現社長の荻田和宏氏(左)と、創業者の山口洋氏(右)はいったい何を語るのか(写真:荻田氏は11月の決算説明会で編集部、山口氏は2013年に今井康一が撮影)

「その質問については……」

11月1日、保育園など子育て支援施設を運営するJPホールディングスが開いた決算説明会。報道陣やアナリストに質問を投げかけられるたび、同社の荻田和宏社長は臨席する広報担当者や管理部門の担当者に逐一内容を確認しており、「自分の言葉で話すことは少なかった」(出席者)。

荻田社長は2015年に社長に就任するまで、管理担当の役員を約10年務めたおり、自らの判断で回答することは可能だったはず。それでも慎重な態度に終止したのは、創業者との”決戦”の日が近づいていたためなのか。

委任状争奪戦の末、全面対決へ

東洋経済オンラインが8月下旬に、創業者の山口洋・前社長と、荻田社長の対立が深まっていると報じてからちょうど3カ月(「保育園大手JPHDでも経営陣と創業者が対立か」)。11月22日、名古屋市内のホテルで10時から開催される臨時総会で、両者は正面からぶつかり合うことになる。

JPHDは、山口氏がパチンコ店などで客にコーヒーなどを給仕するワゴンサービスで創業した会社だ。2000年以降、株式会社による認可保育園の設置が認められると、同分野に参入。民間の保育園運営会社として最大手にのし上がった。

山口氏、荻田氏はともに大和証券の出身。原動力となったのは「山口さんが大和証券時代に培った、徹底的なトップダウンの組織を実現したこと」(元社員)。山口氏には、社員全員の誕生日にカードを送るような緻密さもあった。国による保育園整備の追い風にも乗り、JPHDは急速に業容を拡大していった。

そんな山口氏にとって、転機は2015年2月17日の役員会だった。

荻田社長ら会社側の説明によれば、「女性社員に対する重大なセクシャル・ハラスメントに該当する事実があり」事実関係を確認したところ、山口氏が問題となった行為の事実を認め、「最終的に体調不良による入院を理由として、(社長を)辞任する意向を示した」という。

ただ、現在山口氏側は「セクハラを認めた事実はない」「あくまで健康上の理由で入院せざるを得なかったため」(同氏代理人)と説明する。

ともかく後任として、社長に就任したのが荻田氏だ。荻田氏は少子化が進む中、首都圏を中心とした現状の待機児童問題は解消すると見て、民間学童クラブや保育園向けコンサルティングなど周辺事業に参入したり、ベトナムなど海外に進出するといった多角化を進めた。

しかし、新規事業の展開や、保育士の賃上げといった費用が重しとなり、2017年3月期は前期比3割減という大幅な減益に陥る。保育士不足で想定の収益を上げられない保育園の減損処理もあり、1株当たりの配当は5円から2.5円に減らしている。

取締役の任期短縮などを要求


こうした状況に山口氏は業を煮やしたのか。2017年6月の株主総会では、山口氏の盟友とされる大株主が、取締役の任期を現行の2年間から1年間に短縮することと、社外監査役選任の提案を提出。両案は否決されたが、特に後者の賛否は僅差だった。

そして9月28日、山口氏が大株主として臨時株主総会を招集する。要求内容は〜芦鵑汎瑛佑房萃役の任期の短縮、現取締役1人の解任、そして山口氏が推薦する旧三菱銀行出身で元東京スター銀行会長だった人物の取締役の就任だ。

山口氏はもともとJPHD株の約27%を保有する大株主だったが、2017年に入ってから株を買い増し、親族などによる共同保有を合わせると、現在35%近い株を保有する。

こうした動きに対し、荻田氏ら会社側は「経営の支配を握ろうとする動き」と警戒心を強める。そして株主提案に反対する形で、山口氏は過去にセクハラ疑惑があり、当社の経営に関与するにはふさわしくないと公表したのだ。

