デンマーク発祥の“ヒュッゲ”とう言葉を聞いたことがありますか?まだ日本では聞きなれない言葉ですが、今、世界中で注目を浴びているライフスタイルを表す言葉のひとつなのです。今回は、この“ヒュッゲ”をテーマにした『世界一幸せな国、北欧デンマークのシンプルで豊かな暮らし』(大和書房)の著者であり、北欧家具や照明器具への造詣も深い芳子ビューエルさんに、お話をお聞きしました。ストレスを溜めない生き方から家具選びまで、働き女子に教えてください!

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ヒュッゲの精神とは「ありのまま」でいること

――ズバリ、「ヒュッゲ」とはどういった意味なのでしょうか?著書の中では、日本でいう「おもてなし」に近いのではないかと書いていらっしゃいましたが……。

北欧をはじめ、北米やヨーロッパでも仕事をする芳子ビューエルさん。ダンナ様は留学時代に知り合ったカナダ人。現在は株式会社アペックスの取締役社長を務める。

「ヒュッゲ自体は訳し方によっては、“巣ごもり”とか、“コージーネス(居心地がいい)”というニュアンスで使われているのですが、『これだ!』っていうピンポイントになる言葉が他にないんですよ。デンマークに行くと、おもてなしのコンセプトが違うんです。日本人は人をご招待するときには、完璧な状態でご招待して、お食事を楽しんでもらうとか、全部おぜん立てをしたうえで呼ぶじゃないですか。でもデンマーク人は、一緒に過ごす時間とか一緒に何かをするプロセスすべてが“おもてなし”と捉えている部分があって、そんなところが“ヒュッゲ”の精神なんじゃないかと」

――気取らない、心地よい時間や空間、というイメージでしょうか。それは他の国にはない、デンマークならではの事柄なんですか?

「私もカナダに8年半住んでいて北米の人たちの過ごし方はわかっていたし、その後にはドイツとかフランスにも仕事でよく行ったのでヨーロッパの時間の過ごし方とかは知っていたんです。でも、デンマーク人は本当に飾らないんですよ。例えば、お食事なんてすごい美味しいものを出してくれているにも関わらず、作ってくれた人は『(服が)シミだらけだわ』と迎え入れてくれて。着替えるのかなって思ったら、着替えないで『美味しいから食べましょう』と言われる。飾らないんですよ(笑)」

――日本だとおめかしして、メイクも徹底的に直して……となりそうですね。

「そこはすごく大きくて。デンマークのチュノ―島(サムセー島近くにある小さな島で、ここに別荘を持ったり、移住しているのは一部の富裕層)にいる人たちが誇りに思うのは『ここにいるとどんな格好をしていてもいいし、歯を磨いたって磨かなくてもいいんだよ』って言うんですよ。要は『それだけ自由でいて、いいんだよ』って意味で。自分が素の姿でいられることが贅沢なんだ、と。こういうのが“ヒュッゲ”の根底にありますね」

――では今、世界的に“ヒュッゲ”が注目されているのはなぜだと思いますか?

「やっぱりみんな、無理している部分があると思うんですよ。生活の中で、無理な状態が長く続くと疲れますよね。その中で疲れたストレスの原因を取り除けたら、どれだけいいんだろうってところなんじゃないかって思います」

著書『世界一幸せな国、北欧デンマークのシンプルで豊かな暮らし』(大和出版)

どうしたら日本でも“ヒュッゲ”な空間が作れる?

――24時間営業のコンビニや、深夜まで街中に明かりがともっているような日本で、“ヒュッゲ”のようなゆったりとした時間の過ごし方をするには、どうしたらよいでしょうか?何かコツとかありませんか?

「30代の女性の人って、だいたいみなさん仕事してると思うんですよね。お家に帰った時にホッとする場所を作っておくのがいいですね。インテリアの部分からいけば、最初に考えるのは『ソファを買わなきゃ』とか『応接セットみたいなものを買わなきゃ』ですよね。だけれども実際問題、お客様が30代の女性の家にどれくらいの頻度でくるかなと考えると、人を招き入れるってことはあんまりないって思うんですよ。だから、彼女たちが家に帰った時に、一番心地よくいられるインテリアをまず考える。

3点セットって言ってるんですけど、パーソナルチェアと小さなコーヒーテーブルとスタンド。例えば、自分が座って本当に心地よくてリラックスできる椅子が1個あると、すごく違うと思うんです。あとは、お部屋の中のライトを、調光できるスタンドライトに切り替えたりするだけで、心理的な効果が違ってくるんですよね。それだけで、目の疲れも十分取れると思うんですよ。特に30代はコンピューターをずっと見ていたりする仕事も多いかと思うので、まず目を休めて心をリラックスさせるには照明がすごく大事。オフィスのPC環境や照明は、疲れ目の一つの要因だと思います。

本当、ひと手間なんですよ。紅茶もティーバックで淹れず茶葉から淹れるとか。ひと手間かけることで、ちょっとした豊かさも自分の生活の中に入れるみたいなイメージです」

ほんのひと手間かけることで、自分の豊かな時間が生み出せる。

椅子は心から寛げるものを!

