「グーグル、ヤフーに次ぐ広告ビジネスを作りたい」と、三木谷浩史会長は鼻息が荒い(撮影:大澤 誠)

「いけるかな、とは思っていたが、今はそれが確信に変わっている」――。11月初旬、楽天の決算説明会で三木谷浩史会長兼社長がそう手応えを語ったのは、今秋スタートを切ったばかりの広告事業だ。

今年7月に電通との合弁でデジタル広告会社、楽天データマーケティングを設立。10月から営業を始めてわずか2カ月だが、三木谷会長は「(日本の広告市場でトップクラスの)グーグル、ヤフーなどに次ぐ規模まで早急に持ち上げたい」と鼻息荒く意気込む。

グーグル・ヤフー出身の第一人者を招聘

そんな三木谷氏が楽天データマーケティングのCEOに引き抜いたのが、長年ネット広告業界の第一線を走ってきた有馬誠氏。2000年からはヤフーの常務取締役、2010年からはグーグル日本法人の代表取締役を務めた。


ヤフー、グーグルを渡り歩いてきた”広告のプロ”である有馬誠氏が、楽天の広告事業の大転換を任された(撮影:尾形文繁)

「外から客観的に見ていて、楽天は広告媒体としての成長にそこまで力を割いているわけではなかった。楽天市場というネット通販(EC)事業をコアビジネスとしている以上、買い物に来てくれた人が広告を経由してほかのサイトに移るのをなるべく避けたかったからだろう」。有馬CEOは、昨年までの楽天の状況をそう振り返る。

実際、同社がこれまで力を入れていたのは楽天市場の出店者向けの広告メニューで、集客・販促の意味合いが強かった。2016年の広告売上高は約650億円。年々伸びてはいるものの、グループ全体の売上高7819億円に占める割合は大きくない。そこで新会社では、多額の広告予算を持つ、消費財や食品などの大手企業に向けた広告商品の企画や営業を本格化させる。

同じEC企業でも、世界の競合は様子が違う。中国最大のEC事業者・アリババは、売上高の半分超を広告収入で稼いでいるとみられる。米国の調査会社eマーケターによれば、中国のネット広告市場においてアリババグループは、同国IT大手の百度(バイドゥ)、テンセントなどを押さえトップシェアを握っている。

有馬CEOは「足元では米アマゾンも広告ビジネスに力を入れ始めている。完全に潮目が変わってきた」と見る。「楽天は約70ものネットサービスを展開していて、日本で屈指のアクセス数を誇るウェブ媒体といえる。広告の売上高を増やせるポテンシャルは大きい」(同)。

9300万のIDと購買データを生かせる


楽天スーパーポイントがあらゆるところで使えたり、貯めたりできるようにすることで、よりオフラインのデータを取ることが楽天の狙いだ(撮影:梅谷秀司)

超後発といえる楽天が、広告事業で発揮できる強みは何か。有馬CEOは「質の高いID」と「購買データ」の2つを挙げる。楽天には約9300万(2017年9月末)の会員基盤があるが、「ショッピングのためのIDなので、住所やクレジットカードの情報を正確に取りやすい。加えて、実際に買ったかどうかの情報が紐付いているのも、マーケティング上は非常に有利」(同)。

もうひとつユニークな点は、ネット広告やテレビCMと、ECや店頭での購買をすべてIDでつなげて広告効果を把握・分析しようという試みだ。特にテレビCMや実店舗購買においては、これまで「どの広告を見た人がどの商品をどこで買ったか」や「買ってもらうには何回くらい広告を見せるといいのか」という追跡がほぼ不可能だった。

そこにもう一歩踏み込もうというのが、今回の事業の”肝”だ。「テレビがネットにつながっていれば秒単位で視聴データを得ることができる。また、位置情報を活用して来店データを取ったり、楽天スーパーポイントのパートナーになっているコンビニ、ドラッグストアチェーン、飲食店などから店頭購買データを収集したり、楽天カードの決済データも活用できる。これらを組み合わせれば、本当に効果の高い広告手法を見極められる」(有馬CEO)。

10月の営業開始に先立ち行った実証実験では、視聴者数や購入者数が実数でわかる点が広告主に受けたという。「アンケートなどパネル調査から推定する広告効果の“仮説”だけでは、最後の一押しが足りない、自信を持って投資できないという広告主の悩みがあった。実数で、しかもリアルタイムに近いスピードで効果が見えれば、それを解消できる」(有馬CEO)。

楽天データマーケティングでは、データ整備や広告商品の作り込みを楽天側で、有力広告主への提案営業を電通側で担い、事業の拡大を目指していく。10月は広告主への広告出稿、プランニングなどの提案金額が7月比で11倍に増えた。このうちどれだけが成約に至るかは未知数だが、事業は少しずつ進んでいる。

”嫌われない広告”をどう目指すか


有馬CEOはあらゆるデータを駆使しつつ、”嫌われない広告”を目指す意志を示した(撮影:尾形文繁)

市場が拡大するネット広告だが、一方では「アドブロック」の波が押し寄せている。しつこく表示されるターゲティング広告に煩わしさを感じている人が増えており、米グーグルや米アップルがネット上における利用者の行動のトラッキングを制限する方向に動いているのだ。

有馬CEOは、この点を考慮したサービスづくりの必要性を語る。「(会員から)データを預からせていただくからには、広告といえど、ユーザー側にもメリットの高いサービスを追求しなければならない。性別や年齢といった単純な属性に寄らない趣味・趣向を把握し、個々人が本当にほしいと思える商品の広告が出るような仕組みを作りたい」。

楽天のビジネスモデルは変革期にある。「これまでは楽天市場を中心にしたマーケット(EC)ビジネスの会社だったが、これからは会員情報を中心に据えたデータビジネスの会社になる」と、三木谷会長も語っている。広告事業の成否は、重要な試金石となりそうだ。