Jリーグのカレンダーを「秋春制」にする議論が大詰めを迎えている【写真:Getty Images】

写真拡大 (全2枚)

大詰めを迎えたシーズン移行問題の議論

 Jリーグの「シーズン移行」に関する議論が大詰めを迎えた。1993シーズンから採用されてきた春秋制を、ヨーロッパと同じ世界基準にしたいと提案してきた日本サッカー協会の田嶋幸三会長が、14日のJリーグ実行委員会に続いて21日の同理事会でもプレゼンテーションを実施し、移行するメリットを訴えた。これを受けて村井満チェアマンは12月の理事会で最終的な判断を下すと明言したが、約8割の実行委員が反対している現状もあり、否決されることが確実となっている。(取材・文:藤江直人)

----------

 日本サッカー界において長く議論の対象となってきた、Jリーグの開催シーズン移行問題が大詰めを迎えている。

 Jリーグのカレンダーを現行の「春秋制」から、ヨーロッパのシーズンにほぼ合わせるかたちで8月上旬に開幕して翌年5月末に閉幕する、いわゆる「秋春制」へ移行するプランは昨年12月から、日本サッカー協会(JFA)内のJFA・Jリーグ将来構想委員会で本格的に議論されてきた。

 同委員会の委員長を務めるJFAの田嶋幸三会長は今月14日のJリーグ実行委員会、さらには21日のJリーグ理事会に出席。シーズン移行が日本サッカー界にもたらすメリットを含めたプレゼンテーションを行ったが、Jリーグ側の見解は現状維持でほぼ固まっている。

 東京・文京区のJFAハウスで行われた理事会後に記者会見した、Jリーグの村井満チェアマンはこう話すとともに、来月12日の次回理事会で最終的に判断すると明言した。

「日本代表の強化とリーグの繁栄とが両輪で回っていくところで、シーズンの移行に関しては、現在のところ非常に難易度が高いというリーグの見解を(田嶋会長に)お伝えしました」

 シーズン移行を提唱してきたJFA側は、具体的な時期としてワールドカップ・カタール大会が開催される2022年からの実施を提案。メリットとして(1)日本代表を強化する(2)リーグ戦の終盤がより盛り上がる(3)降雪地域のスポーツ環境整備を進める――ことに資すると訴えてきた。

 これらを受けてJリーグの実行委員会などで検討が重ねられてきたが、それぞれに対して次のような意見が集約されるに至っている。

 まずは(1)の「日本代表の強化」に関しては、ヨーロッパとシーズンを合わせることで日本人選手がいま以上に行き来しやすくなり、さらに質の高い外国人選手や指導者も増えることで、リーグの水準も上がる、という考え方が伝えられた。

 事務方の責任者として将来構想委員会にも出席してきたJリーグの藤村昇司特命担当部長は、「ヨーロッパと行き来しやすい要素はある」としながらも、こんな見解を示している。

「日本人選手をどんどん送り出すという意味では、たとえば選手の語学能力の向上にサッカー界を挙げて注力していくなど、他の手段もあるのでは、という意見も出ている。日本と同じシーズンで開催されている中国やアメリカを見ても、いい選手を獲得できているし、いい監督も来ているので」

変則日程によって水を差されているJ1

 次に(2)の「リーグ戦の終盤がより盛り上がる」に関しては、まさにいま現在が、変則日程によってJ1が水を差されている真っただ中となる。

 2013シーズンから、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝が11月にホーム&アウェイ方式で、しかもともに土曜日に開催されるようになった。今年は4日にYBCルヴァンカップ決勝が入り、さらには国際Aマッチデーウイークも毎年設定されている。

 佳境を迎えているJ1は必然的に、変則日程を余儀なくされる。本来は18日に第32節、26日に第33節をいっせいに開催するスケジュールは、浦和レッズがACL決勝に進出したことを受けて、レッズ絡みの2カードを分離開催することで調整している。

 たとえば18日に2位の川崎フロンターレが敗れれば、すでに前倒しで行われた試合でレッズに勝利している鹿島アントラーズの連覇が決まっていた。試合のないクラブが優勝すれば、四半世紀を迎えたJ1で初めての事態だった。

 翻ってシーズンを移行すれば、国際Aマッチデーウイークがない4月および5月がシーズンの佳境になる。所属クラブでの試合に集中できることで選手たちにかかる負担も軽減され、長い目で見れば日本代表の強化にも好影響を及ぼしてくる。

 もっとも、藤村特命担当部長は「一理あると思う」とJFA側の提案を尊重しながらも、リーグ戦全体のプロモーションの観点から懸念が示されたと明かす。

「現状では集客の山場がゴールデンウイークといま時分の終盤戦と2つあるが、移行すると5月にまとまってしまうので、年間を通して見ればマイナスなのかなと。4月にプロ野球が開幕して、メディアの露出がかなり野球押しになる時期に、リーグの終盤が当たることが得策かどうかというのもある」

 一方でACLのスケジュールが現状のままだと、5月にはグループリーグ終盤戦とホーム&アウェイで行われる決勝トーナメント1回戦が入ってくる。代表選手を多く擁する上位クラブにかかる負担は、たとえJリーグのシーズンを移行したとしても軽減されないことになる。

 2020シーズンまでは、ACLは現状のままで開催される。ヨーロッパと同じシーズン制を採る中東勢は変更を希望しているが、UEFAチャンピオンズリーグとスケジュールが重複しないほうが、マーケティング上でメリットがあるとアジア・サッカー連盟(AFC)はにらんでいるとされる。

