エリートとはフランス語のéliteが由来で、「選び抜かれた人」という意味だ。

日本で言われる“エリート”とは、学歴が高く且つ年収の高い男性を指す場合が多い。

東京大学出身、世界的IT企業のアメリカ本社への転職が決まっている亮介は、まさに世に言う”エリート”。

そんな亮介が、日本に一時帰国している半年の間に、日本での婚活を決意する。

しかし、亮介の婚活はなかなか苦戦を強いられた。

、綾乃、そして亮介が良いと思った香奈。結局全員、亮介の理想とは異なった。

失意の中、昔のバイト仲間の健太から連絡が。待ち合わせた店に行ってみると、そこには見覚えのある女性がいた。




「・・・一ノ瀬さん・・・?」

とっさに「里緒」と口を衝いて出そうになったが、なんとか堪えて苗字を呼んだ。

「あれ・・・?亮介君・・・?」

彼女の名前は、一ノ瀬里緒。亮介より3歳年上で、ずっと会いたくて、そして、会いたくなかった“元カノ”である。

里緒とは、大学3年生の時にアルバイトしていた、小さなシステム開発会社で出会った。

世の中の急速なIT化に伴い、情報システム構築の需要が増しており、亮介はその会社にアルバイトとして雇われたのだ。里緒はその会社の社員だった。

誰もが認める美貌だけでなく、仕事に真摯に取り組む姿や大人な気遣いに亮介はすぐに惹かれ、しばらくして付き合うことになった。

「そうそう、さっき亮介にも声かけたんだ。」

そう言って悪気なく笑う健太は、亮介よりも2ヶ月ほど早くその会社でアルバイトとして働いており、同い年とあって、当時はよく遊んだ仲だった。

しかし、アルバイトと社員が付き合うのは体裁が悪いと、健太にも里緒との交際は内緒にしていた。

ーまさか、こんな形で里緒と再会することになるなんて。

「今日さ、渋谷を歩いてたら偶然一ノ瀬さんを見つけて、思わず声をかけたんだ。で、亮介も来られたらと思って。」

健太の”いい奴オーラ”を放った笑顔に拍子抜けしながら、何とか平静を装って席についた。

「健太は相変わらず元気そうだな。一ノ瀬さんも、お久しぶりです。」

「うわー、久しぶりだね!何年ぶりだろう?すっかり大人の男性になったね。」

亮介とは裏腹に、何事もないかのように話す里緒を見て、少しだけ寂しい気持ちになった。

ー彼女の中では僕はすっかり、ただの昔の男だな。

亮介は昔の恋を引きずるタイプではない。が、里緒だけは違った。”スペック重視じゃない女性”を探すきっかけを作った女性だったからだ。

「そんなに変わったかな?一ノ瀬さんは相変わらず・・・綺麗なままですね。」

それは本音だった。昔から通り過ぎる人が振り返るほどの美人だったが、さらに大人の艶っぽさが増して、クラっとくるほど美しい。

「ふふ、そんなことをさらっと言えるようになるなんて、海外帰りは違うわね。」

里緒はそう言って、健太と一緒になっていたずらっぽく笑った。


亮介の元カノである里緒とは・・・?


里緒の心境


「・・・一ノ瀬さん・・・?」




聞き覚えのある声がして振り向くと、そこには一人の男性が立っていた。里緒に気づいて困惑しながらも、優しそうな澄んだ目で見つめる彼を見て、すぐに亮介だと分かった。

ー亮介・・・何で・・・?

今日はたまたま渋谷のヒカリエに用事で来ていたところ、前の会社のアルバイトだった健太に声をかけられたのだ。

当時と変わらぬ開けっぴろげで壁のない健太に懐かしさを感じた里緒は、ちょっと一杯飲もうと、健太がよく行くという『高太郎』に行くことになった。

けれど、まさか亮介も呼んでいたとは。

ー素敵な大人になったな。

付き合っていた頃の亮介は、今より少し幼さの残る顔立ちで、自信がある割には年上の里緒に対してどこか遠慮がちな青年だった。

当時の里緒は年下男性に興味がなく、その上少し男性嫌いでもあり、さほど興味を抱かなかった。

しかし、営業兼事務を担っていた里緒は、事務的なやり取りを通して、いつしか亮介と仲良くなっていった。

「一ノ瀬さんって、魔性の女だよね。」
「この間の案件、一ノ瀬さんが気に入られたから決まったって聞いたよ。」

その頃里緒は、一部の社員の間で身に覚えのない陰口を叩かれていた。

「気取っている」や、「男子に媚びている」などの陰口は、小さい頃から散々言われて来た。中学生になると、周りの男子からは明らかに色目で見られ、知らない男性にストーカーまがいのことをされたりした。

