決断の根拠を"コイントス"にすべき理由
※以下は堀正岳『ライフハック大全 人生と仕事を変える小さな習慣250』(KADOKAWA)より抜粋、再構成したものです。
■「小さな近道」が大きな変化を生む
「人生は、ほんの小さな習慣で変えられる」――そう聞いたら、みなさんは信じるでしょうか?
世間では「生産性を上げよう」「働き方を改革しよう」とも喧伝されていますが、では、どうしたらいいのか? という問題の解決策を見つけあぐねている人も多いと思います。
そんな問いへの一つの答えとして、私は「ライフハック」を提案します。
なかなか思い通りにいかない仕事や人生を変えるには、大きな決心や、派手な行動が必要だと思われがちですが、実際に毎日の生活を変えるのはむしろ「行動の変化」、つまりは習慣です。
毎日の行動を、毎日数分で実践できるような小さな“近道の方法”で入れ替えてゆくだけで、やがて大きな変化を生み出すことができるのです。そして、そうした“近道”を総称するのが「ライフハック」なのです。
■ライフハックの本質とは何か
ライフハックとは「ライフ(人生)」と「ハック」の2つの合成語です。
ハックは「ハッカー」や「ハッキング」とも関連しているので悪い意味に受け取られがちですが、もとはプログラマーが問題を鮮やかに解決する際に使われる言葉です。
ライフハックという言葉はジャーナリストのダニー・オブライエン氏が2004年に行った「ライフハック:生産性の高いアルファギークの秘密」という講演からきています。
氏は、この講演で、生産性の高いプログラマーは他のプログラマーに比べて何十倍も仕事が速いものの、彼らが何十倍も頭が良かったり、高い技能をもっていたりするわけではないと指摘しました。
むしろ、人に見せるのが恥ずかしいほど簡単なスクリプト(プログラム)や習慣を繰り返し適用することで、日常に小さな近道を生み出し、いわば人生をハックしているのです。
このように小さなことを繰り返すことで、大きな成果が得られる。これがライフハックの本質です。
では早速、人生を楽しく、ラクにするライフハックの一部を紹介していきましょう。今回の記事では「判断・決断」を速くする方法を紹介します。
■決断するスピードを加速する
AなのかBなのか、やるかやらないのか、どれを選び、何をあきらめるか――私たちの日常は大小の判断や決断にあふれています。
たとえば昼ごはんを食べるためにレストランを探していて、最初に見つけた場所に入るのか、それとももっと別の店を探すのかという判断があったとします。前者はシステム科学者のハーバート・サイモン氏が「満足化(Satisficing)」と呼ぶプロセスを使って十分と思われるものを選択しているのに対して、後者は結果を最大化するために判断を遅らせることに対応しています。
面白いことに、どちらが正解だったのかわからない場合には、前者の「満足化」を行った人のほうが、「最大化」のアプローチをした人よりも自分の決断に満足する傾向があることが知られているのです。
失敗を避けるために情報を集めて吟味することは大事ですが、これ以上は決断するだけだという点にやってきたら、その瞬間に決めてしまうほうがよいのです。
■判断に迷ったらコイントスで決める
判断がつかないような悩ましい状況に陥ったときには、コイントスで決めてしまうというテクニックがあります。
乱暴だと思われるかもしれませんが、このハックには一つの工夫があります。コイントスをしてAと決まった際に、どうも心がざわめいて落ち着かないならば、実は心の奥底ではBにしたいと思っていたのだと判断して、そちらを選ぶのです。
コイントス自体は、自分自身の本心を引き出すためのブラフだったというわけです。
同じように、状況を説明することもせずに「AとB、どちらがいい?」と他人に決めてもらうという方法もあります。面白いと思ったほうにする、頭文字が五十音順で若いほうにするなど、ルールはなんでもかまいません。それに対する自分の心理的なリアクションをもとに本当の決断をその場で下します。
これは先ほどの「満足化」の効果をテクニックで作り出す仕組みで、あなた自身の決断への満足度を向上してくれる効果もあるのです。
■同じ判断を2度しないようにする
決断を速くするには、「同じ判断は2度しない」ということも重要です。たとえば買い物でAかBか迷ったあげく、いつもAになってしまうということがあるなら、それはルールとして最初からAを選ぶというふうにしたほうが決断は速くなりますし、満足度もむしろ増える傾向にあります。
