【コラム】複雑に絡んだ“勝負のあや”、東京Vの「先の読めない物語」は続く

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 スペインに生まれ、今季から日本にやって来た2人の監督が率いるチームは好対照だった。昇格プレーオフの出場権を争う舞台設定が、なお勝負のあやを複雑に絡ませていた。

 明治安田生命J2リーグ最終節、東京ヴェルディと徳島ヴォルティスの一戦。

 状況を整理しよう。4位以内の4チームは確定し、残されたプレーオフの枠は5、6位の二つ。5位徳島と6位東京Vは勝点67で並び、松本山雅が1差、ジェフユナイテッド千葉が2差で追っていた。

 直接対決はこの1試合のみ。序盤から前がかりに勝負をかけたのは徳島だった。

「この1年、新たな、攻撃的なスタイルに挑戦し、実現できた」。気鋭の43歳、リカルド・ロドリゲス監督がそう実感するチームは、まさにスペイン仕込みと表現したくなる。1タッチの短いパスを連ねてボールを動かす、右の馬渡和彰から高速クロスがもたらされる。

 一方、押し込まれる展開は東京Vの想定内でもあった。経験豊富な60歳のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督の下、守備を整備することで今季は勝点を積み重ねてきた。明確な個々の役割を下地に水もれを防ぐ組織網にもまた、戦術細やかなスペインの香りが漂う。逆襲に転じれば、精度の高いキッカーをそろえるのも強み。言わずもがな「セットプレーはサッカーの重要な要素」(ロティーナ監督)だからだ。

 そうやってつかんだ先制点は31分、敵陣左のFKから。安在和樹の左足から放たれたボールは鋭く曲がり落ち、平智広の頭に合った。

 攻める徳島、守る東京Vの構図は後半も変わらない。49分に左、右と揺さぶって同点にこぎ着けた徳島、年代別日本代表の常連だった杉本太郎が中盤で小気味よくさばく。

 受け止める東京Vも落ち着いている。松本は1点を追い、千葉は同点との情報がベンチに入っていた。そのまま3試合とも終われば最終決戦の切符は徳島と東京Vに渡る。「正直、焦りはなかった。勝利が必要なら、早く交代に動いていた」とロティーナ監督。カウンターとセットプレーに狙いを絞った試合運びは揺らがない。88分の左CK。梶川諒太のキックを畠中槙之輔がとらえたシュートは左ポストに跳ね、内田達也が詰めてリードを奪う。

 まだ、切符は両チームの手中にあった。ある種の均衡が破れたのは後半アディショナルタイムだった。

 千葉が勝ち越す。途端に徳島ベンチは総出の身ぶり手ぶり。負ければ7位に落ちる、「上がれ」。しかし、尻をたたかれるまでもなく攻め続けていたピッチ上の選手が、さらにエンジンをふかしてゴールを割るのは難しかった。

 試合後の記者会見。順番が先だったロドリゲス監督が、この競技の理不尽さをかみしめた。「試合を支配し、相手より多くチャンスをつくっても、決めきれなければ勝利を逃してしまう。サッカーは非常に残酷なスポーツだ。他の試合でも学んできたのだけれど、最後の最後、また、こういうことが起きてしまった」

 サポーターと歓喜に浸ったロティーナ監督が、敵将の悔恨を引き取る。昨季は18位。「開幕前、ヴェルディがこの位置に来ると予想する人はいなかっただろう。誰も入れると思っていなかった場所に入れて、そこで戦える喜びをプレーオフで表現したい」

 敗者の弁を借りるまでもない。残酷なほど明確に両チームの明と暗を染め分けた90分間。結果、名古屋グランパス、アビスパ福岡、東京V、千葉がプレーオフに臨む。福岡を除けば、Jリーグが始まった1993年からしのぎを削る「オリジナル10」の面々だ。

 勝負のたすきはつながれた。先を読めない物語の伏線がまた、歴史にいくつも張られている気がする。

文=中川文如