J1昇格を決めたV・ファーレン長崎【写真:Getty Images】

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強化費=戦力という昨今の図式の中で、例外ともいえる活躍

 2017シーズンの明治安田生命J2リーグを2位で終え、J1昇格を決めたV・ファーレン長崎。春先には経営危機が叫ばれたシーズンであったが、ジャパネットの支援もありフロントの体制が安定。現場のチームも快進撃を見せ、1部リーグへの挑戦権を獲得した。県民クラブから企業クラブへ、激動の1年を経た長崎県のクラブにはどのような未来が待っているのだろうか。(取材・文:藤原裕久【長崎】)

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 今季のJ2最終節、アウェイの群馬戦で見せた長崎の戦いぶりは、DF乾大知、FWファンマ、MF幸野志有人が欠場し、MF島田譲もベンチに温存と4名も主力を欠きながらも「いつも通り」のものだった。

 伝統のハードワークや攻守切り替えの早さをベースに、攻撃では縦の早さと自分たちでボールを動かしていくスタイルを使い分け、守備においても球際の強さやハイプレッシャーを軸にピンチの芽を摘む。

 中でもDF田代真一のクロスからFW平松宗の決めた先制点と、その平松が落としたボールからMF吉岡雅和が2点目を決めたシーンは、「いつもトレーニングでやっていた(平松)」形であり、それを出場機会の少ない選手たちが決めたという事実からも、チームの熟成度を感じることはできた。

 スコアを4-0としてから、MF前田悠佑、澤田崇といった主力をさらに下げたことで、終了間際に1点を返されはしたが、記者席から「実力が段違いだ」という声が聞かれるほど、長崎のチーム力は際立っていた。

 この試合の勝利で長崎は、今季の目標勝点とした勝点80に到達し、3位につけていた名古屋につけた勝点差は5。終わってみれば、余裕すら漂わせてのJ1昇格である。これを「快挙」と称することに異論のある者は少ないだろう。

 昨季の主力を含む16名もの選手が入れ替わったトップチームの今季人件費は、開幕時点で3億にも及ばない。この額は過去にJ1昇格を達成したクラブはおろか、今季J1昇格を争ったクラブの中でもダントツに低いもので「今後、同程度の強化費でJ1昇格を達成するクラブはない」と評する関係者も多い。強化費=戦力という昨今の図式の中で、例外ともいえる活躍を見せたのが今季の長崎だったのである。

「チーム高木」を継続していけるか

 経営難に揺れた開幕前の喧噪から一転、J1自動昇格という大逆転のドラマの末、J1で戦う権利を得た長崎だが、J1というクラブにとって未知の領域で戦うにはあらゆる面でのレベルアップが必要だ。

 クラブにとって最初のノルマとなる「J1残留」を達成するためにやるべきことは多い。そのためにまず取り組むべき準備は「チームの継続性を維持・強化すること」だ。ここでいうチームとは、監督、選手、スタッフのみではなく、高木琢也監督の下で5年に渡って培ってきた強化方針や、チームの方向性も含んでいる。

 10年以上のキャリアを誇る高木監督は、これまで子飼いのスタッフや選手を作らず、手腕一つでチームを渡り歩いてきた。またスカウティングや強化、フィジカルトレーニングまで一通りこなせることと、横浜FCでのJ1昇格や、熊本、長崎といったローカルクラブを降格させなかったこともあって「少ないスタッフで手堅く結果を出せる監督」と見る向きが多かった。

 それが長崎で5年に渡り指揮を執り、古くからいる選手やスタッフとの相互理解が深まったことで、今季は「チーム高木」とも呼べるサポート体制が早くに整い、高木監督の「結果を出しつつ、中・長期視点でチームを作る」という一面をより強く発揮させる力へとつながった。

 高木監督の打ち出す方向性や意向を受けたコーチ陣や強化スタッフが献身的に動き回り、郄杉亮太、前田悠佑、村上祐介といったベテラン勢に支えられた選手たちがそれに応える……。今季の長崎が、そんな好循環に入れたのは、そういった土台があったことを忘れてはならない。

 高木監督は契約期間をあと1年残しており、続投が基本的な路線ではあるが、この「チーム高木」体制が壊れるようなことになれば、高木長崎の失速は免れられない。「チーム高木」を継続していけるかが、そのまま来季の方針のベースと言い切ってもいいだろう。