対立の決定打となったのが、会社側が外部の弁護士に依頼して設置した第3者委員会の調査報告書だ。

会社側は2年半前に山口氏が辞任した経緯について、第3者委に調査を依頼。それに対し第3者委は、株主などステークホルダーの関心は現在の経営状況にあるため、山口氏のみならず、会社の経営に重大な影響を及ぼす範囲までに調査対象を拡大する。

前任と現任のトップ2人がともにパワハラ

11月17日に公表された要点版によれば、第3者委は山口氏が社長だった当時の行為について「会社経営上重大な影響を与える可能性のある(パワー)ハラスメントと認められると認定」。ただ荻田社長についても、ややトーンを落とすものの「パワーハラスメントに該当しうる行為が存在する」と指摘した。


11月17日、第3者委員会がまとめた報告書の要点版が公表された。上場企業の前・現代表のパワハラとセクハラが公表される、異例な内容だ(記者撮影)

そして「前代表(注、山口氏)にはセクハラと評価される行為があったと評価せざるを得ない」としながらも、「現代表者(注、荻田社長)によるセクハラに該当しえる行為が認められる」とした。

つまり、第3者委は上場企業の前任と現任のトップ2人がパワハラとセクハラを行っていると公表したのだ(ただし、第3者委は荻田氏のハラスメントについて、職場環境を害しているとまでは認められないとしている)。

会社側は防衛に必死だ。第3者委の調査と平行して、従業員から「私たちは前代表、山口さんのJPHDへの関与及び復帰を断固拒否します」との嘆願書を受領したと発表。その中には保育園179園中、173の園長も含まれているという。

同時に、荻田社長は保育士の待遇の大幅改善を実施する。保育士1人あたり最大で年96万円という大幅アップだ。通常保育士の待遇見直しは春に行う。しかも、もともとJPHDの保育士の待遇は、民間保育の中でトップレベル。「この時期にこの上げ幅は、異例の大盤振る舞い」(別の元社員)。ただ会社側は「手当の増額は予算策定時より計画されていた」と、創業者の対立などとは何の関連もないとしている。

山口氏も一歩も引かない。「JPHD株主の会」を立ち上げ、株主に支援を要請する手紙を送付。さらに第3者委の報告など、会社側の一連の公表について「事実誤認の開示を行われたので、名誉毀損でその正当性を法廷で争っていく」とJPHDを提訴した。


創業者兼社長として絶大な権力を振るった山口氏におごりはなかったのか(撮影:2004年、尾形文繁)

山口氏は東洋経済の取材に対し、代理人を通じて「私が創業者として取り組んだガバナンスの土台構築が十分ではなかったということといえます」と反省はするものの、「私は今、会社の経営を離れ、一株主として様々な会社の情報に接する中で、今の会社の現状を招いた原因は、取締役会に『経営の規律』と『株主に対する緊張感』が足りないからではないかと考えるにいたりました」とする。

創業家側が過半数を抑える

山口氏らによると、総会前日の21日の時点で「総議決権の過半数を大幅に超える賛成票を確保できる見通しとなった」。ただ、山口氏が提案する役員任期の変更には定款変更が必要なため、3分の2の賛成が必要になる。勝利を確信するには至っていない。

一方の会社側にとって、総会の結果いかんにかかわらず、山口氏らがJPHD株の35%を握る構図は変わらない。「より多くの株主の皆様に当社の経営方針にご理解ご支援いただけるよう尽力してまいります」(会社側)という。

ただ、山口氏の影響力を排除するためには、大規模な第3者割当増資や、投資ファンドと組んだMBO(経営陣による自社買収)といった“飛び道具”を繰り出す可能性も十分にあるだろう。

そしてもし、両者が和解できなければ、2018年6月の定時株主総会で再び、ぶつかり合うことになる。

こうした経営層の対立が長期化すれば、もっとも迷惑を被るのは、子ども達を日々預かる保育現場だろう。「保育園の運営はJPHDとは別会社ということもあり、今回の経営層の対立をよく理解していない保育士も多いはず」(元社員)。

現経営陣さらに創業者側は、今回の混乱を保育士たちにどのように説明するのだろうか。