Jリーグ側が挙げる、シーズン移行の難易度が高い理由

 最後の(3)の「降雪地域のスポーツ環境整備を進める」に関しては、理想として目指すところはJFAもJリーグも変わらない。ただ、現実としては厳しいと藤村特命担当部長は指摘する。

「シーズンを移行すると決めたら、降雪地域の自治体が試合会場やトレーニング施設にお金を出してくれるのかと言えば、実際に自治体や地域と向き合っているクラブの意見としては、おそらくそうはならない、なかなか厳しいのかなと」

 Jリーグはさらに、シーズン移行に対して難易度が高いとする理由を5つ挙げている。まずは「リーグ戦の開催期間が短くなること」となる。

 現状とシーズンを移行した場合のカレンダーを比較すると、後者はウインターブレークを設けているため、1月と2月のほとんどが使えない点は現状と変わらない。後者ではさらに、6月と7月がシーズンオフとなる。

 単純計算でリーグ戦の開催期間が2ヶ月短くなるところを、12月と2月の開催時期をそれぞれ増やすことで1ヶ月にとどめた。要は現状よりもスケジュールはさらに過密になる。当然ながら増やした分は降雪地域での開催は難しくなるため、当該クラブは冬期にアウェイ戦を連続させ、温暖な時期にホーム戦を連続させる日程を取らざるを得ない。

 おりしも19日のJ2最終節では、モンテディオ山形のホーム、NDソフトスタジアム山形が試合途中から大雪に見舞われ、ハーフタイムには雪かきが行われ、オレンジ色のカラーボールも導入された。

「ファンやサポーターが来られるぎりぎりのタイミングでいま現在は開催されていて、これ以上深く、1週でも(12月の)奥に行けば、集客上ではほとんど現実感がないという話は降雪地域の複数のクラブから出ています」

 実行委員会内で出された意見を明かした村井チェアマンは、ひとつのチームが連続してアウェイ戦を戦う日程は、ファンやサポーターの立場から見て決して好ましいことではないと指摘している。

「ファンやサポーターからすれば、隔週でクラブと触れ合うことでいいエンゲージメントができる。観戦者のいろいろな状況を鑑みると、ホーム戦とアウェイ戦がよいリズムで行われていくのがいいのではないか、という声が多くありました」

企業の決算リズムとのズレ。スポンサー確保への不安

 シーズン移行には、選手のパフォーマンスや試合の質が下がり、ひいてはサッカー観戦の魅力を損ねていると指摘されている、酷暑の時期の試合を減らすことも目的のひとつとなっている。

 Jリーグ側では原博実副理事長が窓口となるかたちで、日本プロサッカー選手会(JPFA、高橋秀人会長/ヴィッセル神戸)とシーズン移行に関して意見交換を行った。JPFA側としてはシーズン移行よりも、天皇杯決勝が元日に行われることで、いっせいにオフに入れない点が懸念されたという。

 5つの理由のうち2つ目は「育成の問題」となる。藤村特命担当部長が言う。

「Jリーグと日本サッカー界の将来的な発展を考えたときに一番大事なのは育成であり、その観点からすると、学校の年度と近い現状のシーズンのままのほうが、上手くいくのではないか」

 3つ目は「移行に伴う経営上のリスク」となる。JFA側が示した通りに2022年から移行すれば、上半期に実質的な空白期間となる。前年からシーズンを継続させるのか、あるいは短期間の大会を創設するのか。その間にリーグおよびクラブとして、収益を確保できるのかという問題が生じる。

 さらには各クラブとスポンサーシップを結ぶ企業のほとんどが、年度末決算をとっている点とも密接に関係してくると藤村特命担当部長は続ける。

「いまのJリーグのシーズンが企業の決算のリズムと合っているという点が、スポンサーとの関係のうえでは大きなプラスになっている。そこが半年ずれてしまえば、収益確保の点で不安な要素になってくるという声が多く出されている」

JFAの提案に理解は示すも、Jクラブは8割が反対寄り

 4つ目は「会場手配の問題」となる。J3までを含めたJクラブのほとんどが、行政所有の公共施設を試合会場として使用している。地域の陸上競技場として使用されているスタジアムも少なくなく、シーズンを移行した場合、行政年度をまたいで手配・確保することができるのかどうか。

 昇降格とも関わってくるだけに、地域のスポーツ団体や学校との調整は決して簡単な作業ではないと藤村特命担当部長は指摘する。

「とりあえず先にJリーグで押さえたいというお願いを、地域との関係が上手くいっていればできるんでしょうけど。陸上競技場は場合によっては地域の学校の運動会にまでつながっている話なので、地域をあげてクラブに協力する関係性ができていなければ、使用調整のめどが立たないいのかなと」

 最後の5つ目は「全Jクラブの意思」となる。Jリーグは全54クラブの実行委員に、シーズン移行に対するアンケート調査を実施。大半がJFAの提案に理解を示したうえで、藤村特命担当部長によれば「8割の方が反対よりの意見を寄せられた」という。

 Jリーグ側では経営上のリスクや会場手配の問題などを、来月6日に開催されるJ3までを含めた合同実行委員会で再度議論するが、村井チェアマンは「もう(議論の)材料は出そろったという認識です」とも明言した。

 JFAの田嶋会長は最終的にはJリーグの決定を尊重するというスタンスを取っている。さらに12月の理事会で現状維持もしくはシーズン移行のいずれに決まった場合でも、10年間はJリーグの開催シーズンに関する議論は行わないことも確認されている。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人