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<持続可能な社会、環境に関わる優秀な写真作品を選出する国際写真賞「プリピクテ」の世界巡回展が、今週から東京で開催>

軍事監視用赤外線サーマルカメラでフェンス越しに撮影された難民キャンプ。大きく引き延ばされた写真には、人々の極限状態が克明に記録されている。しかし、熱感知カメラで捉えられた人間たちは、顔立ちや肌が曖昧で、アイデンティティを剥奪された単なる生体の痕跡として示される。このカメラの視線は、難民を拒絶する社会の目に通ずるのではないか。

持続可能な社会、環境に関わる優秀な写真作品を選出する国際写真賞「プリピクテ」の世界巡回展が東京にやってくる。スイスの投資や資産管理を手がけるピクテ・グループが、2008年に自らの名前を冠して創設した写真賞で、毎年、「成長」「権力」「消費」など、創造的思考のために幅を持たせたテーマが掲げられてきたが、7回目となる今回の「スペース(宇宙、空間)」についても、写真家たちによって様々な解釈がなされている。最優秀賞には「ヒート・マップス」(写真上)を制作したリチャード・モスが選出され、10万スイスフラン(約1140万円)の賞金が授与された。 

今年の「プリピクテ」は、世界中のノミネーター約300名から、あらゆるジャンルの写真作品を制作する写真家、アーティスト700名以上が推薦され、英外務大臣付気候変動特別代表サー・デービッド・キング教授を審査員長に、写真家セバスチャン・サルガド他、著名な博物館、美術館のキュレーターなど9名の審査員によって選考された。恵まれた賞金額に注目が集まりがちだが、毎回選出される作品は、現代アートとして非常に評価が高いものばかり。短い歴史ながら、写真賞として最も権威があるもののひとつとして、世界的に注目を集めている。

11月23日(木)〜12月7日(木)まで、東京・代官山ヒルサイドフォーラムで開催されるプリピクテ国際写真賞『Prix Pictet SPACE(宇宙・空間)』東京巡回展では、最終審査の対象になった12作品が展示される。

【参考記事】軍事用カメラが捉えた難民のむき出しの生

ファイナリスト
<マンディ・パーカー>
アイルランド、コーク州コーヴのグラウントンで採集されたサンプル(ベビーカーの車輪)2015
シリーズ名:漂流の果てにーーあまり知られていない生き物  © Mandy Barker, Prix Pictet 2017

海に漂流するプラスチック片を使用し、プランクトンの顕微鏡標本ように見える写真を創作したもの。その創作物は、海洋汚染により、プランクトンが微細なマイクロプラスチックを摂取して化学物質を取り込んだ「生物」として、作家がプラスチックを示す言葉を潜ませた独自の「学術名」を与えている。食物連鎖の基礎部分に位置するプランクトンは、より大きな海洋生物に捕食され、最終的には私たちの食卓に上る。1800年代初期の海洋生物学者ジョン・ヴォーン・トンプソンが制作したプランクトンのスライドから着想を得ている

<ベニー・ラム>
閉所 01 2012
シリーズ名:細分化されたアパート 2012 © Courtesy of Benny Lam (photographs), Kwong Chi Kit and Dave Ho (concept), Prix Pictet 2017

香港は世界で最も豊かな都市のひとつとされているが、その繁栄の裏には深刻な貧困問題がある。新たに移住した家族、高齢者、失業者の生活は苦しく、平均ひと部屋3.7平方メートルという違法に細分化されたアパートに、10万人以上が暮らしている

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部