大人の語彙力とはいかにあるべきか(写真 : xiangtao / PIXTA)

メールやSNS全盛の世の中、日常でも仕事でもくだけた言葉遣いが増えています。カジュアルな表現は相手に親近感を持たせることもありますが、行きすぎると「この人に仕事をまかせていいのか」などと心配になることも。
大人の語彙力とはいかにあるべきか。明治大学文学部教授・齋藤孝先生に聞いた。

大人の「語彙力」が危機的状況だ

今、大人の言葉遣いが問題になっています。子どもっぽい話し方をしている、社会人らしく見えない。そして、そのことで損をしてしまう。そういう方は増えているように思います。

就職活動の際、あまりにも学生言葉、子どもっぽい言葉遣いをしてしまうと、「この人は社会に出すにはちょっと不安である」「その教育を担うだけの余裕がうちの会社にはない」というふうに判断をされて不利になることもあります。

メールのやりとりが仕事の中心になってきていることも、大人の語彙力が減っている背景にあるように思います。

メールでの言葉遣いというのは、ちょうど書き言葉と話し言葉が混ざったような新しい文体の文章です。純粋な書き言葉と違って、メールというのは話し言葉のような気安さもちょっと含んでいます。

話し言葉の伝統と書き言葉の伝統の重なる部分が、ちょうど今メールという形で非常に拡大してきているのです。

“きちんとした大人の言葉遣い”という点で、ベースになるべきは、書き言葉です。しかし、今SNSなどで話し言葉で文をつくる傾向があるので、それが失われつつあるように思います。

私は『語彙力こそが教養である』『大人の語彙力ノート』と語彙に関する2冊の本を出しましたが、「語彙力」が注目される背景には、読者の方々の中にも不安や違和感があるのだと思います。

語彙力を「言い換え力」で身に付ける

必要なのは、語彙を増やすということ、語彙力を高めるということです。

日本語の語彙は大変豊かです。ですから、1つの言い方だけではなく、「言い換え力」を身に付けていくといいでしょう。こうも言えるし、ああも言える。あるいはニュアンス的にはAよりもBのほうがよりニュアンスが伝わるといったように、細かなニュアンスが伝わるように言葉をセレクトする。そういう力が語彙力というものです。

語彙力がない人は、決まりきった言葉、あるいは子どもっぽい言葉しか使えません。そうすると、正式な場面でのあいさつ、たとえば結婚式、あるいはお葬式、あるいはみんなの前でプレゼンテーションをするとか、会を取り仕切るといった場面で恥をかくことにもなってしまう。

そこで、フレーズとしてまずは使いこなせるようになっておくとよいでしょう。

新刊でも触れましたが、ここで、大人であれば言い換えを持っておいてほしい言葉について、紹介していきましょう。

●なるほど

会話の中で相手に同意をすると、相手も安心して話をしてくれます。「なるほど」は、状態や理屈を確認し、納得することを示す言葉。会話では相手の言葉に同意する気持ちを表します。

相槌として使いやすいため、クセのようになって連発してしまう人が多いようですが、多用していると、「ちゃんと話を聞いているのか」と相手に疑念を抱かせる恐れがあります。また、目上の人に対して使うと尊大な印象を与えるので、頻繁には使わないのが基本です。

「おっしゃるとおりです」「確かにそうですね」「ごもっともです」といった相槌に使える言葉も知っておくとよいでしょう。クレーム対応のプロによると、「おっしゃることは、ごもっともです」という言葉は、相手の怒りをおさめるにも効果的だそうです。

●大丈夫です

「大丈夫」も普段さまざまなところで使います。たとえば、「その仕事1人でできる?」と言われて「大丈夫です」、また「手伝おうか?」と言われて「大丈夫です」など。便利な言葉ではありますが、最近は「心配ありませんよ」という意味や拒否の意味でも使われるため、意味がとりにくいことがあります。

「心配ありません」という意味でしたら、「問題ございません」「差し支えありません」という言葉が丁寧ですし、「不要です」ということを言いたいなら「お気持ちだけいただきます」と言ったほうが伝わります。

●今、おカネがなくて

急な飲み会などに誘われて、「今、おカネがないから、一緒に行けないんだよね」と、そのまま言うのは、ちょっとかっこ悪いですね。そのときに使えるのが、「持ち合わせ」です。 「持ち合わせ」とは、現在持っている金銭、所持金のこと。おカネがないことを「今持ち合わせがなくて」と表現します。「金欠病で」という表現もいいかもしれません。

●ぶっちゃけ

「ぶっちゃけ」は、ぶっちゃける(打明)を略した語。「ぶっちゃける」は「ぶちあける」から転じた言葉で、隠すことなく語るという意味です。

「ぶっちゃけ」は、2000 年代から使われるようになり、2003 年にテレビドラマ「GOOD LUCK!!」で俳優の木村拓哉さんがセリフで多用したことから、一般に浸透しました。まさか目上の人に「ぶっちゃけ、言わせてもらいますが……」などと口にしている人はいないとは思いますが、つい仕事の場面で使ってしまう方もいるのではないでしょうか。

言い換え表現としては、「ありていに言えば」があります。

「有り体」は、ありきたりなこと、ありふれたことのほか、ありのままであること。「ありていに言えば」は、「隠すことなく」という意味です。ほかにも、「率直に言うと」「本音を言うと」などの言葉も近い言葉です。

友だち同士のおしゃべりだけでは「語彙力」は増えない


私は研究者として、日本人の国語力、日本語力をずっと見てきましたが、各世代で気になるのは、漢語の活用の力が年々落ち続けていることです。

私は活字文化を推進する委員会に所属しているぐらいなのですが、大きな流れとしては、漢籍というものを中心とした勉強から離れてきたということが原因の1つ。もう1つは、そもそも活字離れが進んでしまっていることです。

ここでいう活字とは、新聞や書籍などで使われている活字を指します。それが日本人の教養、あるいは頭の働きそのものを支えていると考えています。

活字文化から離れ、友だち同士のおしゃべりだけを続けていても、語彙は増えません。語彙の少ない友だちと延々と話しても、やっぱり語彙は増えない。500語ぐらいですべての用が足りてしまう。場合によっては、「すごい」とか「ヤバい」などと言っていたら、20語ぐらいですべての会話が終わってしまう。そうすると、新しい言葉に出会えないわけです。

書き文字である活字というものを吸収していくことによって、日本語として使える語彙力を飛躍的に高めることができるのです。その際に、この言葉というのはこういう大本があるんだとか、この漢字はこういうふうな成り立ちなんだとか、そういうところも同時に知ることができると、記憶が定着しやすくなり、応用もしやすくなっていきます。