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東京圏では大卒女性の約8割が、結婚・出産で「正社員」の職から離れてしまう。そして子どもが生まれ、その数が増えると、都心から千葉や埼玉の郊外に転居する――。日本総合研究所のアンケート調査で、こうした傾向が明らかになった。国が掲げる「女性活躍」のため、本当に必要なことはなにか――。

■産むか産まないかで住むエリアは変わる

厚生労働省の「保育所等関連状況取りまとめ(2017(平成29)年4月1日)」によれば、待機児童数が最も多い都道府県は東京都(8586人)でした。日本全国の待機児童数の実に3分の1を占めています。さらに周辺の千葉県はワースト3位の1787人、埼玉県はワースト6位の1258人、神奈川はワースト10位の756人でした。首都圏における待機児童数は依然として多く、仕事と家庭の両立の障壁となっているのは明らかです。

本稿では、そうした働きづらさを感じている女性たちの現状を、日本総合研究所の調査データをもとに考察したいと思います。

【1:第一子出産を機に約半数が正規雇用の職を離れる】

日本総合研究所は2015年、東京圏で暮らす25〜44歳の東京圏に所在する4年生大学または大学院を卒業した女性(以下、高学歴女性)を対象にアンケート調査を実施しました(以下、アンケート調査結果)。

この結果、卒業後の進路として正規雇用の職に就いて結婚した1364人(100%)の高学歴女性のうち、結婚後も正規雇用で働き続けた女性の割合は65.1%でした。この割合は第1子出産時点では48.1%にまで下がります。さらに、その後に子どもを2人、3人……と産んだケースを含む「子どものいる既婚女性」の場合、正規雇用の職にとどまっているのは23.6%にまで低下しています。つまり、子どもを持つ高学歴女性の約8割が正規雇用の職から離職または転職していることになるのです。

▼東京圏では子育てと仕事の両立はトレードオフ

東京圏で暮らす高学歴女性の多くは、新卒時点では正規雇用の職に就く傾向が強いものの、結婚や出産を経験する中で、正規雇用の職から正規雇用以外の働き方(パート、アルバイトなど)や専業主婦へと移行していく傾向がみられます。

アンケート調査結果のなかでは、正規雇用を離職した理由で最も多かったのは「できることなら子育てをしながら仕事を続けたいと思っていたが、実際に子育てと仕事の両立が難しいと思ったから退職した(35.0%)」でした。

退職理由にはほかにも要素があると思われますが、データからは東京圏では子育てと仕事の両立負担は極めて重く、いまだに子どもを持つことと仕事を続けることがトレードオフの関係になっている現状がうかがえます。

■都心5区の高学歴女性は正社員率が高いが出生数は低い

【2:子どもを持つ専業主婦になると住まいは千葉、埼玉、神奈川に】

高学歴女性の居住エリア別の就業形態をみると、正規雇用されている比率は「東京23区」に住む女性が28.3%で東京圏では最も高くなりました。そのほかの地域は、「神奈川県」22.9%、「千葉県」22.6%、「23区外の東京都」18.9%という結果でした。

一方、仕事を持たない専業主婦の比率を比べてみると、「東京23区」は最も低い37.6%でした。専業主婦率が60%前後にもなる「神奈川県」「千葉県」「埼玉県」とは極めて対照的な結果となりました(図表1)。

▼千代田・港・中央・新宿・渋谷の高学歴女性の子ども人数は0.53人

さらに、居住エリア別の正規雇用比率と、既婚の高学歴女性一人当たりの子どもの人数には「負の相関」がみられます。つまり正規雇用比率が高いと子どもの人数は少なくなり、正規雇用比率が低いと子どもの人数は多くなります。

例えば、正規雇用比率の高い「東京23区内」のなかの都心5区(千代田区・港区・中央区・新宿区・渋谷区)に限ると、その比率は39.0%ととても高くなっていますが、高学歴女性一人当たりの子どもの人数0.53人と非常に少なくなっています(図表2)。

多くの企業が都心部にオフィスを構えているため、子どもがいないうちは職住近接のために23区内に居住しながら正規雇用として働くものの、出産し子育てを行う専業主婦となると、離職に伴う世帯年収の減少や子育て環境を考慮して、東京近郊に居住する女性が多いことが想像できます。

しかし、テレワークの導入など、働く時間や場所を柔軟に選択できる環境整備づくりを企業側が進めていけば、「東京23区」の郊外に住んでいても、仕事と家庭の両立がしやすくなるなど、東京圏の女性が望むライフススタイルの選択肢が増えていくのではないでしょうか。

■東京23区外、神奈川、千葉の高学歴専業主婦の“無念”

【3:離職した女性のうち、再就職を望む専業主婦女性は多い】

前述したとおり、東京圏では高学歴女性のうち、約8割が結婚・出産を機に正規雇用の職から離職・転職します。さらに、子どもを持つ専業主婦女性の多くが、都心ではなく東京近郊(23区外、神奈川、千葉など)に居住をしていることから、高学歴女性が自らの意思で専業主婦であることを選択しているように感じますが、必ずしもそうではありません。

アンケート調査結果のなかでは、離職して専業主婦女性になった女性の約6割が再就職を希望していることも明らかになっています。さらに、実際に、再就職が可能になった状況になった女性を対象に、再就職ができない理由を尋ねると、約半数の女性が「家庭の事情などで働く時間に制約があるため、条件に合う仕事がない」ことを挙げているのです。

再就職先が見つからない専業主婦のなかには、「東京23区外」に住んでいるがゆえに、「自宅の近くで勤め先が見つからない」「オフィスの多い都心に勤めるには、通勤時間が長い」といった問題もあると想像できます。

▼神奈川、千葉、埼玉の専業主婦を戦力化せよ

主婦の再就職に向けて、企業と連携し「ママインターンシップ」(元キャリア女性の再就職を応援するプログラム)のプロジェクトを行っている株式会社Warisの小崎亜依子氏はこう語ります。

「昨今の人手不足の雇用情勢を受け、求人件数は多いのですが、企業はポテンシャルのある高学歴な専業主婦の女性のスキルを十分に活かせているとはいえません。専業主婦は、サラリーマンとは異なる多様な経験も持っています。企業は、こうした人材を活かす工夫をもっと積極的にしてよいのではないでしょうか。一方、専業主婦の皆さんにも、失敗を恐れずに、チャンスがあればどんどん再就職にチャレンジしてほしいと思います」

高学歴な専業主婦であれば、過去に得たスキルや専門性は、企業にとっても即戦力になるケースは少なくありません。例えば、育児などのためフルタイムでは仕事ができないという複数の女性に「フルタイム1人分」の仕事を分散させて担当してもらう、といった案もあるでしょう。

再就職する意欲が旺盛な高学歴の専業主婦が、再び職場で輝けるような取り組みを行うことは人手不足問題に直面する企業にとってもメリットがあるのではないでしょうか。

「女性の活躍」という言葉を政府が掲げて以降、多くの企業は女性が活躍できる場をつくろうと取り組んでいます。今後はとりわけ神奈川、千葉、埼玉といった「東京郊外」に住む高学歴の専業主婦への働きかけを強くするといいのではないでしょうか。そのためには、国が待機児童を減らす取り組みを加速させる必要があります。

(日本総合研究所 創発戦略センター ESGアナリスト 小島 明子)