J1昇格POに出場の場合と比べ3週間早く動けるメリット

 もちろん、J1を戦うためは継続だけでなく強化も必要だ。コーチ陣についてもアウェイのリーグ戦中にサブ組のトレーニングが十分行えるよう増員する必要があるだろうし、チーム編成も今季をベースにしつつ、新たな戦力を迎えることができなければ、J1残留は現実的な目標とはなり得ない。

 チームは、昇格を達成した選手たちへ最大限の評価を行なった上で、できるだけ残すことを基本路線としているという。期限付き移籍で加入しているGK増田卓也、FW平松宗、MF丸岡満についても、所属元との話し合い次第ではあるが、原則的に来季も長崎でのプレーを念頭に獲得しており、これに複数年契約を結んでいる選手が多いことを踏まえれば、選手の大幅な入れ替えが起こる事態は、今年こそ避けられる見通しだ。

 それだけにJ1へ向けたカギとなるのは、やはり選手補強だ。今季途中から強化部長が空席となったままではあるが、今季、事実上の強化責任者を務めた竹村栄哉氏は、長崎のJ参入以来、強化を担当し続け、高木スタイルを最も理解するスタッフの一人。特に厳しい条件の中で、中村慶太、翁長聖といった「掘り出し物」の選手を獲得する手腕への評価は業界でも高く、問題はない。

 高木監督ともシーズン中から何度も編成会議を行なっており、すでに報道のあったFC東京の徳永悠平をはじめ、即戦力のボランチやDF、将来性と実力を併せもつ大卒選手の獲得など、現場の選手の強化プランや方向性は早くから決定済だ。

 今後はクラブと方針をすり合せながら、選手の獲得が正式に進められる予定だが、リーグ戦終了前にJ1昇格を決めたことで、J1昇格プレーオフに出場した場合と比べて3週間早く動けるメリットもあり、現場の意向はしっかりと反映された戦力が整うと見られている。

激動の1年に経験した、あまりにも「特別」な物語

 そして、忘れてならないのが来季からのクラブ運営の重要性だ。今季、イメージや経営の改善、会社組織の再編、観客動員など、想像を超える成果を出したフロント陣ではあるが、スタッフ増加の一方で、Jクラブの業務について詳しいスタッフが少なく「我々としては満足できていない」とジャパネット関係者が認めるとおり、試合運営や広報面での苦戦も多かった。

 また経営難を救うためになされた資金注入をはじめ、応援番組やCMの製作や放送、スタジアムイベントの経費や、グループ会社からの人材投入など、クラブの存在はジャパネットの手厚い支援無しには成り立たなかった。

 今後もJ1定着を狙う戦力補強や、前体制のもとで大幅に縮小されたアカデミーの再建などが必要なため、ジャパネットの支援は必要だが、そんな中でも高田明社長が目指す「クラブの自立経営」へ向けて、ジャパネットグループ全体に負担をかけない方向への道筋も示していかなければならない。

 そして、それは長崎のサポーターや県民にとっても大きなチャレンジとなるはずだ。企業の後ろ盾を持たない県民クラブが窮地に陥り、ジャパネットという良識ある大企業によって救われ、努力の末にJ1昇格を勝ち取った。

 それはあまりにも「特別」な物語だ。特別な物語は、滅多にないから特別である。リーグ戦の戦いは非日常でもいいが、V・ファーレン長崎やJリーグが本来目指すのは、街と人に根ざす日常としての存在であるはずだ。

 今季、V・ファーレン長崎は純粋な県民クラブから、企業クラブへとなることで再生された。ここから、サポーターや県民がジャパネットと同じ目線で理解しあい、共に支え合う関係となれたとき、V・ファーレン長崎は県民クラブの自由度と、企業クラブの安定感を併せ持ち、互いの弱点を補いあえる「ハイブリッドクラブ」へとなれるに違いない。

 新しいクラブの形を胸に、新しいリーグ「J1」へ。来季は、長崎がサッカーと共にある街になれるかどうかの試金石のシーズンとなるにちがいない。

(取材・文:藤原裕久【長崎】)

text by 藤原裕久