受付で揉めないために、最低限、誰が見ても禿げている必要がありそうだ

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  ◆北条かやの「炎上したくないのは、やまやまですが。」【その3】   北海道函館市の「ホテルテトラ」が、髪の毛の少ない人の利用料金を割引するサービスを開始し、話題になっている。

 その名も「ハゲ割」。チェックアウトの際に受付で「自己申告」すると、1泊あたり300〜500円が値引きされるという。薄毛かどうかは受付の職員が「目視」で判断(!)。ユニークな企画とあって全国紙にも取り上げられた。

 さて、薄毛に悩むのは、どちらかと言えば男性に多いが、この「ハゲ割」ではまさにあなたの「男らしさ」が試されているのである。

◆薄毛の人が泊まった部屋は「掃除がラク」

 ホテルテトラの「ハゲ割」が始まったきっかけは、部屋の清掃スタッフが「排水溝の髪の処理に苦労している」という事実だった。スタッフの苦情を耳に入れた社長が早速、「ハゲ割」を導入し、全国20箇所にある同ホテルの系列に広がったという。

 私がとっても面白いと感じたのは、「ハゲは自己申告に限る」という決まりだ。割引を受けられるかどうかは、チェックアウト時のカミングアウトによるしかない。

 顧客は「自分は頭髪が非常に薄いんです」と、いつもはかぶっているかもしれない帽子を取ったり、カツラをいさぎよく取り払ったり、なんらかの「恥ずかしい行為」をしなければならない。しかも他人の前で、わずかワンコインの割引を受けるため『だけ』にである。

 異論があるかもしれないので補足すると、「ハゲ隠し」のために帽子をかぶっている人は基本的に、「恥ずかしいから」「帽子を被った方が見栄えが良いから」帽子が手放せないのだと思う。その帽子を取るのだから恥ずかしいはず、と仮定した次第である。「堂々とハゲつつファッションの観点から帽子をかぶっている人」は、その限りでない。

 さて、社会学の名著に『ハゲを生きる――外見と男らしさの社会学』(須長史生、1999)がある。同著ではハゲになやむ男性たちにインタビューしているが、彼らは日常的に「おい、ハゲ」などのからかいを受け、髪の毛をネタにされているそうだ。

 読者の中にも思い当たる人がいるのではないか……と思ったらまさに自分もだった。ネットではよく「ハゲ」と悪口を書かれる私である。正直イラっとする。人の髪の毛くらい、放っておいてくれよな。

◆ハゲ男性は強制的にメンタル耐久テストを受験させられている

 ただ、幸か不幸か、『ハゲを生きる』で分析されているのは男性だけである。同著によると、男性は「ハゲ!」とからかわれた際にどのくらい「タフ」でいられるか、「テスト」されているそうだ。

 ハゲを笑う相手は「お前は外見なんかでうじうじ悩むほど情けないのか?」という、無言のメッセージを発している。そのメッセージに対し、本当にうじうじしたり、悲しんだりすれば、「男らしくないヤツだな」とされてしまう。

 ハゲの男性は、からかわれても「ハゲがどうした!」と堂々たる態度を示さなくてはいけない。

 まさか孫正義のごとく、「髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである」とまで言えたら素晴らしいが、そこまでとはいかずとも、最低限「からかいに動じないこと」が求められる。 もしくは、自分は「ハゲで〜す」と、おどけてみせるか……これもまた、堂々とハゲを受け入れる度量の広さをアッピールする「男らしい態度」といえそうだ。うじうじ、ダメ、絶対。

 そうなると、ホテルテトラの「ハゲ割」も見方が違ってくる。

 「私はハゲです」と受付のスタッフに自己申告する際、恥ずかしそうにしていると、「この人、ハゲを気に病んでいるんだろうな……だったら割引なんて受けなけりゃいいのに。たかだかワンコインなのにさ」とか思うかもしれない(ひどい例をあえて想像してみたが)。

 逆に、堂々と「ハゲてます! 割引して!」と自己申告できる男性は、賞賛の的だろう。

 外見「なんか」でうじうじしない、男の中のオトコ……でもそれって息苦しそうだけどな。等々、色々考えてしまって自意識の自縄自縛に陥る人はいないだろうか。余計なお世話だろうか。余計なお世話なんだろうな。

<文・北条かや>

【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『こじらせ女子の日常』(宝島社)。新著は『インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。公式ブログは「コスプレで女やってますけど」