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「フラリーマン」という言葉がある。退社後、まっすぐ家に帰らず、カフェなどで時間を潰す男性のことだ。その背景に「妻からの暴力」があるケースも少なくないようだ。ある調査によると、自宅で心理的攻撃、身体的暴力、経済的圧迫、そして性的強要を受けた30代の割合は、女性より男性のほうが高かった。会社では上司からパワハラを受け、自宅では妻からイジメられる。そんな30代男性の現実とは――。

■大企業の社員ほどパワハラ被害にあっている

仕事への意欲を失わせ、精神的不調をもたらすパワーハラスメントの件数が増え続けている。

厚生労働省がまとめた全国の「民事上の個別労働紛争相談件数」の「いじめ・嫌がらせ」の件数は2002年の6627件から右肩上がりに増え続け、2016年度には7万917件(前年度比6.5%増)に達している。

また、厚労省が2016年7月から10月かけて実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」(2017年4月28日公表)では、過去3年間にパワハラを受けたことがあると回答した従業員は男女平均32.5%。4年前の2012年に比べて7.2%増加し、3人に1人の割合となっている。

▼侮辱、仕事の妨害、仲間外し・無視……

しかも大企業ほどパワハラ被害者は多い。従業員1000人以上の企業で過去3年間にパワハラ受けた人は34.8%に達している。その中で「何度も繰り返し経験した」人は7.6%だ。

では、どんなパワハラを受けたのか。最も多いのが「脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言」で約20%。続いて「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害」、「隔離・仲間外し・無視」の順になっている。

■30代の38%の夫は妻から心理的・身体的暴力を受けていた

男であれ女であれ、職場でパワハラを受け精神的苦痛を負っている人にとって、家庭こそ“癒しの場”になるはずだ。しかし、その家庭でもいじめなどのハラスメントを受けている人が少なくない実態も浮かび上がっている。

労働組合の中央組織の連合の調査(「ハラスメントと暴力に関する実態調査」2017年11月16日発表)では、婚姻経験者を対象に配偶者から暴力を受けた経験があるかを聞いた。

その結果は、配偶者から暴力を受けたことがある人は31.6%。約3人に1人が経験している。その内訳は「心理的攻撃」24.4%、「身体的暴力」14.8%、「経済的圧迫」13.9%、「性的強要」9.8%となっている。

▼「性的強要」を配偶者から受けた率 30代妻12.5% 30代夫21.4%

この調査では、さらにショッキングな結果も判明した。暴力を受けたのはほとんどが女性だと思いがちだが、男女比では女性37.1%に対し、男性も26.1%と高い割合を示していたのだ。

しかも驚くことに若年世代に限ると、男女比が逆転している。10、20代で暴力を受けたのは男女ともに33.1%だったが、30代では女性35.4%に対し、男性は38.1%だった。妻に暴力を受ける夫はかなり多いのだ。

例えば、「身体的暴力」を受けたのは10代・20代女性が19.0%なのに対し、男性は25.0%。30代では女性が14.6%なのに対し、男性は23.8%と大きく上回っていた。また「経済的圧迫」を受けたことがある30代女性が18.8%なのに対し、30代男性は23.8%もいる。稼いだ給与を妻が管理し、自由に使える小遣いが少ないということだろうか。

さらに「性的強要」を受けたことがある30代女性が12.5%なのに対し、30代男性は21.4%も存在する。この比率は他の年代に比べて突出している。30代の男性は「心理的攻撃」「身体的暴力」「経済的圧迫」「性的強要」のいずれにおいても女性より暴力を受けているのだ。

会社では戦力の中核であり、負わされる責任も重いが、家庭が癒しどころか、苦痛を受ける場になっている人が少なくないことがわかる。

■上司と妻にいたぶられた30代社員の「フラリーマン化」

ここで、思い出すのが「フラリーマン」という現象である。仕事が終わっても家にまっすぐ帰らずに寄り道をするサラリーマンのことだ。「働き方改革」の残業削減で早い時間に退社しても家に帰りたがらない人が増えているのだという。

NHKの朝のニュース番組「おはよう日本」が、この現象を取り上げたところ大きな反響があった。番組内では退社後にゲームセンターやカフェで過ごす男性サラリーマンが紹介されたが、家に早く帰らない理由として「早く帰っても家事のじゃまになるから」とか「子ども中心に回っている家は居心地がよくないから」と話していた。

家事と子育てを引き受けることの多い女性にとっては噴飯もので、ネットでも女性側から「はらわたが煮えくりかえる」「殴ってやりたい」という恐ろしい非難の声が上がっていた。

だが、会社でストレスがたまっても、先の調査のように家庭で苦痛を受けている男性も少なくないことを考えると、家に帰らずにフラフラと漂流したくなるのも理解できる。

▼上司や妻がいない場所が、一番「安全・安心」

家に帰りたがらないフラリーマンがどれだけいるのかわからないが、近年のサラリーマンの残業時間は減っている。Vorkersの『10万人の社員のクチコミによる「働き方改革」検証』(2017年10月19日発表)では月間平均残業時間は2013年の45時間から2017年は32時間に減少している。13時間も減っているのだから当然、その分早く帰宅することができる。

だが、残業時間が減少すれば“第2の給与”である残業代も減ることになる。筆者が厚労省の統計をもとに試算した30代正社員の1時間あたりの平均割増残業代は約2800円。13時間だから月に3万6400円の減収になる。これだけ減ると家計のやりくりも大変だろう。

妻からグチをこぼされ、「経済的圧迫」を受けて小遣いをさらに減らされている人もいるかもしれない。テレビに登場したフラリーマンたちの中には、カフェで過ごすか、ベンチでたたずんでいる人もいた。

もし小遣いが減らされているとすれば、仕事後にたまに羽目をはずして飲み食いするといったプチ贅沢も許されないに違いない。会社からまっすぐ帰宅せずに途中下車して、ただフラフラすることが唯一の癒しの時間であり、誰からも危害を加えられない安全安心な時間なのである。

(ジャーナリスト 溝上 憲文)