「楽しいからこそ毎日働ける」91歳のおふくろが築地でピザを焼く姿から学ぶ仕事の哲学

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そろそろ冬を感じさせる厳しい寒さが、1日のいたるところに顔を見せるようになりました。そんなときは、おいしい食事で、身も心も温まりたいですよね。

そんな家庭の味を楽しめる、“おふくろ”がいるお店を尋ねる連載企画も、今回で第4回を迎えました。さっそく訪れたのは、築地市場の場内にある「築地魚河岸トミーナ」です。

なんとこちらは、91歳の女性が、ピザを焼いているお店なのだとか。築地市場の場内を眺めながら到着し、いよいよ店内へ入ると……。

厨房にいるのが、土井スズ子さん。鮮やかな青いお洋服がとってもお似合いですね。では、人気の海鮮ピザと、マルゲリータを注文してみます。

さっそくスズ子さんは生地を広げて、ホタテやイカなど、盛りだくさんの具材をトッピングしていきます。

マルゲリータにはトマトやチーズ、スイートバジルなどをのせて、いよいよ釜の中へ! 500℃の高温で焼き上げるようです。釜の近くにいるだけでも、体の芯まで熱が伝わってきます。

焼き加減をチェックする眼光が、とっても鋭い!おいしく焼き上がるタイミングを、タイマーが鳴る前から、自身でチェックされています。

さあ、海鮮ピザが焼きあがりました!食べやすく切っていただいて、すぐにいただきます。

ううっ、とってもおいしいです〜! 生地がふっくらとしていて、上質な小麦の香りが広がると、プチッとした食感の海鮮の味わいと絡み合います。焼きたてのピザに酔いしれてしまい、しばしうっとり……。

続いては、マルゲリータも熱々を味わいます!

……トマトの果汁が舌の上にじゅわ〜っと滴り落ちると、ほどよい酸味と甘味に包まれます。とろ〜りチーズとバジルの香りも、トマトの風味のあとからやってきますよ。まだお昼なのに、ワインがほしくなりました!

「楽しいからこそ、毎日働けるのよ」

「築地魚河岸トミーナ」は、娘さんが始められたお店なのです。20年前のある日、ピザ作りのお手伝いをお願いされて、スズ子さんも厨房に立つようになったとのこと。とっても精力的にテキパキとピザを調理をされている様子が印象的でした。

「毎日、のほほんとやっているから、仕事のことを真剣に考えることはないんですけどね(笑)。やっぱり楽しくないと毎日働けません」

大正15年1月15日生まれのスズ子さんは、もうすぐ92歳を迎えます。

この記事を執筆している筆者の年齢を2倍にしても、まだ足りないほど。若輩者の私は「スズ子さんにとって、人生ってなんですか?」なんて、少々固い質問をしてみたくなるのでした。

「……急にむずかしいことを聞くわねえ(笑)。やっぱり、人生で大切なものは、お仕事かな。お客さんに『おいしい』っていわれると嬉しいですから」

スズ子さんは和やかな雰囲気で向き合ってくださり、ときには鋭い眼光で考えたり、豪快に笑ったり。91歳という年齢を感じさせない躍動感に、こちらまで元気になってきます。

「元気に働く秘訣は、よく眠ること。仕事から帰ったら、いったんお昼寝をします。あと、いろいろなことを忘れちゃうのがいいのよね(笑)」

「人は誰しも優しくて、愛しい」

海外のほとんどの国を旅されてきたという、スズ子さん。細かいことは覚えていなくても、現地で出会った人たちの優しさを思い返します。

「中東のイランも、戦争が起こる前に旅をしました。小さなボートで各地をめぐりながら、とってもキレイな光景を眺めましたよ。

あの土地にはザクロがたくさんできるのですけど、『ジュースにしたらおいしそう』って何気なくつぶやいたの。そうしたら翌日に、現地の人がたくさんのザクロをポリバケツに入れて持ってきてくださって。

人間って、本来は誰しもが優しくて、愛しい存在なのだと思います」

お店を切り盛りされている、娘さんの冨山節子(70歳)さんにもお話を伺いました。

「母ではなく他人として客観的に見ると、やはりすごい人だなと感じます。

毎日朝早くから、私は眠たい目をこすりながら、元気な母に引っ張られるようにして、いっしょに出勤しているんです(笑)。いったん決心をしたら、その道を覚悟を持って進む人ですね」

お店のこだわりは、新鮮で上質な食材にある

「海鮮の具材は築地で仕入れていますし、トマトなどの野菜は産地を限定せず、その日の最高のものを取り入れています。そんな食材を、母はピザに大量に使ってしまうので、採算が合わないことも(笑)」

「……娘はケチだからね(笑)」

おふたりは親友同士のように軽口も叩き合える、ステキなパートナーのようにも見受けられます。でも、娘さんは、やっぱりお母さまを一目置いているようです。

「母のピザと私のピザは、材料がいっしょなのに、味が違うんですよね。母のほうがおいしいんです。生地をこねる力加減がよいのかな」

ケンカをするほど仲良しのおふたり

築地から豊洲へ移転する前に訪れたい

貴重な時間を割いて、優しく語ってくださったスズ子さん。冗談を言って笑う姿は、きっと少女の頃から変わらない可愛らしさ。

「外務省が『危険だから行ってはダメ!』と注意している国へ行きたくなっちゃうの(笑)」と、いたずらっ子のように笑う彼女が、多いときは1日で20枚ものピザを焼いてきたトミーナも、来年には豊洲へ移転する予定なのだそう。

今のうちに築地の雰囲気を肌で感じながら、スズ子さんの手作りピザを味わってみませんか?未来へ伝えたい、温かなおふくろの味が、またひとつ増えました。

築地魚河岸トミーナ 住 所東京都中央区築地5-2-1 築地卸売市場1号館 電 話03-5565-3737 営業時間8:30〜14:30 (築地市場が「休市」のときはピザを焼きません) 定休日日
築地魚河岸トミーナ
東京都 中央区 築地
イタリア料理

ライター紹介

八幡啓司
ライター、編集者。国内や韓国、タイなど、地元の料理を探索する旅がマイブーム。メイン料理に添えられる「漬け物」も好物。座右の銘は、「いざとなったら、まず寝る」。 ブログ Facebook