キャリアも幸せな結婚も、そして美貌も。

女が望む全てのものを手にし、したたかに生きる女たちがいる。

それは、東京の恋愛市場においてトップクラスに君臨する女子アナたちだ。

清純という仮面をかぶりながら、密かに野心を燃やす彼女たちは、現代における最強の“カマトト女”。

これは某キー局のアナウンス室で繰り広げられる、“カマトト狂騒曲”である。

局の絶対的エース橘花凛と同期でありながら、地味枠採用の田口レミ。時期エース候補の木崎翔子と花凛が参加する食事会に居合わせるが…!?




木崎翔子の飛ぶ鳥を落とす勢いで人気が急上昇している。

年末の特番も、プロデューサー陣からのラブコールが多かったのが、花凛の次に翔子だった。

花凛の他を圧倒する人気には敵わない。しかし翔子は?

若い翔子は、これから成長する。若さは時に脅威となり、年齢を重ねたベテラン達を蹴散らして上に登っていく。

「翔子ちゃんは、将来どんなアナウンサーになりたいの?」

食事会に行く途中のタクシーで翔子に尋ねると、翔子は黒髪が美しいミディアムヘアを揺らしながら、満面の笑顔で答えた。

「私は、花凛先輩のようになりたいです♡」

―私も一応、あなたの先輩なんだけどね...

そう思いながら、「花凛は可愛いものね」と曖昧な返事をする。この子に時期エースの座は、渡したくない。年功序列でいくと、私の方が先にトップにいくはずだ。

「翔子ちゃん、今彼氏はいるの?」

「今はいないので、絶賛募集中です♡それにしても、実は先月も同じお店で食事会だったんですよねぇ〜〜。」


この翔子の発言が、一度カマトト女達の手にかかるとこう変化を遂げる...


大好き♡と平気で言える女たち


「途中で事故にでも遭ったのかなって、心配してたよぉ?」

少し遅刻してしまった私たちに、花凛が笑顔で心配してくれている。

事故に遭う心配をしているのか、遅刻したことに対しての嫌味なのか分からぬまま、私たちは『東京 芝 とうふ 屋うかい』の、日本庭園と東京タワーが綺麗に見える部屋に入った。

何度来ても、東京の中心にありながらも静寂さが漂うこの店が、私は好きだった。

「ここ、来たことあった?」

声の主を、私はまっすぐ見つめる。相変わらず爽やかで仕立ての良いスーツがよく似合っている、航平だ。

「初めて来ました♡来てみたかったから、嬉しい〜〜!!」

私の代わりに、可愛らしく翔子が答える。(先月も、翔子はここで食事会をしたと言っていたけれど...)。

「レミちゃん久しぶりだね。翔子ちゃんは初めまして、かな?」

航平の笑顔に、私の胸はキュッと締め付けられる。

しかし翔子の方をふと見ると、翔子も航平に見とれていた。

大手広告代理店・電堂新社に務める、花凛の大学のゼミ仲間である航平。育ちの良さがにじみでていて、日々忙しい代理店勤務であるものの、彼の周りだけゆったりとした時間が流れている。

そして慶應幼稚舎出身の航平は、顔が広い。

航平が連れてきたのは、人気絶頂で、且つ事務所が売り出し中の若手俳優・ユウジと、大物政治家の息子・幸一郎だった。




「航平ちゃん、さすが〜〜っ!素敵な男性の周りには、やっぱり素敵な人しかいないのねぇ♪」

花凛が両手を合わせながら、大きく瞳を見開いてとびきりの笑顔を男性陣に向ける。

「花凛様からのお願いだからね。良いメンツ揃えました。」

「ありがとう♡だから航平ちゃん、大好きっ♡」

大好き、という言葉を平然と異性に使える花凛がたまに羨ましくなる。

それだけで、男性陣は想像以上に嬉しそうに鼻の下を伸ばすからだ。

何度か花凛を通じて会ったことがあるが、航平は花凛に“ゾッコン”だった。

目の前に私がいるのに、私のことなんて目もくれず、航平はいつも花凛を見つめている。その熱い視線が羨ましくて、どうしたらこちらにも向いてくれるのだろうかと、彼に会うたびに胸が苦しくなる。

