軍事アナリストの西村金一氏

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 アメリカのドナルド・トランプ大統領は、アジア5カ国の歴訪を終えて「多くの友人に恵まれ、大成功を収めた外遊だった」と語った。

 もっとも注目を集めていたのが、中国訪問だ。トランプ大統領は“皇帝級待遇”でもてなされ、米中の企業間では28兆円を超える巨額の商談がまとまった。また、それまでの巨額の貿易赤字をめぐる中国批判を翻し、「(貿易不均衡について)中国に責任はない。責任は、貿易不均衡を防げなかった過去のアメリカの政権にある」とまで言った。

 北朝鮮問題に関して、中国の習近平国家主席は「朝鮮半島問題について、私たちは非核化を主張する。この問題は対話を通して解決したい」、トランプ大統領は「中国は容易に迅速に(北朝鮮の)問題を解決できるはずです。中国と偉大な国家主席に努力することを求めます」と語り、温度差をにじませながらも朝鮮半島の非核化では一致を見た。

 米中はどのような心づもりなのか。また、米朝開戦の可能性はあるのか。元防衛省で軍事アナリストの西村金一氏に話を聞いた。

「北朝鮮が持つ核兵器は、アメリカ、あるいは日本や韓国に向けられる核であって、中国にとっては自国の国益を考えるとマイナスではありません。アメリカを西太平洋に入れない、あるいは中国本土を攻撃させないという本来の目的からすれば、北朝鮮は同じ敵に向かっているわけです。つまり、中国の本来の軍事戦略から見れば、プラスとさえ言えるのです。

 とはいえ、何百発もの核兵器を持つとなると問題ですが、中国は本音では核保有自体は実質的に許容しているのではないでしょうか。だから、口先では『圧力を加える』『制裁を加えている』などと言いますが、それほど強くはやっていません。

 一方で、中国は『金正恩(朝鮮労働党委員長)には辞めてもらいたい』と思っているはずです。金正恩を政権の座から引きずり下ろして、中国のように、一党独裁であっても資本主義をある程度受け入るかたちで、まともな国になってほしいわけです。

 ベストは、中国の言うことをよく聞く傀儡政権をつくることです。暗殺された金正男の長男である金漢率を連れてくるなど、そのやり方はいろいろとあるでしょう」(西村氏)

●中国が「米朝戦争」を避けたい本当の理由

 北朝鮮は、9月15日の弾道ミサイル発射を最後に軍事的挑発を控えている。しかし、ミサイル技術や開発体制が大幅に進歩しており、2018年にはアメリカ本土に到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させるという見方が強い。

「軍事力に圧倒的な差があるため、仮にアメリカが攻撃を仕掛ければ北朝鮮はすぐに殲滅されるでしょう。しかし、それまでのわずかな間に韓国や日本にミサイルを撃ち込んでくる可能性は高い。特に、北朝鮮との距離が近いソウルは通常兵器だけでも壊滅するかもしれません。

 今、戦争が起こらないのはなぜか。北朝鮮が『アメリカに向けての核兵器を持つ』ということよりも『韓国を人質に取っている』ということが抑止力になっているからです。もし韓国という人質がなければ、アメリカはすでに撃ち込んでいると思いますよ。いわば、シリアと同じ状態なわけですから」(同)

 北朝鮮がアメリカに反撃しても、すぐに制圧されることになりそうだ。西村氏は「北朝鮮がミサイルをせいぜい10発撃ったとしても、アメリカにすべて撃ち落とされるでしょう」と語る。

「しかしながら、アメリカは一貫して戦争を避けています。米韓合同軍事演習で空母を3隻展開させたことについて『湾岸戦争のときのようだ』と言う人もいましたが、私は違う見方をしていました。

 湾岸戦争のときに防衛省にいたのでわかりますが、戦争をするときは半年くらいかけて兵員や武器弾薬を輸送艦でガンガン運ぶのです。しかし、その動きがなかった。空母もイージス艦も潜水艦も来ているけど、輸送艦が来ていない。そのため、『本気ではないな』とすぐにわかりました。戦争をする気であれば、横須賀港などに輸送艦が次々に来ていないとおかしいですから。

 また、北朝鮮を攻撃すれば韓国がやられるのはわかっているので、韓国を守るために地上軍を派遣する必要があります。しかし、そういう動きも一切なかった。そうした経緯に鑑みても、アメリカがすぐに北朝鮮へ軍事攻撃を仕掛けるというのは考えづらい。

 中国も、戦争は望んでいません。中国が朝鮮半島有事を嫌がる理由として、よく『北朝鮮からの難民が中国に押し寄せるから』『米軍が中国国境まで迫ってくるから』と言われますが、それよりも大きいのは、経済成長が邪魔されるからです。せっかく発展して国が潤っているのに、戦争したらパーになってしまいますから」(同)

●「中国が北朝鮮の核を管理」という最悪シナリオ

 アメリカも中国も戦争を避けようと考えているのであれば、北朝鮮が核を保有することを黙って見ていなければならないのだろうか。

「『核を保有はさせるけど使わせない』という妥協案はあるかもしれません。たとえば、中国が北朝鮮の核兵器を管理する。中国軍が北朝鮮に入り込んで核を使わせないようにするという妥協案です。でも、それは日本にとっても最悪のシナリオですよね。国際情勢が変化して中国が引き揚げてしまったら、北朝鮮の手に核は残るわけですから」(同)

 次回は、金正恩の「斬首作戦」の内容と実行時期などについて、さらに西村氏の話をお伝えする。
(文=深笛義也/ライター)