決勝点を挙げた田部井悠。準決勝まではゴールがなかったが、見事に“桐生一キラー”ぶりを発揮した。写真:田中研治

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 前橋育英と桐生一による群馬県予選決勝。一進一退の攻防の末、最後に勝負を決めたのは「桐生一キラー」ことMF田部井悠の一撃だった。

 
「決勝の前日に同じクラスの(角田)涼太朗に『明日、俺が点を獲るかもね』と話していたんです。まさか本当になるとは……」
 
 殊勲の一撃は、0-0で迎えた80分に訪れた。延長戦突入の様相も呈していたが、田部井悠は一瞬の隙を逃さなかった。右サイドに流れたMF塩澤隼人にボールが渡ると、ニアサイドのスペースにFW飯島陸が走り込むのが見えた。
 
「相手のCBの1枚が陸の動きに食いついていて、もう1枚のCBがこっちを見ていて、自分がファーに流れたらそのままマークに来てしまうと思った」
 
 田部井悠は瞬時の判断で、飯島を追走する形で中央のスペースに猛ダッシュ。ファーサイドに来ると予測していたCBの逆を完全に突いて、フリーでゴール前に入り込んだ。そこに塩澤から山なりのクロスが足もとに届く。右アウトサイドで絶妙なトラップをすると、飛び込んで来たGKを冷静に見て、右足で叩き付けるボレーシュート。ボールは狙い通り、GKの脇をすり抜けてゴールに吸い込まれた。このゴールが決勝弾となり、粘る桐生一を1-0で振り切った前橋育英が4年連続21回目の選手権出場を決めた。
 
 田部井悠が前日に抱いた予感には理由があった。中学時代、FC前橋ジュニアユースに所属していた田部井悠は、前橋ジュニアユースと対戦する度にゴールを決めていた。「『前橋ジュニアユースキラー』と呼ばれていました」と笑ったように、非常に相性のいいチームだった。
 
 前橋育英に入学した田部井悠に対し、前橋ジュニアユースの選手の多くが桐生一に進学。すると今年に入り、新人戦準々決勝で桐生一と対戦をすると、田部井悠のゴールで1-0の勝利。そしてインターハイ予選準決勝で対戦した時も田部井悠のゴールで1-0の勝利。今度は『桐生一キラー』として、彼らの前に立ちはだかったのだ。
 
 そして、この試合でも田部井悠のゴールで1-0の勝利。恐ろしいまでの相性の良さを最後の対戦でも披露する形になった。
「実はこのゴールが今予選の初ゴールだったんです。これまで散々チャンスで決められずにチームに迷惑をかけて来たので、決勝で勝利に貢献できたのはものすごくホッとしています」


 桐生一戦の勝利によって、前橋育英は今年のチームの最大の目標であった『昨年のリベンジ』に向けて、まずはその権利を掴み取った。
 
 昨年度の選手権決勝で青森山田に0-5で敗れた悪夢は簡単には忘れられないだろう。リベンジの想いを胸に刻んで今シーズンを歩んできた彼ら。田部井悠も前回決勝のピッチに屈し、リベンジを誓った選手のひとりだ。だからこそ、こんなところで躓いていられなかった。
 
「これまで味わった悔しい思いをこれからひとつずつ返していく。プリンスリーグ関東でプレミア参入戦出場権を取って、参入戦で来年のプレミア昇格に導いてから、一戦一戦をしっかり戦ってリベンジを成し遂げる。やるべきことはまだまだ沢山ありますし、僕自身もこのゴールを機に、よりチャンスをモノにできるようにしたい」
 
 首位を走るプリンス関東をこのまま戦い抜き、プレミア参入戦を経て選手権の舞台で頂点を目指す。そのためにも、田部井悠は『桐生一キラー』を卒業し、全国のいかなる相手からも、ゴールを奪える選手になる。
 
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)