11月17日、安倍晋三首相が特別国会で所信表明演説を行った。

 「安定的な政治基盤の下、政策をひたすら実行せよというのが総選挙で示された国民の意思」であると述べ、北朝鮮問題、少子高齢化問題などを挙げ、これを成し遂げるために知恵を出し合って憲法改正する必要があると述べた。

 しかし、野党は先の国会終盤から閉会中審査まで開いた加計学園問題を引き続き問い質すとしている。安倍政権打倒を狙っているのであろうが、所信表明で首相が述べたように民意は日本の安全や将来の在り方に焦点を移している。

 加計問題を論議するにしても、獣医学部新設を半世紀以上も認めなかった岩盤規制が日本の現在と将来に及ぼしている影響に論点をもっていくべきである。また、加計問題を奇貨として、岩盤規制に限らず、緩和し過ぎた弊害などについても論戦すべきである。

 筆者は既に、JBpressで「加計学園問題の審議はもう不要、安全保障論議を! 行政は歪められたのではなく正された、前川喜平氏こそ問題の中心」を公開しているので参考にしてほしい。

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確認すべきは文書の出所

 国会では前川氏が持ち出してきた文書を中心に論戦が繰り返されてきた。しかし、「何時、誰が、なぜ・・・」書いたか、即ち5W1Hが確認されていない。萩生田光一官房副長官などが記述内容の誤りも指摘している。

 野党の従来の質問は思い込みや印象操作的なものでしかなかった。しっかりした議論をするためには、国家戦略特区ワーキンググループの議事録や関連の閣議決定文書などを根拠にすべきである。

 「WiLL」2017年9月号は加計学園問題の「総力特集」で、「ウソで吠えたてたメディアの群れ」として、個人論考や対談など数本を掲載している。その中に居島一平司会の「虎の門ニュース」があり、阿比留瑠比氏と百田尚樹氏の対談が掲載されている。

 阿比留氏が「前川氏は八千万円と言われる退職金満額を受け取って、やめた後に、自分の文書を三社ほどに持ち込み、書かせて、自分で『この文書は本物だ』と、マッチポンプしているとも言われます。どうしてこんな人間を信用できるのでしょうか」とある。

 前川氏が指摘した文書が文科省から見つかったというだけでマスコミが炎上し、文書の真贋や5W1Hについては誰も確認しなかった。国会で貴重な時間を使って論議するには、お粗末すぎた。

 阿比留氏が「私は直接聞いていませんが」と断りながら、「朝日新聞の幹部たちは、倒閣運動をしていることを隠していないそうです。聞くところによると『うちが倒れるか、安倍政権が倒れるかの勝負だ』のようなことを言っている」と書いているところからは、社運を懸けた闘いであることが分かる。

 疑惑があると追及する証明は、追及する側にある。ところが、加計問題に関しては、奇妙なことに、質問する側は疑惑があると騒ぎながら、出所の明らかでない文書以外の確たる証拠を出さないままに責め立て、政府側に「悪魔の証明」をせよと迫るばかりである。

 これでは堂々巡りするだけだ。論戦を進め、早急に決着させるためにも、疑惑があると主張する野党側が証拠文書を出してくる必要がある。

加計問題に社運を懸ける朝日?

 阿比留氏は朝日新聞記者2人と酒を飲んだ官僚から聞いた話として、「(記者が)『いやあ、加計学園報道で部数が伸びました』と喜んでいたそうです」とも語っている。

 ここで、いくつかの報道から朝日新聞の発行部数を見てみよう。2014年10月2日付「週刊文春」は日本ABC協会の調査として2013年8月の約756万部が、翌年8月は725万部となり、1年で30万部以上落としたとしている。

 朝日が慰安婦報道の誤報を認めたのは2014年8月であり、同年11月27日付「週刊新潮」は「この3か月間で727万部から25万部も部数を激減」と述べ、2016年7月14日付同誌では650万部を切ったとしている。

 「SAPIO」2016年9月号によると、朝日記者が公称は660万部であるが押し紙(残紙)が25〜30%と語っている。このことからすると、実際の購読者は概略460万となる。「本当?」と疑問もわくが、これには多くの著書もあるブロガーの鈴木傾城氏が答えてくれる。 

