで滑ることができるようになりました」と、メンタル面での成長も大きい。

今季のファイナルは、地元、名古屋で開催される。華々しい活躍を見せた荒木選手だが、ファイナル出場にはあと一歩、届かなかった。

「悔しいことは悔しいんですが、初めての海外試合で、自分でもこんなにいい演技ができるとは思っていなかったんです。点数も高くてびっくりしました。来年はファイナルに出られるように頑張りたいです」

と、悔しさよりも充実感をより強く感じるシーズンとなっているようだ。

取材の最後に、記者から趣味の料理について尋ねられる一幕があったのだが、「チキン南蛮が好きです。味には自信があります!」と意外な答えが返ってきた。腕前に自信があるようだが、趣味にも時間を割くことができる、充実した生活を送れている証左でもあるだろう。今回の全日本ジュニア、当然表彰台争いが期待される。

■ 信念を持ってトリプルアクセルに挑戦し続ける、横井ゆは菜

横井ゆは菜もトリプルアクセルに挑戦し続けている選手だ。ただこの西日本選手権ではいくつものミスが散見し、納得の行く演技とはならなかった。今年の国体ではトリプルアクセルを抜いてパーフェクトを目指す構成を試したこともあったのだが、本人はトリプルアクセルに挑戦し、なおかつノーミス、という演技にこだわりがあるようだ。全日本ジュニアで、そんな演技を是非とも拝見したいものだ。

■ 復調の兆しが見られた、岩野桃亜

昨年は全日本ノービスで表彰台。ただ今季は初めてのジュニアで苦労している印象だ。西日本選手権に向けて、彼女は練習の仕方を変える工夫をしてきたという。

「試合で不安にならないように、自分が積み重ねてきた練習内容を信じられるように変えてきました」

回数を多くこなす練習が苦手なタイプだとのことで、「自分でもやらなきゃいけないとは分かっている」が、これがなかなかできないとのこと。そこで、コーチとも相談し、効率の良い練習方法を模索しているようだ。それが効を奏したのか、西日本選手権のフリー演技では久々に素晴らしいパフォーマンスを披露。復調の兆しが見えた大会となった。

■ 昨年の全日本ジュニアの再現が見たい!笠掛梨乃

昨年の全日本ジュニアでの演技は衝撃だった。それまで、とてつもないスピードの持ち主であることは良く知られていた選手だったが、ミスが多く、上位に来ることはあまりなかったのだ。それが昨年、札幌での全日本ジュニアではノーミスの圧巻の演技。特にフリー後半に高難度のジャンプを集めた構成をこなしたことは見事だった。4位に入賞し、全日本選手権にも出場を果たした。今季はジュニアグランプリにも出場。西日本選手権の段階では本調子ではなかったようだが、相性の良い全日本ジュニアに向けて調子を上げてくることだろう。最近のジャンプのミスは、スピードをコントロールできていないようにも見えていたのだが、本人曰く、「スピードではなく、気持ちのコントロールができていない」とのことだ。「以前は順位を気にし過ぎていましたが、今は自分の演技をすることを心掛けています」。世界ジュニア出場を目標に掲げる今季、そこにつながる演技を期待したい。

【東海ウォーカー】(東海ウォーカー・中村康一(Image Works))