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AUTOCAR JAPAN誌 29号

もくじ

前編
ー 911はベンチマークではない
ー 考え得る「必要最小限のクルマ」
ー 911ミーツV8ヴァンテージ
ー まるでドイツ生まれのように
ー 911と明らかに違うところ

後編
ー ついにV8ヴァンテージが走り出す
ー 「わたしはこの道が大好きなんです」
ー V8ヴァンテージにしかできないこと
ー ひとつだけ断言できること

ついにV8ヴァンテージが走り出す

仕立てのいい革張りのシートはDB9用のものと基本こそ同じだが、V8ヴァンテージのキャラクターに合わせてクッションはところどころ少し硬めになっている。

ベッツが、親指でスターターボタンを押すと、ハイチューンのV8エンジンは軽く身震いして、低い唸り声とともに目覚めた。キャビンに居て感じるのはポルシェ911とはまったく違う世界だが、感動的な瞬間であることには変わりない。

ベッツはスタートしてしばらくの間、V8ヴァンテージをのんびりと走らせた。そして、その時点でわたしはあまりに乗り心地がフラットなことに驚いていた。

ついさっき同じ道を911で走ってきただけにその違いはよくわかる。サスペンションはダンピングがよく効いていて、スピードを上げるにつれ、それが完璧に制御されている事実が明らかになる。

水温計の針が真ん中あたりで安定すると、ベッツは徐々にペースを上げていった。それにしても、このクルマのハンドリングのなんとバランスのいいことか。わたしはすぐにそれが49対51というの重量配分によるものだと気づいた。

V8ヴァンテージの着座位置はかなり後ろ(真横から見ると後ろ側3分の2くらいの場所)にある。ちなみに911だとちょうど中央のあたりだ。これはアストンがポルシェとはまったく別のアプローチでV8ヴァンテージを造った証拠のひとつだろう。

われわれが乗ったV8ヴァンテージは、ついにゲイドン工場から外に出ようとしていた。ベッツはすでにV8にムチを入れており、門番たちを驚かせながら、他のアストンV12と同様にエンジンの唸りが5000rpmあたりから堂々たる咆哮へと変わるさまを実演してくれた。

ロータリーを右折し、ギアをシフトアップする。乗り心地は固めだがしなやかで、ロードノイズは許容範囲内(ポルシェ伝統の騒音とは比べ物にならない)。

風切り音は前方からルーフ上を抜けていくように巧く制御されているようだ。シートもほどよく引き締まった見事な座り心地で、サイドサポートも文句のない仕事をしてくれる。

「わたしはこの道が大好きなんです」

V8エンジンは1700rpmあたりからパワーを増し、3700rpmから上では本物のスーパースポーツらしい迫力のある加速を発揮し始める。

5000rpmに達すると唸りは咆哮に変わり、トップエンド(レッドゾーンは7000rpmから)にかけて一気に炸裂する。ひょっとしたら格上のアストンV12の滑らかな「ヒュイーン」という洗練されたサウンドよりもこのV8の野太くて刺激的な咆哮を好む人は、少なくないのではないか。

そう思わせるほど、V8ヴァンテージが発するサウンドは魅力的だ。

と、いいペースで走り続けていたベッツが、とつぜんわたしにこう言った。

「わたしはこの道が大好きなんです」

その言葉を聞いた時、わたしはそれはエンジニア特有の一風変わった情緒的な感情に違いないと思ったが、そうではなかった。

ベッツはスムーズで開けた道をわざわざ外れ、ボコボコに荒れた所々に大きな波打ちや凹凸がある道を、時にジャンプしながら(しかもかなりのスピードで)飛ばしていく。

もちろんシャシーにとってもタイヤにとってもかなり過酷な仕打ちであるのは間違いない。アストンの経営者は仕事熱心なのだ。

わたしならこのクルマでそんなトバし方はしないし、もしサスペンションがボトミングしたら、それで終わりにするだろう。だが、実際にはボトミングはまったく起こらなかった。

いや、より正確にはボトミングする気配すらなかった。最悪の(だがベッツにとっては最良の)道を攻めまくっても、姿勢は奇跡のように安定していた。

ボディは隆起を乗り越えて宙に浮き、そしてきれいに着地する。究極の柔軟性を備えたすばらしいボディコントロールだ。おまけにシャシーには巌のような剛性感がある。

ポルシェがテールヘビーな重量配分に起因する突発的な挙動を抑えるために締め付けた硬い乗り心地とは似ても似つかない。

ベッツはニヤリと笑った。そして思わずポルシェへのコメントを漏らした。

V8ヴァンテージにしかできないこと

「ポルシェ911でこの道を走ったら間違いなく酔いますよ。911だけでなく、世の中のほとんどのクルマはね」とベッツ。

彼の言うとおり、V8ヴァンテージと911はまったく別の種類のスーパースポーツである。だが、わたしは両者にいくつかの共通点があることに気づいた。

それはベッツがある村の入口の細いシケインを(片手ハンドルで)楽々と安定したステアリングワークで抜けていった時のこと。彼の操作のタイミングとクルマの動きは、まるで911のデジャブのようだった。

さらに、彼が常連だと言うパブ前で、大きな穴にはまった時の挙動も911に似ていた。ボディはみしりとも言わず、ただドンと踏面がきしむ振動が伝わってきて終わり。

まるで911のように……。V8ヴァンテージは走行中にどんな凹凸や轍やアスファルトの割れ目に遭遇しても、ノイズやひずみが出る兆しを見せない。そう、これもまるで911のように。

ひとつだけ断言できること

V8ヴァンテージが発売後間もない現在、どちらが本当に優れたクルマかを最終判断するのは時期尚早だろう。現段階で判明しているのは、その争いは間違いなく大接戦になるであろうということだ。

アストンにはモダンなスタイリングや、手作業で仕上げたエキゾチックな雰囲気の素晴らしいインテリア、そして広いドライバースペースといった長所がある。対するポルシェは、高品質という点では依然として象徴的な存在であるし、ユニークなエンジンや素晴らしいギアボックスなど独自の魅力に満ちている。しかし、こと走りに関するフィールドでは、例えば荒れた路面での安定性や乗り心地、グリップ力など、その実力はかなり均衡している。

いずれにせよ、最高の911を設計した男がふたたび最高のクルマを創り上げた。

それだけは間違いない。