しかし航平が見つめる花凛の視線の先には、大物政治家の息子・幸一郎がいた。

「へぇ〜じゃあ幸一郎さんも、航平ちゃんと小学校から一緒なんですかぁ?私、幼稚舎って、ずっと幼稚園のことだと思っていたんです…。無知でお恥ずかしい♡」

―いやいや、それはないでしょう。

心の中でそう突っ込んでいると、意外なところから横槍が入った。

「うっそ〜!!花凛先輩もですかぁ?実は私もそう思っていたんです〜!!でも、私は兄が幼稚舎なので、小さい頃の話なんですけどねぇ〜。」

翔子、花凛への宣戦布告か !?

私は心の中で一人実況中継をしながら、花凛と翔子の会話をしばらく黙って聞くことにした。


誰が本当のことを言っているのか?女の笑顔競争の行方はいずこへ



「翔子ちゃんのお兄ちゃん、慶應なの!?今何歳?共通の知り合い、多いかもね。」

急に幸一郎と航平が、揃って身を翔子の方へ乗り出す。

決して外部生は入れない、内部生のみの一体感。それはOBであろうとOGであろうと変わらない。

いつの日も「われらぞみんな よい子になろう 気をそろえ 慶應生」だ。

さっきまで花凛は楽しそうに幸一郎と話していたはずなのに、急に黙りこくっている。一方で、一気に切り込んできたのが翔子だった。

「兄は現在33歳なので...皆様より、少し年下かと思いますが、兄に聞いたらお二人のこと絶対知っていますねぇ〜♡」

たしか翔子も私学の女子校出身で、“お嬢様アナウンサー”としてよく取り上げられており、自分のアピールポイントがよく分かっているのかもしれない。

「お兄さん、部活は何してた?中学はどっちに行ったのかな?」

翔子と航平が盛り上がっている。しかし幸一郎の花凛に対する質問で、場の空気はガラリと変わった。

「花凛ちゃんはどこ出身?」

「私...小学校は、海外なんです。 」




さっきまで意気揚々と話していた翔子が、今度は黙りこくる。

「花凛ちゃん、帰国子女なんだ!」

「実はそうなんです…。でも全然っ、大したことないんですよ〜〜!」

しかしここでも、翔子は笑顔で褒めること忘れてはいない。

「花凛先輩、この前うっかり漢字を読み間違えたのは、そういう理由だったんですね。可愛いなぁ〜♡」

「翔子ちゃんたら、やだっ〜〜!!恥ずかしいっ……。でもたしかに、英語のほうが得意なのぉ。」

このやり取りを、私は静観していた。

翔子は、今花凛が担当している朝の番組のメインMCをしたくてたまらないと聞いたことがある。

心の中では、一刻も早く花凛がフリーになって局を去るか、スキャンダルか何かで失脚することを望んでいるのだろう。

でも笑顔でのやり取りを見ていると、本気でそう思っているのか分からぬまま、食事会は進んだ。



帰り際、方向が一緒の私と航平さんは2人でタクシーに乗ることに成功し、嬉しがっている私の隣で、航平さんがポツリと呟いた。

「翔子ちゃんって、花凛にちょっと似ているよね。可愛いなぁ…」

「……可愛いですよね。ウチの局の時期エースって期待されてるんですよ。」

「そうなんだ。じゃあ食事とか誘ったらまずいかなぁ…。」

その言葉に、私は少しおどけながら聞いてみた。

「う〜ん。そうですね、ちょっと危険かも??……航平さん、それだったら私と一緒に行きません?」

すると航平さんは少し驚きながらも、普段の穏やかな口調でこう言った。

「それは是非行きたいけど、俺、ちゃらんぽらんだからなぁ…。レミちゃんはもっとしっかりした奴のほうが、合いそうだよね。」

遠回しに断られて、私の胸はズキっと痛んだ。

あの2人にはやっぱり、永遠に勝てそうにない。

―でも仕事では、私にしかない良さを分かってくれる人がたくさんいるし……。

しかしこのとき私は恋愛だけでなく、まさか仕事まで“カマトトちゃん”たちから奪われる日が来るとは、思ってもみなかったのである。

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翔子の人気に焦るレミ。カマトト女にはやはり勝てないのか!?