橋本英郎は常にチームを俯瞰で見渡し、さりげない行動で正しい方向へ導く。東京Vに不可欠な存在となった【写真:Getty Images】

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千葉が土壇場で逆転。東京Vは勝利でプレーオフへ

 東京ヴェルディは19日、明治安田生命J2リーグ最終節で徳島ヴォルティスに勝利してJ1昇格プレーオフへの挑戦権を勝ち取った。序盤から押し込まれる難しい展開の中、力を発揮したのはゴールを挙げた選手だけではない。ベンチから出場した大ベテランの経験が勝負を分けた。(取材・文:舩木渉)

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 今季のJ2最終節は全試合同じ時間にキックオフとなった。優勝と2位のチームに与えられるJ1自動昇格権の行方はすでに決し、J1昇格プレーオフへ進出する4チームのうち2チームも確定。J3降格の可能性があるチームも固まりつつあった。

 レギュラーシーズン最後の試合において、最大の注目ポイントはJ1昇格プレーオフ進出の切符を手にする2チームがどこになるか。5位徳島ヴォルティス以下、東京ヴェルディ、松本山雅FC、ジェフユナイテッド市原・千葉の4チームが残る2枠を争っていた。

 そして徳島と東京Vは最終節で直接対決である。決戦の地、味の素スタジアムの記者席では緊迫の展開が繰り広げられていた。他会場の動きはPCの画面の中で追う。松本が負けている。千葉も早々に先制されて、なんとか追いついた。だが、まだ徳島と東京Vがプレーオフへの切符を握り締めている。

 試合が終わった。前半のうちに先制した東京Vは、後半開始直後に追いつかれたが、終盤に劇的なゴールで勝ち越して逃げ切った。目線をPCの画面に移すと、驚きの光景が広がっていた。千葉が逆転している。

 目の前の徳島の選手たちは、状況を理解したようだった。8位だった千葉が逆転しJ1昇格プレーオフに進出。徳島は7位に転落してしまっていた。それは終戦を意味する。

 しかし、試合展開だけを見れば徳島が圧倒していた。東京Vの内田達也が「あそこまで持たれるとは思わなかった」と語る通り、試合開始から徳島が押し込み、再三チャンスを作る。ホームチームはセットプレー、あるいはカウンターといった散発的な反撃にとどまっていた。

 それでも東京Vは勝った。守備陣はしっかり耐え、チーム全体でバランスを失わなかった。途中出場だった橋本英郎は「後半に関しては、立ち上がりすぐやられたと思うんですけど、そんなに危ないシーンはもしかしたら少なかったと思う。前半の方がちょっと怖かったかな。後半はなんとなく崩せそうで崩せないところで耐えられていた分、良かったんじゃないかと思います」と振り返った。

 実は彼こそが、後半にチームがバランスを保ち続け、内田の決勝ゴールを生んだ“影のヒーロー”だったのかもしれない。「普段は僕が(セットプレーで)上がろうとした時に監督から止められることが結構あった」と語る内田が、コーナーキックの場面でペナルティエリア内に入る判断を下せたのは「ハシさん(橋本)も入っていて、後ろでバランス取ってくれる選手もいた」からだった。

ロティーナ監督に鍛えられた守備戦術の真価発揮

 さらに橋本のさりげない行動もチームを助けた。「今年はだいたいハシさんが入ってきた時に、『ピッチ内ではどんな感じ?』というのを聞いてくれたり、外から聞いてきたことを言ってくれる」と内田は明かす。

 徳島戦、橋本が投入されたのは71分のこと。そこで整理したのは前線のドゥグラス・ヴィエイラとアラン・ピニェイロがファーストディフェンダーとしてどこにプレッシャーをかけ、どうやって相手の選択肢を奪うか。これは見事に効果を発揮し、終盤は徳島のボール回しのペースが落ち、東京Vがいい形でボールを奪える場面が増えた。

「相手がサイドをえぐれそうな時もすぐに(クロスを)上げてくれたりとか、もうちょっと余裕を持って崩しにかかってもいいんじゃないかなと。思ったよりそこは焦ってくれた感じはあった」

