軍事アナリストの西村金一氏

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 アメリカのドナルド・トランプ大統領と中国の習近平国家主席は、北朝鮮をどうするつもりなのか――。

 11月20日付記事『中国、北朝鮮の核兵器を管理か…日本にとって最悪のシナリオ』では、北朝鮮をめぐる米中の思惑や「核保有を容認」という妥協案などについて、元防衛省で軍事アナリストの西村金一氏の話をお伝えした。

 かねてささやかれているのが、米軍が金正恩朝鮮労働党委員長を暗殺する「斬首作戦」の存在だ。西村氏は、以下のような見方を示す。

「今、アメリカと中国、日本と韓国もそうですが、一致しているのは『金正恩がいなくなって、北朝鮮がまともな国になればいい』という点です。そこで有効な手段として考えられるのが、金正恩を殺害すること。いわゆる斬首作戦です。

 アメリカと韓国で作成した『作戦計画5015』に斬首作戦についても載っていますが、基本計画なのであまり詳しくは書いていません。『実際に軍事行動を起こすのであれば、金正恩の殺害計画の可能性もある』という程度で1〜3行くらい。斬首作戦の全貌は公開されていません。

 平壌の山の中をくり抜いてつくられた平壌防御司令部を戦術核で撃つ、巡航ミサイルで金正恩のいる建物を狙う、無人機で攻撃する、戦闘ロボットで攻撃する、スパイが暗殺する……斬首作戦といっても、さまざまなバリエーションがあります。

 ただ、ウサーマ・ビン・ラーディンをパキスタンで殺害したときのように、米海軍の特殊部隊『ネイビーシールズ』が極秘裏で実行するという計画は難しいでしょう。金正恩のまわりには、常に数万人の護衛軍団がいます。これはSPレベルではなく、ひとつの軍団ですから。さらに、そのまわりには平壌を守る軍団が組織されています。金正恩の身辺は、二重三重に守られているわけです。

 仮に特殊部隊が入り込んで金正恩殺害に成功したとしても、数万人の兵士に囲まれて逃げられなくなります。北朝鮮でアメリカ人が捕まって殺害されるということになれば、アメリカの世論やマスコミは大変なことになるため、これは現実的ではありません。

 斬首作戦の話をすると、『話し合いで解決すべきだ』という批判の声が必ず上がりますが、そもそも話し合いが通用する国ではないから問題になっているわけです。他国に入り込んで拉致やテロをやっている国ですよ。仮に合意しても、それが守られる保証もありません。

 しかし、金正恩には『言うことを聞かなかったら殺される』ということを実感させなければなりません。自分の命と核保有のどちらが大事か。『命が惜しい』ということで中国への亡命を選び、その結果として金正恩体制が崩壊する、ということでもいいわけですから」(西村氏)

●韓国軍から流出した軍事機密は偽データ?

 自分の叔父である張成沢をはじめ、朝鮮労働党や軍の実力者たちを次々に粛清してきた金正恩体制には、それゆえの弱点があるという。

「本来は、『金正恩が死のうがどうなろうが、軍首脳部が絶対に体制を守り抜く』というのが正しい姿でしょう。金正恩の妹の金与正や異母姉の金雪松といった血縁関係者をトップに立てて体制を維持しようとするのが普通です。

 しかし今、金正恩のまわりにいるのは彼のお抱えの人ばかり。金与正や金雪松にしてもそうだし、金正恩のバスケットボールの教官だった人物が軍の大将になっていたり、軍に関する家庭教師が偵察総局長になっていたりするわけです。

 一方、もとから軍の中で育ってきた人たちは粛清されたり失脚させられたりしている。本来の軍人は不満を持っているため、彼らは『金与正や金雪松を担いで体制を維持しよう』なんて考えるはずがないのです。そのため、仮に金正恩が取り除かれれば、軍は平和的な動きをするでしょう」(同)

 韓国の宋永武国防大臣は、9月4日の国会国防委員会で「斬首作戦部隊」を12月1日に創設することを明らかにした。また、斬首作戦能力を具体化できる時期については「来年末」と述べている。

「この話は、すごくおかしい。わざわざ編成しなくても、韓国には『ブラックベレー』という特殊部隊があり、訓練もされているはずです。日本にも陸上自衛隊に『特殊作戦群』があるくらいですから。『来年末まで斬首作戦はできません』と言って金正恩を油断させておいて、実際はその前にやるつもりではないでしょうか」(同)

 10月10日には、昨年9月に韓国軍のデータベースが北朝鮮からとみられるサイバー攻撃を受け、斬首作戦を含む軍事機密の資料を奪われていたことが伝えられた。これは、韓国国防省の情報として国会議員の李哲熙氏が明らかしたものだ。

「その情報も、鵜呑みにはできません。そもそも本来は、仮にサイバー攻撃を受けたとしても『ハッキングされて軍事機密が奪われました』なんて、絶対に言わないものです。わざわざ発表すれば、それは自分たちの防御力の弱さと相手のサイバー攻撃の成功を認めることになってしまいますから。

 実は、サイバー攻撃というのは仕掛ける側も本当に成功したのかどうかはわからないものです。そのため、情報戦略的にはトップシークレットである斬首作戦のハッキング流出を公表するなんてあり得ない。逆にいえば、韓国はサイバー攻撃を想定してダミーのデータを用意しており、偽の計画を掴ませたという可能性もあるわけです」(同)

●平昌五輪後に斬首作戦を決行か…金正恩は亡命も

 そもそも、金正恩本人も斬首作戦の存在を知っているという。そのため、詳細な居場所は明らかにされず、就寝する場所も毎日変えているようだが、どうやって彼の居場所を突き止めるのだろうか。

「それが一番難しいでしょう。偵察衛星は地球上をぐるぐる回っているので、1990年代頃は、同じ地点を撮影するのは3〜5日に1回くらいしかできませんでした。しかし、今は偵察衛星も多く飛んでいるので、少なくとも1日に1回はパチッと撮ることができるでしょう。

『静止衛星があるじゃないか』と言われるかもしれませんが、静止衛星は3万6000kmくらい離れているため、地上の細かい部分までは見えません。一方、偵察衛星は400kmくらいの距離を飛んでいます。

 次の手段は電波情報です。北朝鮮側の通信を傍受して金正恩の居場所を探る。しかし、暗号化されているだろうし、位置を特定するのは難しいと思います。無人偵察機を飛ばす手もありますが、バレるリスクも高い。あとは、内通者からの情報に頼るという方法もあります。

 自衛隊の高級幹部出身者に聞くと、『アメリカは戦闘ロボットの利用を考えているみたいですよ』と言っています。昆虫型や動物型のロボットを壁や天井に貼り付けて、そこからサリンガスを噴霧して殺す。そういう方法も選択肢のひとつとしているようです」(同)

 斬首作戦が実行されるとしたら、時期はいつ頃なのだろうか。北朝鮮がアメリカ本土に到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させるのは2018年とみられている。また、18年11月にはアメリカで中間選挙が行われる。低支持率が続くトランプ大統領としては、それまでに支持率を回復させたいところだ。

「動きがあるとすれば、18年2月に韓国で行われる平昌オリンピックが終わってからでしょう。春から夏にかけて、その可能性が高いと思います。また、軍事攻撃の準備が整った段階で、中国が金正恩を説得する可能性もあります。『このままでは殺されるから、中国に亡命しろ』というわけです」(同)

 次回は、約10万人いるとされる北朝鮮の特殊部隊の脅威や日本の防衛体制について、引き続き西村氏の話をお伝えする。
(文=深笛義也/ライター)