五神真氏

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 2017年度に始まった世界最高水準の教育・研究と社会還元を目指す「指定国立大学法人」制度。第1弾として指定されたのは東京大学、京都大学、東北大学だ。3大学は日本の大学の財政基盤やガバナンス(統治)を世界トップクラスの大学に近づけ、イノベーション創出に貢献する存在へと変える先駆者としての役割を担う。

 ―指定国立大学法人構想のポイントは。
 「自ら高い目標を設定し運営の自律性を高める中で、世界最高水準の教育研究に加え、イノベーションを通じて社会変革を担うことが求められる。そこで全学で議論し、目標を『地球と人類社会の未来に貢献する知の協創の世界拠点の形成』と定めた。国連の持続可能な開発目標(SDGs)も参照しつつ、より良い社会の姿を具体的に示し、大学が変革の駆動力となり、人類社会全体の調和的発展に貢献する」

 ―従来型の産学連携ではなく、企業とともに未来社会の議論と創造を行う“産学協創”を掲げています。
 「産業界は『何に投資すべきか』に悩んでいる。社会が大きな転換期にある中、大学と企業が対等に議論し、東大が産業界にとって価値を生み出す存在となり、産学で社会変革を加速させる」

 ―本当に大学が産業界をリードできるのでしょうか。
 「超スマート社会への転換により、産業的価値の重点がモノから知識へと大胆にシフトする。知・技・人材・情報インフラを蓄積している大学は、知識集約型産業創出の最適地となるはずだ」

 ―東大の年間事業費約2600億円に加えて計画する新財源の目的は。
 「04年の法人化以後、運営費交付金の減少、安全対応など管理コスト増により、基盤財源を年間200億円以上失った。任期のない40歳未満の教員は、10年間で520人も減り、国際競争力低下を招いた。新しい学問を創ることに挑戦するには若手雇用の安定化が不可欠だ。予算配分の透明化を全学で徹底し効率化することと財源の多様化を進める。雇用制度を改革し、300人の若手の正規雇用枠を生み出す。既に成果が出つつある」

 ―財源創出の方法は。
 「運営から経営への発想転換が基本だ。大学を社会の公共財と捉え、大学が生み出す社会的な価値を可視化し、投資を呼び込む。また、重要施策の一つがインキュベーション施設の拡充だ。延べ床面積で合計1万平方メートル以上とし、ベンチャー企業の創出や大企業との連携の拠点とする。さらに、土地活用、寄付強化により、安定的で自律的な経営基盤を獲得し、21年度までに、まず実質100億円程度の財源を生み出す計画だ」
(聞き手=山本佳世子)
【略歴】ごのかみ・まこと 83年(昭58)東大院理学系研究科博士課程退学、同年東大理学部助手。88年工学部講師。90年助教授。98年院工学系研究科教授。10年院理学系研究科教授。12年副学長。14年院理学系研究科長・理学部長。15年総長。理学博士。東京都出身、60歳。
自律促進のリード役
 指定国立大学法人制度は各大学が人材獲得、分野融合や新分野創出に向けた研究強化、財務基盤強化などについて海外大学の取り組みを踏まえて目標を設定。産業社会にインパクトを与える研究成果を発信し、学外から資金を集めて研究活動の好循環を目指す。

 もともと国立大を法人化したのは運営の自律化を促すため。「本来の狙い通り自律してもらう」(文部科学省高等教育局)べく、指定国立大学法人をリード役とする。

 東大の計画は起業支援などで、100億円程度の財源を生み出す。その財源は若手研究者の支援などに充てる。

 京大は18年度に、研究成果を生かしたコンサルティング事業会社を設立する。東北大は今春開設の「青葉山新キャンパス」に約4万平方メートルの「サイエンスパークゾーン」を設置して、産学連携のパートナー企業を誘致する。