大人達は悪気なく「色気がある」だの「男ウケする雰囲気だね」などと言って来たが、自分の何がそうなのか分からず、その言葉が嫌で仕方がなかった。

「付き合ってもらえませんか?」

亮介にそう言われた時は、社内で評判の良くない自分に、人気者の亮介が本気で言って来る訳がない、と冷たく断った。

それでも亮介の優しい態度は一切変わらず、いつの間にか里緒の側にいて、孤立した社内で居心地の良い場所を作ってくれる。そんな亮介に、里緒は徐々に心を許していた。

「里緒さんはやっぱり僕と居るべきだよ・・・なんて。」

その時の、「にっ」と大きな口ではにかんだ笑顔が、「この人なら大丈夫」と思わせてくれた。

しかし、亮介がドイツに行って3ヶ月ほどして、Skype越しにあっさり別れてしまった。5年ぶりに見る亮介は、里緒が知っていたよりもずっと大人で素敵な男性になっている。

亮介のことはすっかり過去の恋愛だと思っていたのだがー。

「海外帰りは違うわね。」

里緒がそう言ってからかうと、亮介はたちまちバツの悪そうな顔をした。それは純粋で真面目で優しく、少しだけ面倒臭い、大好きだった昔の亮介そのものだった。


再会した二人は・・・?


亮介が、里緒を忘れられなかった理由


「こんな懐かしいメンツが揃うなんて、うれしーなぁ。」




健太はビールをぐいっと一気に飲み干し、すぐにお代わりを頼んだ。昔からビールしか飲まない奴だ。

「亮介も今や立派にやってるんだなー、あの頃は俺と一緒になって馬鹿やっていたのに。覚えてる?あの頃亮介さ・・・」

酔った健太は気分が良くなったのか、亮介も覚えていないような昔話を出してきては里緒と一緒になって亮介をからかい出した。

「亮介ってたまにとぼけたところがありましたよね。昔、仕事の打ち上げに中目黒の店集合だったのに、亮介一人なぜか品川の全然違う店にいて。」

「あ、それ覚えてる!その上、やっと到着して靴を脱いだら、ボーダー柄と無地の左右違う靴下を履いてたりして。」

そんなことよく覚えているな、と半ば感心しながらも、あの頃がやけに懐かしい。

「そのくせ考えなくて良いところにばっかり頭回してさ。女の子と付き合う時もとりあえず付き合えば良いのに、“中途半端な気持ちで付き合えないから”とかごちゃごちゃ理屈こねて、結局チャンス逃したり。」

「ふふ、そうそう、意外と面倒臭いところがあるのよね。」

ー僕は”面倒臭い奴”って思われていたのか・・・?

その言葉に軽くショックを受けるが、里緒は気にせず続ける。

「亮介君は頭がいいから…。今でも頭で考え過ぎて、なかなか良い相手を探せてないんじゃない?それ、ハイスペック病だよ。」

里緒曰く、ハイスペックな人ほど、頭で恋愛しようとして上手くいかないらしい。

ー“なぜドイツの名もないあんな小さな会社に行ったの?私の周りは、皆日本の大企業に行った人と幸せな結婚をしているのに。亮介となんか、付き合わなければ良かった”ー

別れ際に、里緒に言われた言葉がフラッシュバックする。結婚まで考えていた里緒からの言葉は、亮介が女性から「スペックでしか見てもらえていないのでは?」と思うきっかけとなったのだ。

ーそもそも、ハイスペック病の原因は里緒にもあるのに・・・。ー

そう思ったが、健太の手前口に出せない。健太は隣で、「ハイスペ病、亮介にぴったり!」と楽しそうに笑っている。

それでも、確かに里緒の言っていることは、最近自分でも薄々感じていた欠点だ。

ー結局、僕は昔と何一つ変わっていなかったんだな。

全てを見透かしたような言葉に戸惑いながら、それでもどこか、里緒と再会できた嬉しさに、心がざわつく自分がいた。

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このまま元カノと元サヤに収まるのか!?