演説の上手さでも群を抜く小泉進次觔氏。10月8日渋谷の街頭演説会で(撮影:尾形文繁)

衆院選から1カ月が経過し、例年より早い冬の訪れで銀杏の葉が舞い散る永田町では、自民圧勝で1強政権を維持した安倍晋三首相よりも、"選挙戦の主役"として勝利に貢献した小泉進次郎筆頭副幹事長の言動に注目が集まっている。

国政選挙5連勝の首相が来年9月の自民党総裁選で3選を果たせば、次の次となる2021年総裁選でのポスト安倍への期待が広がるからだ。安倍1強により「物言えば唇寒し」が続く政府・与党内で、首相の政権運営に堂々と苦言を呈する小泉氏は、すでに「将来が約束された自民党の若大将」(自民幹部)として、首相にまで気を遣わせる「別格の存在」(同)となっている。

政界で「一匹狼の変人」と呼ばれながら長期政権を築いた父親の小泉純一郎元首相は、党内の強大な敵に挑み、蹴散らすことで国民の支持を集めた。しかし、後継者の進次郎氏は父親とは逆に「党内に敵がいない」ことで権力への王道を歩んでいるようにもみえる。「勘と度胸」で勝負した父にならう"親子鷹"ではなく、その功罪を"他山の石"として行動することで党内に期待と支持を広げる進次郎氏だけに、政権獲りへの死角はまだ見えてこないのだが……。

結果的に野党乱立による「漁夫の利」で自民圧勝となった10.22衆院選で、自民公認候補からの応援要請で首相を凌駕したのが小泉氏だった。解散決断も含め強権的な政治手法が批判された首相とは対照的に「有権者がこぞって歓迎する」(自民選対)という国民的人気者の小泉氏だけに、自民と野党が競り合う接戦区を中心に「救世主」として東奔西走の日々を続けた。

"テレビ選挙"での「小泉VS小池」に完勝

若くてハンサムな小泉氏は「放っておいても目立つ存在」(自民若手)だが、百戦錬磨のベテランも舌を巻く演説の上手さが「集客力」と「集票力」に結び付いていることは間違いない。選挙戦のスーパースターだけに、自民党選対本部は小泉氏の「専属チーム」をつくって遊説日程の調整や演説をサポートする異例の態勢を組んだが、小泉氏は期待を上回る努力とセンスで有権者の歓呼の声に包まれ続けた。

飛行機や電車を乗り継いで北から南まで列島を駆けめぐった小泉氏だが、どの演説でもまず「ご当地ネタ」で有権者を引きつけ、単なる絶叫ではない短いセンテンスの歯切れよい言い回しで支持を訴えた。超過密日程で、応援する候補も次々代わるのに、その場その場で聴衆の求める言葉を的確に探し出し、ほとんどいい間違いもない小泉氏の演説力は「すでに父親を超え、文句なしの政界ナンバーワン」(自民幹部)と手放しで評価する声が多い。

今回の選挙戦で小泉氏に対抗する形で注目を集めたのは、希望の党を立ち上げた小池百合子東京都知事だったが、選挙応援と聴衆の反応をみる限り「小泉氏の完勝」(自民選対)に終わった。

首相の解散表明に先駆けて希望の党結党と代表就任を宣言して一時は選挙戦の主役を演じた小池氏だが、「敵の総大将」への小泉氏の先制パンチは強烈で、「今回の選挙の構図は『責任対無責任』の戦い。小池さんは出ても出なくても無責任。ぜひ出てきて欲しい」と衆院選出馬説で選挙戦をかく乱した小池氏を痛烈に批判した。

これまでの成功体験から「選挙はテレビがやってくれる」が持論の小池氏だけに、すぐさま「進次郎さんがキャンキャンはやし立てているが、出馬は100パーセントないと最初から申し上げている」と反撃したが、急所を突いた小泉氏の批判を跳ね返すことはできず、テレビの情報番組などもそろって「小池氏の負け」との趣旨で報じた。

