「大企業に入れば、一生安泰」

昔からそう教えられて育ってきた。

有名大学を卒業し、誰もが知っている大企業に入社。

安定した生活を送り、結婚し子供を育て、定年後は年金と退職金で優雅に暮らす。それが一番の幸せだ、と。

丸の内にある大手総合商社に勤める美貴(26)も、そう信じてきたうちの一人。

シンガポール駐在から帰国した同期の潤の話に刺激を受け、ついに「自分で自分の人生を切り開く」覚悟を決めた美貴。

母に今の自分の素直な気持ちを打ち明けるが、「仕事のことより結婚が先」とバッサリ否定され、困惑する。

昔から両親の期待に応えてきた美貴が、「自分だけの意思」で人生を進めようともがき続ける。




「あ〜誰かいい人いないかな〜。私早く結婚したい。」

仲良し同期との週に1回のランチの日、『ヴィッラ ビアンキ』でトマトソースのパスタを待ちながら、隣で梨花が頬杖をつきながら「はぁーっ」とため息をついている。

梨花は積極的にお食事会に顔を出しているが、なかなか彼氏ができず頭を悩ませてはこうしてランチの時にボヤいていた。

「梨花は、やっぱり結婚が最優先なの?」

美貴は同じ環境で育ってきた梨花と杏奈の考えを聞いてみたいと思い、転職を考えていること、「仕事よりもまずは結婚」と母に言われたことを話した。

「美貴、すごいね。美貴の言うことはわからなくもないけど、結婚してないのに今の安定した生活を捨てるなんて、私そんな勇気出ないよ〜」

梨花は目をまん丸にしながら、こっちを見ている。

しかし、美貴が想像していたよりも、梨花と杏奈の驚きは小さかった。やはり二人とも薄々「大企業での安定した生活のからくり」に気づきながらも、目を背けているだけなのだろうか。

「私は自分一人でちゃんと生きていけるようにならなきゃ、って思うことも何度かあったけど、20代のうちは結婚を優先した方がいいな、って考えてる。仕事を変えるのは何歳でもできるけど、結婚は30歳を過ぎたら急に厳しくなるでしょ?」

杏奈の考え方はいつも現実的だ。きっと、20代女性の大半が考えることだろう。


先の読めない未来に、「タラレバ」話が尽きない女たち。


“結婚”ありきでの「タラレバ」話に終止符を打つ


杏奈の考え方は、美貴の母の考え方にも通ずるものがある。

20代で新しい仕事に挑戦したら、婚期を逃し、後悔することになるかもしれない。美貴の母は、そんな娘の姿を見たくないのだろう。

「それに、転勤の多い男性も多いし、結婚してついていくことを考えたら、すぐに仕事を辞めないといけなくなるかもしれないでしょ?新しい職場でしっかり産休・育休が取れるかもわからないし。だから、商社OLを辞めるなんて今はできないかも。」

杏奈の言うことにも一理あるが、わかりもしない他人の人生についていく前提で「タラレバ」ばかりを考えていたら、一向に前には進めない。

「杏奈の言うこと、すごくわかる。わかるけど、もしも結婚できなくて、仕事にもやる気のない“お姉さま”たちみたいになることを考えたら、それこそ一番嫌じゃない?その時に“何で20代の時に結婚ありきで考えたんだろう”って思っても遅いのかも。」

美貴は、以前の自分もよくしていた「先の見えないタラレバ話」を聞くのが何だかむず痒く、そんなことを口にしていた。




AIに代替される?一般職女性に迫る危機


「これからは、AIに一般職がやっているルーティーンワークを任せる前提で、働き方を変えていきたいと思います。」

この数年で、大企業で急速に進む「IT導入」と「働き方改革」。美貴の所属する自動車部も例外ではなく、部の朝会で部長から話があった。

現在、一般職女性が行なっている経費処理やエクセル入力などの仕事は、そのうち全てAIに代替されるという。

美貴は、転職エージェントとの面談を経て、今の市場価値を思い知っただけに、自分の仕事がAIに代替されるという話には納得感があった。

しかし、大企業勤めという「安定」にしがみつき、能力を高めるモチベーションを失っている“お姉さま”たちは、この話を聞いてどう思うのだろうか。

美貴は、隣に座っている由美子さんが切ない表情をしているのを見逃さなかった。

AIに代替されないような能力を身につける気概を今から持つことは、かなりハードルが高いだろう。


自分の存在意義とは?“お姉さま”由美子の想いとは。


“お姉さま”由美子が美貴に伝えたい本音


由美子です。

会社説明会で“先輩社員”として登壇した時から5年が経ち、すっかりアラフォーになりました。昔は「絶対にこうなりたくない」と思っていたはずの“お姉さま”たちに仲間入りをしています。

-自分の仕事がAIに代替される。

朝会でその話を聞いた時、「あぁ、ついに来てしまった」と思いました。

私も入社してからの数年間は必死に働き、新しい仕事を覚えたり、周りに褒められたりすることも嬉しかった。でも、日々同じルーティーンワークをこなすうちに、“頑張っても頑張らなくても給料も評価も変わらない環境”に気づいてしまったのです。

頑張るモチベーションを失いながらも、「結婚するまでは働こう」と考え、とりあえずそのまま毎日を過ごしていました。




29歳の時、私には付き合って2年になる同期の彼がいました。30歳の誕生日を迎える前になんとか結婚したいと考えた私は、彼に結婚したいことを伝え続けましたが、彼は煮え切らなかった。

結局、彼の意思は変わることがなく、31歳になった2年後に破局を迎えました。

-なぜ結婚ありきで、自分の人生を考えてしまったのだろう。

彼との破局後、真っ先にそう思いました。

自分の過去を否定したくなくて、自分の選択を認めてあげたくて、今は“お姉さま”と同じ態度を取ってしまっていますが、本当は「後輩たちには私と同じ道を歩まないでほしい」、と心のどこかで思っています。

“ずっとそれなりに仕事をしていれば勤めていられる”環境に甘えて、努力をしてこなかった私みたいにならないでほしい。

私に応援する資格はないかもしれませんが、まだまだ可能性に溢れる彼らの今後を密かに見守りたいと思っています。

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「自分の人生は自分で切り開く。」美貴が選んだ道とは?