栄和人氏(左/写真:アフロスポーツ)

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 22日発売の「週刊文春」(文藝春秋)は、“吉田沙保里の恩師”として知られる栄和人・日本レスリング協会強化本部長が、男子レスリング強化合宿で起こった重傷事故を隠蔽していると報じた。

 記事によれば、東京のナショナルトレーニングセンターで行われた男子レスリング強化合宿中の9月に、8月の全日本学生選手権・男子グレコローマン85キロ級で初優勝を遂げた谷口慧志選手(21/拓殖大学3年生)と、世界選手権出場経験のある有力選手がスパーリング中、投げ技をかけられた谷口選手が頭からマットに落ち、頸椎を損傷。現在も首から下が動かせないほどの大けがを負ったという。栄氏はこの合宿で現場責任者を務めていたという。

 同様の事故が柔道で起きれば、すぐに発表される重大事案だが、事故から2カ月以上たった現時点で日本レスリング協会からは事故についての発表はない。

 それにしても、女子レスリングで有名な栄氏が、なぜ男子レスリングの合宿で責任者を務めていたのか。

 栄氏は鹿児島県生まれ。鹿児島商工高校時代の1978年に高校三冠(高校選手権、インターハイ、国体)を達成。日本体育大学に進学して負けるまで、将棋の藤井聡太四段もびっくりの公式戦無敗116連勝を記録。

 その後も全日本大学選手権優勝、全日本選手権優勝6回、アジア選手権優勝など輝かしい活躍を見せたが、オリンピックでは結果を残せなかった。そのため、引退後は男子のコーチになれず、1990年から女子のコーチを嫌々引き受けた。94年から女子の指導に専念し、伊調馨、吉田沙保里など女子レスリングで数々のメダリスト、世界チャンピオンを育てた。男子も女子に続けということで、昨年11月から日本レスリング協会としては初の男女合同の強化本部長に就任した。スポーツ紙のプロレス担当記者がこう語る。

「栄さんが男子でも指導をしているのは知らなかった。アマレスでもプロレスでも頸椎損傷はあまりない。組み合って投げたのなら反り投げだと思いますが、よほど実力差がない限りケガはしない。栄さんは実力に差のある選手同士でスパーリングさせるのが指導法。おそらく、今回も実力が上の選手と谷口選手をスパーリングさせたのではないでしょうか」

 栄氏にとって、男子のコーチは念願だったはず。その男子の合宿で思わぬ事故が起きたことになる。日本レスリング協会は「事故が起きたのはトレセン(ナショナルトレーニングセンター)のレスリング道場なので、取材はトレセンに聞いてください。けがは頸椎の脱臼ですが、治るまで時間がかかる。今はリハビリ中ですが、『文春』の記事を見て、個人情報が漏れたことに、本人と保護者がパニックになっている。事故はあくまで突発的に起きたもの。何十年も観ているが反り投げでの事故は初めて」と語る。

 一方のトレセンに聞くと「日本レスリング協会はトレセンの利用者。事故は確かにトレセンの道場で起きましたが、利用者の情報を勝手にお教えすることはできません」とこれまたすっきりしない。

 東京五輪では「金メダル10個」「最低でも金メダル5個とメダル10個」を目指す日本のレスリング。不運な事故だというのなら、なおのこと説明責任があるのではないか。
(文=兜森衛)