「デンマークでも、若い人がよくアンティークやヴィンテージの物を買うのですが、必ず椅子って重要なポジションにあるんですよ。椅子は必ず背伸びをしてでもいいものを買う。『自分より年上の者を持つ』というのがすごく重要なことなんです。いい椅子を買うっていうと20万越えはしますよね。そのお金を持っていけば、大型家具店で応接セットが買えちゃいます。でも、自分の居場所を持つってことが大事だと思うんですよ。家に帰ってきたときにそこに座るとホッとするとか、疲れちゃったなって思った時も、そこで肩の力が抜けるような。少しほっとできるような場所があるだけですごく違ってくるんですよ、生活の質が」

――実際に椅子を選ぶときは、どこに気を付けたらよいですか?

「う〜ん、椅子は通販で買うのはダメ。実際に座らなきゃダメ。投資額で言ったら、お給料より高い物を買うわけですよ。だとしたら、良くなかったら悲しいですよね。展示会とか行くといいんですよ。大型展示場とかで家具フェアなんかやっている時に『座らせてください』って、試してみるんです。実際に座ってみると『椅子ってこんなに違うんだ』と気づくと思うんですよ。材質とか作りによって、本当に体を包み込んでくれる椅子はいっぱいあるし。そういう部分をもっと大切にしないと、いつも頑張っていると疲れますよ」

“〜ねばならない”と考えずに、柔軟にいくのが“ヒュッゲ”に繋がる

――“ヒュッゲ”な暮らし、素敵ですね。でも日々働いていると、仕事やプライベートで余裕がなくなってついイライラしちゃったりします……。そんなときは、どうすればいいでしょうか?

「人の言うこととか批判とか全部受け入れて優等生になろう、と思わないことだと思います。それって、すごく重要だと思うんですよ。人って好きなことを言うじゃないですか。それを敏感に聞いていたら、疲れるんですよ。だから疲れることは排除する。そのことを身につけないと、日本人は本当に疲れます。人の言うことに振り回されないためにも、すごく重要なポイントだと思います」

――働き女子の中でも真面目な優等生は特に、“ヒュッゲ”を意識したら良さそうですね。彼女たちはみんな耳を傾けすぎていて、心身を病んでしまう人もいます。

「デンマークでは雨が降ったり曇ったりすると昼間でも暗いので、夜だけでなく、昼でもキャンドルに火を灯しています。オフィスでも、キャンドルがあるんですよ。電気が明るいと、すごく『仕事しなさいよ』っていう感じがするじゃないですか。でも電気の明るさを少し落として、そこにキャンドルがあったら全然違う雰囲気だと思うんですよ。もっとみんながリラックスして、やわらかい雰囲気で仕事ができると思うんです。

あと、例えばピクニックに行くとなったら、ガラスのコップをキッチンから出してきて『それ、割れちゃう』って思うとディッシュクロスでパッパッって包んで持ってきて。日本人だったらピクニックと言ったら、ピクニック用のお皿がなきゃダメとか、フォークにナイフはプラスティックでとか考えるじゃないですか。そうじゃないんですよ。デンマークは『あるもの持っていけばいいんじゃないの』っていう考え方で。そういうところが合理的っていうか、そこがわりと“ヒュッゲ”に繋がっていくのではないかと思うんです。要は、みんなが楽しく食べられて集えて共通の時間を持てることの大切さが味わえればいい、っていうこと。形とか見た目を、そんなには重視はしていないんですよ」

まとめ

・ヒュッゲとは気張らない、ありのままの心地よい暮らし方

・アラサーOLが家を心地よくするために必要なのは、パーソナルチェア、コーヒーテーブル、スタンド

・人の言うことを聞きすぎない

芳子さんが手掛ける高崎市「インテリアショップALTO・カフェ」の店内。落ち着いたモダンな雰囲気。

“ヒュッゲ”な暮らしを手に入れることで、自分自身を大事にできそうですね。明るく語る芳子さんですが、実はバリバリやり手の女性起業家であり、代表取締役社長でもあるのです。後編では、働く女性や起業したい女性に向けてのビジネスアドバイスを伺いました!〜その2〜に続きます。