千葉“奇跡の7連勝”を呼び込んだ要因 ハイプレス&ハイライン戦術はいかに熟成されたか

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最終節の後半ATに決勝点 “エスナイデル流”を貫き6位でJ1昇格プレーオフに進出

 奇跡的とも言えるJ1昇格プレーオフ進出が決まった19日のJ2最終節、ジェフユナイテッド千葉のフアン・エスナイデル監督は、後半アディショナルタイムの決勝点で横浜FCに2-1と勝利した試合後、7連勝の要因を聞かれてこう答えている。

「チームは私の要求をほとんど実行できています。また、私の言うことだけをやっているわけではない。やりたいことが(監督と選手で)合致している状態にあり、あとはありったけの情熱をぶち込んだ結果です」

 新しいプレースタイルを作っていく過程では、監督の意向と勝つための必要性が噛み合わないことがよく起こる。千葉に関しては、当初はハイプレスとハイラインの戦術のメリットよりデメリットのほうが目立っていた。当面の試合に勝つには、そこまでハイプレスもハイラインも必要ではない、むしろ大きなリスクだった。ただ、最終的にプレースタイルが確立されると、どちらもメリットに転じている。

 スタイルとかフィロソフィーの話になると、「じゃあ、負けてもいいのか」という反論が必ず出てくる。育成年代に関して言えば「負けてもいい」と思う。選手はまだ成長過程なので、それが成長に資するものなら当面のリスクは負うべきだからだ。負けるためにやっているわけではないが、やがて勝つために必要ならそれは投資である。

外国人監督がJクラブを率いて直面する難題

 しかしプロとなれば話は別だ。少なくとも、そのシーズンのうちにそれなりの成果を出せなければ“納期遅れ”ということになる。エスナイデル監督の場合は、ギリギリで間に合った。

 外国人監督が日本のチームを率いる時に難しいのは、監督の指示はよく守ってくれる半面、必要な時に監督の指示を無視できないことだ。監督は自らの戦術実現のために選手に要求をする。ただ、試合の中では忠実に指示を守るだけでは負けてしまう場合もある。育成年代ならそれでも仕方ないが、プロは目の前の試合に勝たなければならない。一時的に監督の要求を忘れて、勝つためのプレーをすべき時もある。ところが、日本の選手はだいたいそういう判断をすることが苦手なのだ。

 1997年にアルゼンチン人のカルロス・パチャメ監督がアビスパ福岡の指揮を執っていた時、監督は徹底したマンツーマンを指示していた。ところが、マンツーマンを徹底した挙げ句に失点すると、「なんでマークを受け渡さないんだ!」と怒っていたという。

 選手からすれば、指示どおりやって怒られるのは理不尽に違いない。ただ、パチャメ監督にすれば、失敗すると分かっていることをなぜやるのか理解できない。プロなんだから、その場の状況で判断できるだろうというわけだ。

スタイルはチームを強くするためにある

 エスナイデル監督の場合、特に極端な戦法だったこともあって、千葉の選手たちもどこまで監督の言うとおりにやるべきか迷っていた時期があった。ようやく終盤でそれがなくなって、監督の要求に応えたうえで自分たちでも臨機応変に判断できるようになったわけだ。これでようやく導入したプレースタイルが確立された状態となり、「ありったけの情熱」をぶち込める器が整ったと言える。

 エスナイデル監督はそこへ行き着くまでに、スタイルを曲げなかった。負けを許容したわけではないが、やり方を変えてまで当面の試合を取り繕うことをしなかった。その頑固さが仇になったこともあった。ただ、スタイルはチームを強くするためにある。目の前の結果のためだけに、あまりにも節操をなくしてしまえばチームは成長しない。成長すれば勝てるようにはなるが、勝つだけではスタイルは整わず成長もしないのだ。

【了】

西部謙司●文 text by Kenji Nishibe

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images