大学のキャリアセンターは、就職に関する多くの情報を持っている。これを活用しない手はない (撮影:大澤誠)

みなさんは、大学の「キャリアセンター」や「就職支援課」に、どんなイメージをお持ちでしょうか。就職ガイダンスでスケジュールを説明してくれるところ、求人情報を提供しているところというのが、一般的な認識ではないでしょうか。

中には、「キャリアセンターは自分で就職活動をして行き詰まった人が駆け込むところ」と、思っている方もいるでしょう。実はそれは大きな誤解です。キャリアセンターには膨大な情報量とノウハウの蓄積があり、積極的に活用した人と、そうでない人とでは、これからはじまる就活で大きな差がつきかねません。

”その道のプロ”が集まるキャリアセンター


まず知っていただきたいのは、キャリアセンターのスタッフの専門性です。私が仕事をさせていただいている、東海エリアの大学のキャリアセンターを例にお話ししましょう。

1学年1000人規模のA大学では、キャンパスは複数に分かれていますが、それぞれのキャンパスにキャリアセンターのスタッフが常駐しています。合計で15人ほど。企業の元人事担当者、就職情報会社の出身者、また大学職員として新卒当時から入った人など、顔ぶれは多彩です。

そしてスタッフの多くがキャリアコンサルタントの国家資格を取得しています。実社会を知り、就職事情を知り、学生を知る人たちによって、理論に基づいた指導が行われているのです。

専門性の高いスタッフを集め、育てる傾向は、他大学でも見られます。採用活動で多く用いられている適性検査「SPI」を学生に受検させ、個々の検査結果に基づき、スタッフがキャリアカウンセリングを行うなど、突っ込んだ内容の面談や指導をしている大学もあります。

キャリアセンターの1つの特徴は、なんといっても、持っている情報量の多さです。「個別企業の情報は、ゼミやサークルの先輩から聞けばいい」と、思っている方もいるでしょう。確かに先輩からの口コミは、自身の就活経験や社会人としての実感などを聞くことができ、有意義です。しかし、それを1人の先輩の感想や意見でなく、多数の声を集積、活用しているのが、キャリアセンターなのです。

キャリアセンターでは、各卒業生が行った就活と、その結果や就職後の職場での仕事内容などを一連で把握し、記録に残しています。

さらに採用現場の生の声も得ています。キャリアセンターのスタッフは、就職実績のある企業を中心に出向き、人事担当者から直接話を聞いているのです。就職した学生のその後の状況や、当校から応募した学生のうちどういう学生が採用になり、どういう学生が不採用になったのか、その理由までヒアリングしているのです。

採用選考を受けただけの先輩たちでは、知りえない部分にまで踏み込んで情報を収集し、どういう採用基準をもっているのか、どんな水準が当落ラインなのかなど、学生からは聞きにくい突っ込んだ質問もしています。実は多くの企業が、大学を代表して訪れているキャリアセンターのスタッフに対し、そうしたことを率直に答えています。

「当落ライン」も企業から聞き出している

新たな企業開拓も含め、キャリアセンターのスタッフは、多い人で年間200〜300社回っています。こうした活動を毎年行うことで、各社の求める人材や、伸ばしていきたい分野などの情報が時系列で蓄積されています。

もう1つの特徴が他大学との情報共有を盛んに行っていることです。横のつながりを通じて、キャリアセンターは、年度ごとの傾向などもいち早くキャッチしています。情報通信分野に実績の多い大学や金融に強い大学などが、それぞれの得意分野の情報を共有することで、これまで実績のなかった企業や業界の情報も補完し合っています。

さらにもう1つ、各校のキャリアセンターが強化しているのが、学内企業説明会などのイベントです。最大のメリットは、学外の一般的な企業説明会に比べて、その大学に通う学生がほしいと思っている企業が集まっている点。学生の2〜3割は学内企業説明会の参加企業から内定をもらっていると言われています。説明会の席にOB・OGがリクルーターとしてついてくれる場合もあります。