 氏のネット報道(2016年4月11日)「朝日新聞は、押し紙問題を一面トップで報道して責任をとれ」によると、「朝日新聞の正確な発行部数は『よく分からない』。日本ABC協会『新聞発行社レポート 半期』(2015年7月-12月平均)によると朝日新聞の朝刊販売数は671万部になっていると言われている。しかし、それはあくまでも公称である。実売はそんなものではなく、300万部に満たないのではないかと言われている」とある。

 「責任をとれ」というのは、押し紙を販売店に押し付けて購読者を多く見せかけ、広告料(最盛期の3分の1以下の600億円程度?)を稼いでいるのではないかとの指摘である。

 読売新聞に大きく水をあけられるばかりでなく、300万部ともなれば後続の毎日新聞や産経新聞などに急追される状況でもあろう。正しく部数増への巻き返しは社運を懸けた取り組みに違いない。

 ちなみに、獣医学部新設問題で閉会中審査の第1回目が7月10日開かれ、誘致の中心人物であった加戸守行前愛媛県知事が参考人として出席し、第1次安倍政権以前から誘致してきた経緯などを語り、「歪んだ行政が正された」と証言した。

 ところが、一般記事(詳報は除く)での加戸発言報道は、読売68行・産経50行に対し、朝日は0行であった(「産経新聞」7月12日付)。また筆者が上記JBpress記事で述べたように、朝日は前川氏の写真6枚を使用したが、加戸氏の写真は0枚であり、加戸氏を完全に無視したも同然の紙面であった。

 総選挙期間中の(森友・)加計問題記事についてみても、読売48行・産経0行に対し、朝日は1172行(同上紙10月26日付)と桁違いの紙面構成である。また、憲法改正に関しても読売379行・産経217行に対して、朝日は1459行を使って不要論を展開している。

 これらの数字からみても、朝日は国の安全や人命よりも加計報道に社運を賭けている一端が伺える。

Fランク大学の乱立

 岩盤規制とは1980年代以降、経済成長の観点から多様な分野で規制緩和が行われた中で、役所や業界団体など既得権益を持つ関係者の強い反対にあって、緩和や撤廃が容易にできない規制で、医療・農業・教育・雇用などの分野に多くあるとされる。

 過去半世紀の間、国際社会ではライフサイエンス分野で多くの変貌を遂げている。SARSや鳥インフルエンザ、口蹄疫、BSEの発生など、人間と動物の関わりにおける新たな疾患は世界的課題である。

 創薬プロセスでは、実験動物などを用いた臨床研究など、獣医学の知見が求められている。再生医療分野などにおいても、中大型動物の開発・管理を担う人材が不足しているとされる。ペットも増大している。

 こうした構造変化を反映して、動物治療の獣医師の外に製薬会社等に勤務する獣医師数の需要が増大している。

 しかし、半世紀以上にわたり獣医学部新卒者は16大学、930人に抑えられてきた。東日本に10大学735人(79%)、西日本に6大学195人(21%)で、四国にはない。東日本所在の私大は1割前後の増員のため、益々東日本に偏っている。

 こうした閉鎖社会で、日本のライフサイエンスが欧米のレベルから大幅に遅れてしまっている現実が明らかになった。参考人の加戸氏がこうした実態を明らかにした後でも、そのことへの対処が論議されないところが不思議である。

 加計学園の獣医学部新設で数十人を増やすにあたっては、需給問題を含め大騒動している。しかし、医薬分業で薬学部は一遍に入学定員が6000人増となり、大学も2倍近く増えたが、当時、薬剤師の需給は問題にされなかった。今後は何万人という薬剤師過剰が深刻になる状況にあるという。

 少子化の時代に突入しているが生涯学習や天下りなども関係してのことか、大学は増え続けた。小泉純一郎政権下の地方分権推進で、大学設置基準が緩和され、1991年以前の私立大学372から、現在600超で、大学全入時代である。

