首相官邸ホームページより

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 衆院選で安倍自民党が掲げた「教育無償化」の化けの皮が早くも剥がれた。安倍首相は先週おこなわれた所信表明演説で「すべての子どもたちの幼稚園や保育園の費用を無償化します」「真に必要な子どもたちには、高等教育を無償化します」と解散発表会見と同じ言葉を繰り返したが、自民党の検討案はその売り文句に遠く及ばない内容だからだ。

 まず、幼児教育の無償化は、公約では2020年度までに3〜5歳の「すべての子どもたち」の幼稚園・保育園の費用を無償化、0〜2歳児についても所得の低い世帯は無償化するとしていたが、選挙後の今月初旬に「認可外の保育園は対象にしない」という方針であることが伝えられた。すると、ネット上では「認可園に入れないから認可外なのに不公平」「公約違反だ」という怒りの声が爆発。すると自民党は17日に公表した提言骨子案で「認可外も無償化の対象」と方向転換した。

 しかし、この「認可外も無償化」という話も、けっして「タダ」になるものではなかった。提言骨子案では「助成に上限を設けるなど金持ち優遇とならないようにすべきだ」としており、認可外の利用者に月2万5700円を限度とする補助をおこなう方向で検討しているというのだ。認可外の保育料はさまざまだが、もし月5万円であれば半分しか助成されないことになる。ようするに「無償化」とは到底言えないのだ。

 そもそも、「金持ち優遇にならないように」などというのは言い訳にすぎない。4年前に「2017年度までに待機児童ゼロを目指す」と大見得を切ったものの、いまだ実行できずにいる安倍政権の失策が根本的な問題ではないか。

 だが、この無償化問題について、昨日おこなわれた代表質問で立憲民主党の枝野幸男代表が「親の年収や施設の種類で限定や差異を付けるべきではない」と批判すると、安倍首相は「具体的な検討を進めている」と返しただけ。どうやら認可外利用者への助成金支給でお茶を濁すという「公約破り」の方針は変わらないらしい。

●高等教育無償化の対象は年収250万円以下の家庭、もしくは借金制度に

 しかも、「公約破り」といえば、「高等教育の無償化」もかなり酷い。公約では、「真に支援が必要な所得の低い家庭の子供に限って」授業料の減免措置や給付型奨学金の拡充を謳っていた。「真に支援が必要な」などとわざわざ限定している時点で本気度が疑わしいが、案の定こちらも選挙後になって、無償化の対象は住民税非課税世帯(年収約250万円未満)で検討していることが発覚した。

 まず、無償化の対象が狭すぎると言わざるを得ないだろう。現に、平成28年度の文部科学白書によると、子ども2人が私立大に通っている場合、勤労世帯の平均可処分所得のうち教育費が占める割合は約半分となっている。さらに2人の子どもが下宿をした場合、生活費を含めると所得のじつに8割に及ぶ。

 それでなくても日本は世界のなかでも大学の学費が高額で、安倍政権になってからは国立大の学費を上げつづけていく方針をとっている。このような状況下で無償化を住民税非課税世帯に限定することは、「高等教育は無償教育の漸進的な導入によってすべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」という国連人権規約からかけ離れすぎている。

 だが、自民党はそうした批判をかわすためか、高等教育費の負担案として「出世払い」制度なるものまで提案。プランとしては、対象者に所得制限は設けず、授業料を政府が肩代わりし卒業後に年収に応じて返済するのだという。つまりは、たんなる借金制度であり、無償化でもなんでもないのである。

 森友・加計疑惑から逃れるために消費増税の使途変更のためと言って解散し、600億円を超える費用を投じた選挙では「幼稚園・保育園をタダに」「低所得世帯は大学授業料無償」などと並べたが、まさにインチキばかりだったわけだ。

 さらに、だ。度肝を抜かれたのは、年収800〜900万円を上回る子どもがいない世帯に対しては増税する案を検討するつもりでいるらしいことだ。この件については追って論じたいが、子どもを産めない事情や産まない自由を考慮せず、子をもつか否かで人びとを分断するという、非常に許しがたい案だろう。

●不可欠なのは助成制限でなくノーベル賞受賞学者も提唱する累進課税強化

 ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・E・スティグリッツ米国コロンビア大学教授は、今年3月、経済財政諮問会議に招聘された際、社会的格差を子世代に連鎖させないために必要なのは公的教育の拡充だとした。そこでスティグリッツ教授が日本に必要な政策として提案したのは、所得分配の是正、最低賃金の引き上げ、そして教育チャンスの平等だ。その上で必要な財源について、累進課税の拡大を提唱したという(ロイター3月14日付)。

 にもかかわらず、逆進性の高い消費税増税で詐欺的無償化を実行するのはむしろ事態を悪化させるばかりだ。無論、筆者はすべての教育無償化を実現させるべきだと考えるが、そのためにはスティグリッツ教授が提唱するように累進課税の拡大という「税制における平等」や、社会保障や福祉への財政出動を推し進めなければ、根本の格差是正や経済活性化は望めないだろう。

 しかし、安倍政権がこうした意見に耳を貸しているとは到底思えない。安倍自民党による杜撰な無償化プランを見れば、教育無償化が格差是正のための政策ではなく、選挙用のその場しのぎの甘言だということははっきりしているからだ。一体、これのどこが「国難突破」「人づくり革命」なのか。期待や希望どころか、絶望しか感じられない有り様である。
(水井多賀子)