純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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/世界恐慌の最中、貴重な植物園の木々を倒し、そこにビルを建てることで、失業者たちは仕事を得て、冬を越えることができた。その感謝を、工事現場の労働者たちは一本の木を飾り付けて祝い祈った。それがロックフェラーセンターの世界一のクリスマスツリー。他方、その意味もわからず、MBWのように見た目だけサルまねをして、神宿る古木を切り倒すようなバカ者には、かならず災いが訪れる。/


 うちの大学もいいように乗せられ、カネを出させさせられているらしい。それで、学生たちにも紹介したんだが、どうも評判が悪い。どこかおかしい。神戸開港150年記念事業の関連事業として神戸市の賛同を得て、富山から樹齢150年の生木を引っこ抜いて来て、「輝け、いのちの樹」とか言って、神戸メリケンパークに12月2日から26日まで、有名なロックフェラーセンターよりでかい「世界一」のクリスマスツリーに仕立てるんだと。底が浅くて、悪趣味。世界一バカなだけ。意味もわかっていない後追いのサルまねは、世界に恥を晒し、大きな責任問題になるだけ。

 ロックフェラーセンターのクリスマスツリーは、いまから百年前、ニューヨークのメトロポリタンオペラが、新しい、大きな劇場を必要としたことがきっかけだった。しかし、当時すでにニューヨークは大都会となりつつあり、空いている土地など無く、地価も法外に高く、どうにもできない。この窮状を夕食会で聞き及んだ大富豪JDロックフェラーが、地域の文化振興のため、自分がなんとかしよう、と乗り出した。それも、彼が考えたのは、ラジオ放送が可能な、新時代を先取りするエンターテイメント・メディアコンプレックス、「ラジオシティ」だ。

 と言っても、空いている土地そのものが無い。唯一、可能性があったのが、コロンビア大学の庭園。ここは、1801年にできた、米国最初の植物園だった。交渉は容易ではない。くわえて折悪しく、ちょうどヨーロッパの第一次大戦後の惨状の裏返しで、遠く離れ、戦争の影響を免れた米国は好景気に沸き、とくにその中心、ニューヨークには次々と超高層ビル「スカイスクレイパー」が林立。建設費は飛躍的に高騰し、ロックフェラーのラジオシティ計画は困難を極めた。

 だが、1929年10月、バブルが崩壊し、世界恐慌へ。あれほど工事だらけだったニューヨークは、翌30年、静まりかえり、うなだれた失業者たちが街に溢れかえった。もちろん、ロックフェラーも、地獄の底が抜けるほど、損失を被った。ところが、彼は、街のあまりの惨状を見て、庭園を持つ大学と話し、全財産、全使命を賭け、恐慌の前に構想されていたラジオシティ計画をそのままあえて強行したのだ。

 この壮大な巨大プロジェクトによって、多くの失業者たちが建設の仕事にありつくことができた。百三十年以上になる貴重な植物園の木々を切り倒し、そこにビルを建てることで、自分たち、そして家族たちが、この寒い冬を生きながらえることができる。1931年のクリスマス。建設現場の労働者たちは、ひとりひとりが自分たちのカネを持ち寄り、飾りを手作りして、深い感謝とともに、一本のモミの木をクリスマスツリーにして祝った。そして、それがその後、あの「冬」を忘れまい、と、伝統になった。「ラジオシティ」は、恐慌に立ち向かったロックフェラーの勇気と偉業を讃えて、「ロックフェラーセンター」と呼ばれるようになった。

 木は、大きいがゆえに偉大なのではない。強い風にも、深い雪にも負けず、まっすぐ立ち、森を守る。切られてなお、木材として、家となり、家具となり、私たちのそばにあって、私たちの生活を支え続けてくれる。木は、我々とともに生き、また、生き続ける。一時の享楽の見世物なんかになるために、百年の風雪を耐えぬいてきたのではない。

 聞けば、今回、神戸のバカ騒ぎのために根こそぎ引き抜かれた樹齢150年の富山の古木は、モミではなく、はるかに高級なアスナロで、それも、1938年9月6日、千五百戸をも消失させた氷見大火をくぐり抜けてきた、歴史の生き証人だった。だれが抜いたのか、だれが許可したのか知らないが、これほど無法な罰当たり、けっしてただでは済むまい。実際、富山で、むりやり引き抜こうとしたら、季節はずれの台風をくらって、すでに幹がへし折れているとかいないとか。神戸で、冬に吹きすさぶ有名な六甲おろしに煽られ倒れて事故になったりしなければいいのだが。安全性が確実ではないことは、絶対にやってはいけない。去年の神宮外苑の二の舞になる。災いを忘れし者は、みずから災いを招く。


by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学vol.1 などがある。)