 一方で、半数近い大学で定員割れが生じているという。入試の倍率が低く、不合格者が極端に少ないか全くいないため、偏差値が算出できない大学(や学部)は「Border Free」と分類され、Fランク大学と呼ぶらしい。

 真に必要な獣医学部などは半世紀以上も規制で新設されない一方で、Fランク大学などが増え続け、湯水のごとく補助金が浪費されている現実をどう見ればいいだろうか。

行政を歪めている「告示」

 このように視点を広げると、岩盤規制と同時に、緩和され過ぎた規制の見直し議論も必要ではないだろうか。

 コメの生産調整は会社が田畑を購入して事業出来ないとする岩盤規制に発しているとされる。また、都市の開発が進み、バス停留所を動かす必要が生じても簡単には動かせない。規制も千差万別で、規制によって社会が円滑に機能していることもあれば、阻害要因となっていることもある。

 インターネットで検索してみると、赤信号の話なども出てくる。これは国会で決めた道路交通法や同施行令で規定されているので、撤廃などは法令の改正が必要となる。

 ところが、件の獣医学部の規制は「法律」でも「政令」でもなく、文部科学省が独自に決めた「告示」(平成15年文部科学省告示第45号)による規制である。

 法令等に詳しい人は、この告示が岩盤規制の元凶であるとされることから、正攻法としては、告示を廃止させるように法改正をすればよかっただけの話ともいう。また、文科省は平成27年9月18日にこれを改正しており、安倍内閣でこの改正をつぶせばよかったという話もある。

 もっと大きなアミカケをすれば、学校教育法の改正で、獣医学部を全国どこでも自由に作れるように新設規準の書き込みなども考えられるという。

 確かに「法改正」「新設規準の書き込み」など言うは易いが、文書化する過程において既得権益を有する者が立ちはだかって抵抗し、また政治家を動かして改正に反対したりするから、今回の様な国家戦略特区などを案出することが必要になってくる。

 今年4月千葉県成田市に38年ぶりに(国際医療福祉大学)医学部が新設された。これも国家戦略特区によって岩盤規制に風穴を開けた結果である。

 ところが、この時も獣医学部新設で問題になっている告示「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置に係る認可の基準(平成15年文科省告示第45号)」を廃止することなく、別途「内閣府・文科省告示第1号」を発出して、わざわざ第45号は「適用しない」とした。

 これほど頑強な岩盤規制に52年ぶりに風穴を開けたのが、今回の加計学園が運営する大学に獣医学部を設置することであった。

 国会で議論すべきは、加計問題を奇貨として、他にどのような岩盤規制があり、その影響がどうなっているかであろう。いまこそ、国会が再点検して、妥当性を満天下に明らかにして、特定団体が既得権益に群がる悪弊を一掃すべきではないだろうか。

おわりに

 岩盤規制が一部の既得権益者たちによって死守されている現実が明らかになってきた。また、緩めすぎた規制緩和で、参入者が増大して競合が激しくなり、経営難に陥る場合や、Fランク大学の林立のように、国費が浪費される状況が現出している。これらはほんの一例で、多岐にわたっていよう。

 こうした中でも、安全保障は国家の存続、並びに国民の幸福と安寧を保証する最大の関心事である。それは憲法が提供すべきものであるが、残念ながら、日本の憲法にはその条項がない。

 憲法9条は「平和を愛する諸国民」を前提にしており、その結果として日本に危害を及ぼす状況などはないとみて、「自分の国を自分で守る」手段などを放棄している。

 しかし、現実の国際社会は危機や脅威に満ちており、激動が予測される。なかでも中国は世界最強の軍隊を創って国際社会の頂点に聳え立つと明言しており、中華民族の偉大な復興を目指して、尖閣諸島から沖縄までも辺疆(中国流の国境)に組み入れようとしている。

 日本は自国を守る意思と能力を厳として示さなければならない。70年以上にわたって日本人から意志と能力を奪ってきた9条こそが最強の岩盤である。

 今こそ、この岩盤に穴をあけて先へ進まなければ、日本の存続さえ危うくなるであろう。

筆者:森 清勇