企業からの参加希望も年々増えており、年間300社はザラで、多い大学では600社にも達しています。

ちなみに、1学年1000人を超える総合大学の場合、キャリアセンターには大企業、中小企業を含め、1万社ほどから求人票が届きます。1学年300人ほどの小規模校でも、4000社もの求人票があります。これだけの情報を持つキャリアセンターを、有効に活用するか知らずに過ごしてしまうかは、大きな違いです。

理系学生にとっては、キャリアセンターを縁遠く感じる方も少なくないでしょう。確かに理系の学生は、所属ゼミの紹介や教授の推薦などによる就活もあります。しかし、こうしたゼミ・教授ルートの現場も、変わってきています。

理系学部が中心のB大学の場合、学部ごとの就職担当教授とキャリアセンターが連携。一般的な全学部を対象にした就職ガイダンスのほか、理系学部の要望を反映した個別のガイダンスを学部ごとに実施しています。

たとえば、これまで理系学部との直接的なつながりがなかった金融や商社などが、理系人材を求めているといった情報を提供しています。どんな技術や知識がどんな業界で求められているかを、教授陣と連携しながら、広く知ってもらうようにしています。

「化学系は早く、機械・電気系はそれより遅い」など、専門分野によって就活のピークや内定時期が異なる傾向もあります。それに対し、キャリアセンターが前年比を出しながら、各学科の就活の進捗状況をフォローする活動も、活発に行なわれています。

小規模校ではさらに進んだ就職支援をしているところもあります。

1学年300人ほどのC大学の場合、例年3年生の2月、就職合宿を行っています。民間企業に就職を希望する学生の参加率はほぼ100%。1泊2日で、自己分析から始まり自己PRを考えて、実践型の模擬面接を1人当たり2〜3回行っています。

エントリーシートを添削してくれる

さらには6〜7人もの講師や面接官を外部から招聘。私も一度面接官として参加したことがありますが、初日こそ、「君らしさは何?」という質問に「テキトーっス!」と答えていた学生が、2日目の最後には、所属した運動部のチーム運営で後輩とぶつかったとき、どんな風に考え、どんな行動をとることで問題を解決できたのか、そしてそこから何を学んだのかまで、真剣に語ってくれました。

1人ひとりとしっかり向き合い、そして深掘りしていく合宿を通じて、2月の時点で、すでに本番の面接に臨めるところまで準備することができていいるのです。

このようにきっちり就活の準備をさせていく大学もあります。だからこそ、キャリアセンターにまだ行ったことがない、ガイダンスに参加していないという方は、今すぐ行動を起こしてほしいのです。

多くのキャリアセンターは、月に1回のペースで就職ガイダンスを開催、就活解禁前に、態勢を整えるための情報提供を行っています。「年度の途中から参加してもついていけないのでは?」と思っている人は心配いりません。学生の将来の進路は変化するのが当然で、思い立ったときにいつでも始められるよう、内容を工夫している大学がほとんどです。これからの時期だと、3月以降に提出が始まるエントリーシート(ES)の作成講座などが、ちょうど開催される頃です。

履歴書やESの書き方は、「本にも出ているし、インターネットで検索すればできそう」と思いがちですが、実際、1人ではせっぱ詰まらないとなかなかやれないもの。追い込まれて突貫工事で作るものには粗が目立ちます。ガイダンスの場に来れば、周囲の刺激も得つつ、自分の手や思考をフル回転させ、オリジナリティのあるアウトプットを作ることができます。キャリアセンターの担当者が添削してくれるところも多くあります。

いずれ先輩に聞けばいい、そのうちネットでひな形を見ればいい、と思っていても、いざ3月になってしまうと時間が十分とれない現実に突き当たりがちです。自分の将来進路の探索を悔いのないようにするため、キャリアセンターを上手に活用する取り組みを始めていただきたいものです。