2016年11月のトランプ大統領の勝利から円安が定着(写真:ロイター/アフロ)

企業物価指数が上昇している。10月の企業物価指数は、前年同月比で3.4%上昇、99.4(2015年=100)で、2008年10月以来9年ぶりの上昇率を記録した。前年同月比では10カ月連続のプラスになっている。

同指数は、企業間で取引される商品の価格を反映する指数で、国内企業物価、輸入物価、輸出物価に分かれている。日本銀行が2%の物価目標を設定している消費者物価指数の先行指標にあたるため、その上昇ぶりには注目が集まっている。


企業物価はなぜ消費者物価に波及しないか

企業物価指数の好調は一見すると、消費者物価指数にとってポジティブに見える。しかし、効果はそれほど波及していない。企業物価指数の最終財の上昇率は8月に前年同月比プラス1.4%、9月に同プラス1.5%、うち消費財は8月にプラス1.6%、9月にプラス1.7%と確実に上昇しているのに対し、9月の消費者物価指数は、前年同月比プラス0.7%、生鮮食品やエネルギーを除いたコアコアCPIでも同プラス0.2%で、ほとんど上昇していない。その分のコストは企業が吸収している状態にある。

効果が波及していないのは、現在の企業物価指数の中身に原因がある。みずほ証券シニアマーケットエコノミストの末廣徹氏は「上昇のほとんどは為替と原油で説明可能で、企業同士の需要と供給の関係で物価が決まるような製品はあまり上がっていない。」と語る。実際に寄与度を見ると、石油や化学薬品といった、原油を材料とするものが並んでいる。同氏は、「これらの影響は一時的なものであると考えられているため、企業側も値上げには踏み切れない」という。企業にとっては我慢の時間が続いている。

輸出物価と輸入物価の差にも注目すべきだろう。今回の10月速報値では、輸出物価は円ベースで前年同月比9.7%上昇、輸入物価は15.3%上昇と輸入物価の方が大きく上がっている。原油高が進んだ9月、10月にかけて日本企業にとっての交易条件は悪化している。

輸入サイドでは、原油の上昇の影響を企業から家計まで幅広く受けているが、輸出サイドの価格上昇は限定的で、国内での負担感は強くなっている。


交易条件悪化で苦しむ内需中心の中小企業

こうした環境下で最も負の影響を受けているのは、内需中心の中小企業だ。コスト面での増加に加え、国内需要も縮小傾向にあり、厳しい状況に陥っている。

コスト増による中小企業の苦戦を解消するには、内需の改善により消費者物価が上昇するか、もしくは大企業や輸出企業からの還元が必要だ。しかし内需の面では、実質賃金は9月にマイナス0.1%をつけているので、価格転嫁は難しい。

とすれば、目下業績を伸ばしている大企業に期待がかかるが、いわゆる「トリクルダウン」は起きていない。大企業は拠点を海外へ移し、現地生産・現地販売を進めている。大企業が得た利益のうち、国内中小企業に還元される割合は減少してきている。

大企業が潤えば中小企業や労働者にも利益が均霑(きんてん)されるという「トリクルダウン」が起きるとするアベノミクスの理屈は構造的に欠陥を抱えており、国内中小企業にとってはむしろ大きな痛手となってしまっている。現状はコストプッシュ型インフレの悪い側面だけが効果を発揮している。

ただし、現在の円安、原油高による企業物価の上昇は10月がピークになるだろう。為替の影響に関しては、11月には剥落してくる。そもそも現在の円安が始まったのは昨年11月のアメリカ大統領選挙がきっかけだからだ。トランプ政権が発足した際には為替は1ドル=102円前後から2週間で113円台にまで円安が進んだ。

原油に関しても、今後を考えれば下落トレンドになる可能性が高い。価格はすでにアメリカのシェール企業の採算ラインを突破しているとみられ、今後はシェール企業が生産増加に移行する可能性が高い。アラムコ上場を控えて生産調整を行なっているサウジアラビアも、来年には、調整を弱める可能性がある。

企業物価もそろそろピークアウト

一方、大きな需要を持つ中国では、以前から懸念されてきた党大会終了によるインフラ投資抑制の動きが出始めている。11月16日には、内モンゴルで、46億ドルの地下鉄プロジェクトを停止したとの報道がなされている。今後もこうした投資抑制の動きが出てくることが予想され、原油は需要サイドからも下落の可能性が高い。

当然、原油以外の非鉄金属などでも、中国の減速はリスクだ。企業物価で寄与度の高い金属系、電子部品系でも、中国向けの需要は大きい。銅価格などは共産党大会前をピークにすでに下落が始まっている。

以上を踏まえると、今後の企業物価は、10月ほどの高水準は維持できないだろう。いずれにしろ、企業物価から消費者物価への波及は期待できなくなる。アベノミクスが一定の成功を収めて日銀が緩和の出口を目指すという結論は、まだ当面、出そうにない。