小泉氏は選挙戦最終日の10月21日夕刻、応援演説のフィナーレとして小池氏の地元のJR池袋駅西口に登場し、「真の国民政党とは何かを考えるようになったのは小池さんのおかげ。小池さんありがとう」とこぶしを突き上げて勝利宣言した。

「聞きましょう」という運動神経のよさは天性

国政選挙の応援を重ねるにつれて演説力が増す小泉氏の最大の強みは「聴衆のハートをわしづかみにする当意即妙の対応」(自民幹部)だ。選挙戦半ばに、失速した小池氏に代わる「野党の星」となった枝野幸男立憲民主党代表と街頭演説でぶつかった小泉氏は、街頭宣伝車の上で演説中の枝野氏を見やりながら、「皆さん、あちらの演説を聞きましょう」と黙って手を振り続け、「若さに似合わぬ懐の深さ」と聴衆を感動させた。こうした心憎いばかりのテクニックは「努力だけでは得られない天性のもの」(自民長老)とされるが、政治家としての「運動神経のよさ」も見せつけた場面だった。

選挙で安倍1強政権維持の立役者となった小泉氏だが、その後の首相の政権運営については苦言を呈する場面が目立つ。まず、衆院選投開票日の10月22日のテレビ出演では 「おごり、ゆるみだけではなくて、(国民の安倍政権に対する)飽きを感じた。だんだん飽きてきている。加計学園の問題を含めてまだまだ不信感をもっている方が全国に相当いる、というのを街頭演説で感じた」と指摘し、 首相の自民総裁3選についても「政治というのは何がおきるか分からない。来年のことを話すのはまだ早い」と語った。

さらに、首相が10月27日の「人生100年時代構想会議」で、選挙公約でもある教育無償化の財源確保策で「産業界においても3000億円程度の拠出をお願いしたい」と求めたことについて、小泉氏は「党は何も聞いていないし、まったく議論していない。このままだったら、自民党は必要ない」と厳しい口調で批判した。

自民党内の「重要政策はすべて官邸主導で決まる」との不満を代弁したもので、菅義偉官房長官は「与党とも当然相談しながら進めていきたい」と応じたが、若手議員の批判を内閣の大番頭がすぐさま受け入れるのは異例で、政府与党首脳も小泉氏に気を遣うという構図が際立った。


首相が3選を目指す来年9月の自民党総裁選について、党内では「キーパーソンは小泉氏」(自民長老)と見る向きが多い。「石破(茂)氏ら対立候補が出馬した場合、小泉氏が誰を支持するかで展開が変わるのは確実」(自民幹部)だからだ。首相と石破氏(元地方創生相)が決選投票にもつれ込んだ2012年総裁選で、小泉氏は1回目、決選ともに石破氏に投票した。

父親の純一郎元首相が後継指名した首相ではなく、そのライバルの石破氏に投票したことで永田町では「小泉氏は反安倍」との風評も広がった。小泉氏が当選1回だったこの総裁選でも、知名度抜群の小泉氏の支持を取り付けようと各陣営が争奪戦を演じただけに、来年の総裁選での小泉氏の影響力は「派閥の領袖以上」(自民長老)となることは間違いない。

「嫉妬の海」といわれる政界では、「出る杭は打たれる」のがこれまでの歴史だ。しかし、小泉氏の「反安倍的言動」が目立っても、直属の上司で強面の二階俊博幹事長を始め、政府与党首脳らは黙認している。小泉氏の主張が正論で、党内若手議員の総意も踏まえた内容であることが理由とされるが、今後の党内権力闘争で小泉氏を敵に回すことへのおそれと不安が「特別扱い」の背景にあることは否定できない。不穏当な発言などで批判されがちな二階氏にとって、適宜、代理会見を引き受ける筆頭副幹事長の小泉氏は「格好の風よけ」(自民幹部)ともなっている。