 ベンチから戦況を見ていた橋本の冷静な分析により、相手をあえてサイドに誘導して焦らせた。それに呼応するようにチーム全体が共通認識を持って動けたのはミゲル・アンヘル・ロティーナ監督の下で鍛えられた守備のおかげでもある。

「(ロティーナ監督の指導で)みんなで戦うことがすごくキッチリ整理された。守備の時に1人で行くのではなくて、みんなが連動していくというところだったり、攻撃もそうですけど、ある程度システマチックに動いている部分は僕らは多いと思う。もしかしたら今まで自由にやっていたのが、ある程度制限はあるかもしれないですけど、連動した動きになることで精度が上がったのかもしれないですね。

基本的に選択肢をいろいろ提案して、その中から僕たちが選ぶという形はあるので、その選んだ時に、他の選手が何を選んだか、選んだことで次の選択肢はどうしたらいいかというのを、周りが理解しやすい環境は作っている。今までのチームだと、どうしても個の判断で連動して繋がっていくものがあった。それだと成熟に時間がかかるかもしれないですけど、逆にそれをシステマチックにやることで、成熟までの時間を短くできた部分もあると思います」

 守備の動きが整理されたと、東京Vの他の選手たちも口を揃える。たとえ苦境に立たされても、橋本のようなベテランが途中出場でバランスを整え、状況に応じてアプローチを変えながら、組織で守る。J2最高クラスの攻撃力を誇る徳島の猛攻を1点に抑えられた要因が、そこにはあった。

「勝たないといけないという感覚が薄れるのがすごく嫌」

 次なる戦いはJ1昇格プレーオフ、25日のアビスパ福岡戦になる。今季は2度対戦して1分1敗と勝てていない相手。だが、多くの選手たちは「勝って味スタに戻ってきたい」「ホームでもう一度できるのが一番いい」と、勝利して本拠地・味の素スタジアムへ戻ってくることを望んでいた。

 東京Vは5位のため、もう一方の対戦で6位の千葉が3位の名古屋に勝利すれば、上位クラブにホームアドバンテージが与えられるレギュレーションによって、プレーオフ決勝をホームで開催できる。だが、橋本は安易にホームの恩恵を受けようとする姿勢に警鐘を鳴らす。

「みんな結構(ホームに)戻りたがっていましたけど、僕はあんまり戻りたくないですね。勝たないといけないという感覚が薄れるのがすごく嫌なので。やっぱりここホームになるということは、僕らは引き分けでOKの状態に変わるので、そういう試合はあまり僕らには良くないんじゃないかなと」

 徳島戦は引き分けでもよかったゲームだが、東京Vは最後まで攻め続けた。貪欲に勝利を目指すチャレンジ精神が2点目を呼び込んだ。橋本は続ける。

「やっぱり僕らに勝ち切る気持ちがないと。そこに怖さを感じるんじゃないかと思う。それだったらアウェイで勝たないといけない状況の方が、絶対にチャレンジはし続けないといけないので、負けていても攻めないといけないし、同点でも攻めないといけない。若いチームでもあるので、そういう状況で僕らはチャレンジする形の方がいいと思います」

 橋本自身、セレッソ大阪時代にJ1昇格プレーオフを経験している。上位チーム(4位)として迎えた2015年の準決勝では愛媛FC相手に、スコアレスドローと大いに苦しんだ。同じ年の決勝は勝たなければいけない状況にもかかわらず、ホームだったことが逆にプレッシャーとなってアビスパ福岡に及ばなかった。だからこそ「チャレンジする形」の重要性を誰よりも認識しているのである。

 徳島戦は橋本にとって8試合ぶりの出場だった。プレー時間は年間を通して決して長いとは言えない。それでも冷静にチームの状況を分析し、的確な方向へ導ける、酸いも甘いも噛み分けたベテランの存在は東京Vにとって計り知れないほど大きな意味を持つだろう。

(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