本を買うかどうかといった悩みも「2000円以下の書籍は自動的に買う」というルールにしておけば、決断を減らすのに効果があります。
決断を速くすれば、もっと決断ができるようになります。小さなことでも決断の速度を加速させることが、大きな判断の素早さも決めるようになるのです。
■テーマを決めて、歩きながら考える
歩きスマホが、いまは大きな問題になっています。スマートフォンの画面に集中したまま歩いて他の人や物にぶつかるばかりではなく、電車のホームから落ちる人もいるほどです。
目的地に向かって一心に歩いている時間はどこか生産性が低い気がするので、スマートフォンで友人とのやりとりをしたり、動画の続きを見たくなったりする気持ちは理解できます。しかし歩いている時間はもっとアクティブな考え事の時間にもできるのです。
プラトンやアリストテレスらが歩きながら講義し、議論したことから逍遥学派と呼ばれ、ニーチェもルソーもカントも歩くことと思想とを結びつけていたことからも知られる通り、歩くことは考えることと等しいのです。
とりとめもない考えを広げながら歩くのも楽しいですが、もっと集中した考え事をしたいならば、「テーマを決めて歩く」という習慣がおすすめです。
まず、出発時に「これから目的地まではこのテーマについて考える」と決めておきます。これから書こうとしているブログ記事について、最近あったニュースについての感想、人生についての悩みなど、なんでもかまいません。
歩いている最中はそのテーマだけについて考えます。ときおり信号で立ち止まったり、ホームで電車を待ったりしているときだけ、スマートフォンを取り出してメモをしてもよいですが、それ以外の時間は考え事に集中します。
たったこれだけのルールでも、1つのテーマに集中して考えることによって歩いている時間は豊かな知的活動の時間へと変化します。
慣れてくると、歩きスマホをする時間が逆にもったいなくなってくるはずです。
■心の中のヒーローに悩みを打ち明ける
悩みが生じたなら、心の中にいるヒーローにそれを聞いてもらいましょう。
欧米には“What will Jesus do?”(イエス様ならどうされるだろうか?)という質問を立て、そばに立って話を聞いてくれる存在としてのイエス・キリストに問題を預ける人が多くいます。古典の『神曲・地獄篇』でダンテがヴェルギリウスを先導にし、詩人のペトラルカが「告白」でアウグスティヌスに心の奥底を打ち明けたように、あこがれの存在を頭に思い描いて問題解決のきっかけにするというのは、昔から存在するテクニックなのです。
そこで私たちも私たちなりの悩みを、心のヒーローや、本などで知っているメンターに問いかけて、聞いてもらえばいいのです。
それはどんなにつまらないことでもかまいません。仕事の優先順位から人生の岐路まで、悩んだときに「スーパーマンならどうするだろうか」「バットマンならこれを引き受けるだろうか」といった思考で、悩みを試してみるのです。
■一見くだらないことを聞くからこそ有効
これは遊びのようでありながら、判断にある種の明快さを持ち込んでくれます。自分の視点では混乱している思考を、より高い規範から紐解くことが可能になるからです。
ヒーローはえてして単純で、ピンチに対し動ぜず、悩み苦しみながらも結局のところはなすべきことをパンチの形で繰り出します。そして一見くだらないことを訊くからこそ、この方法は有効なのです。
あなたの小さな質問にヒーローなら、何と答えるでしょうか。
「この打ち合わせには嫌な予感がするけどどうだろう」「断れ」
「この会社に転職するのでいいだろうか」「大丈夫だ。行け」
背中を押すヒーローの声は、実はあなた自身の心の声に他ならないのです。
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「Lifehacking.jp」管理人。研究者・ブロガー。北極における気候変動を研究するかたわら、ライフハック、IT、文具などをテーマとしたブログ「Lifehacking.jp」を運営。知的生産、仕事術、ソーシャルメディアなどについて著書多数。理学博士。
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(「Lifehacking.jp」管理人 堀 正岳)