「変人」でも「一匹狼」でもない優等生

父・小泉純一郎元首相は政界入り以来「一匹狼」に徹し、巨大派閥を率いて自民党を支配していた故田中角栄元首相を敵と見定めて「反田中」の党内闘争の先頭に立ち、署名集めなどに奔走した。故小渕恵三元首相、故梶山清六元幹事長と三つ巴で争った1998年7月の自民党総裁選を、田中元首相の長女・田中真紀子氏(元外相)が評した「凡人(小渕氏)、軍人(梶山氏)、変人(小泉氏)の争い」は政界史に残る名言だが、小泉元首相は「変人」を貫くことで長期政権を実現した。森喜朗首相(当時)の辞任に伴う2001年4月の総裁選で「自民党をぶっ壊す」と絶叫して圧勝し、首相として持論の郵政改革断行のため衆院を解散して反対派に刺客を送り込んだ政治手法は「まさに一匹狼の変人でなければできない芸当」(故加藤紘一元幹事長)だった。

しかし、息子の小泉氏は「変人ではなく、一匹狼でもない」(自民若手)ことは周囲も認める。父親は政治決断を求められると「直観は過(あやま)たない、過つのは判断だ」との口癖通り、政策論より政治的勘で突っ走ったが、小泉氏は「しっかり勉強し、同僚や上司と話し合った上で行動する」(同)ことを信条としている。聴衆から拍手喝さいを受ける演説も「事前の徹底した情報収集への努力」(自民選対)の賜物でもある。だからこそ、沈黙を強いられがちな1強政権下でも発言の自由を確保できるのだ。

ここにきて小泉氏は「東京オリンピック・パラリンピックの終わる2020年9月以降に日本は重大な岐路を迎える」と繰り返し、「その時こそが若い世代の出番だ」と付け加えることも忘れない。首相が来年、自民党総裁3選を果たせば、任期満了は五輪翌年の2021年9月で、小泉氏は「不惑の40歳」となる。ポスト安倍の有力候補とされる石破氏や岸田文雄政調会長はその時点で現在の首相より1つ年上の64歳だ。だからこそ、永田町では「ポスト安倍は小泉氏」との説が取りざたされるのだ。

権力に対する直言が目立つ小泉氏だが、政界有数の「爺殺し」でもある。「知らないことは辞を低くして先輩に直接教えを乞い、長幼の序もわきまえている」(自民幹部)からだ。まったく未経験の分野だった農協改革に党農林部会長として取り組んだ際も、真剣な勉強ぶりで党農林族長老の信頼を勝ち取り、改革案をまとめた。一匹狼の父親とは違い「協調性」も身に着けている。

死角は「嫉妬」「資金力」「独身」

その一方で「空気を読み、周囲に目配りする優等生」(自民幹部)との評も多い。「派閥の闘将」でもあった父親と違い、初当選以来、無派閥を貫いていることで派閥の権力闘争とも距離を置く。それが「党内に敵がいない」(同)理由でもある。ただ、ポスト安倍の総裁選出馬を目指すには党内の支持固めや資金が必要だ。石破氏のように無派閥の仲間を集めての「小泉派」の旗揚げも視野に入ってくるし、そうなれば「子分」を養う資金力も必要となる。政権への王道を歩むなら「徒党を組まず、金も使わない」ことに徹して総理総裁に上り詰めた父親は「手本にはならない」(首相経験者)ことは自明の理だ。

さらに、リーダーを目指す上で必要とされるのが「良き伴侶」だ。政界入りして8年以上を経過した今も、独身を謳歌している小泉氏だが、周囲は「早く身を固めないと、トップリーダーの資格を得られない」と気をもむ。もちろん、父親は離婚したため妻不在で首相を務めたが、小泉氏は「正真正銘の独身」(友人)だ。父親のように「ファーストレディ」役を務める姉(小泉氏の叔母)も見当たらない。もちろん、独身なら政界に蔓延する「不倫疑惑」にも巻き込まれにくいが、政治家として子育てを重視し、「こども保険」を提唱する小泉氏が独身のままでは「説得力に欠ける」ことにもなりかねない。

いまや押しも押されもしない「自民党の希望の星」となった小泉氏だが、現時点での死角は「党内の嫉妬と資金力と独身」ということになりそうだ。