18日のサガン鳥栖戦でJ1デビューを果たしたFC東京のMF平川怜【写真:Getty Images】

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11月1日にプロ契約が発表された平川怜と久保建英

 11月1日に久保建英とともにプロ契約が発表されたFC東京の平川怜。2017年はU-17ワールドカップにも出場した2000年生まれのMFが、11月18日に行われた明治安田生命J1リーグ第32節・サガン鳥栖戦でJ1デビューを果たした。将来を嘱望されるプレーメーカーがこの舞台にたどり着くまでの道程に迫った。(取材・文:後藤勝)

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 今シーズン中のJ1出場が確実視されていた平川怜と久保建英がプロ契約を発表したのはU-17ワールドカップ後の11月1日。発表当日はFC東京U-18の練習に参加、3日のベストアメニティスタジアムにおけるJユースカップ準々決勝に出場したあと、翌日は2種登録選手のユース組+ジャキットと20分間ほどのトレーニングをしたのみですぐ大阪へと出発、5日は市立吹田サッカースタジアムでガンバ大阪U-23とJ3第30節を戦ったため、本格的なトップチームへの合流は翌週からだった。

 同じ時期に同じ路を歩んだふたりのうち、平川が先にJ1へのGOサインを点灯させた。11日のJ3第31節で藤枝MYFCを相手に中盤を制圧、橋本拳人からのパスをゴールに突き刺してチームを勝利に導いたことで、評価がさらに高まったのだ。

 しかし11月16日の練習後、取材に応じた平川は「いまJ1のメンバーに入るとは少々考えにくい」と発言。忍び寄るデビューの気配に気づいていなかった。

 翌17日、トップチームの鳥栖遠征メンバーに選ばれた平川には旅の備えがなく、スーツを借りてJ1デビュー戦行きのバスに乗った。「緊張しています」と言う平川を、安間貴義監督は高く評価していた。ふくらはぎのハリを訴えて一時離脱した郄萩洋次郎がいない中盤で必要になると思ったから──というのが、安間監督が平川をメンバーに含めた理由だった。

 ここまでわずか二週間半。あっという間の出来事だった。

 もともと2種登録でJ3の公式戦に出場し始めたときから、プレーメーカー、パッサーとして即効性のある平川のJ1デビューを待望する声は多かった。両サイドの奥深くを衝くパスによる大きな展開には魅力がある。

 だが、いまでこそ平川を高く評価している安間監督は、かつては慎重な立場をとっていた。高校生の段階でもいいパスを配球できる選手は、過去にもFC東京の下部組織から出現してきている。その力に加えて、相手にとって脅威となる何かを持つことができるか否かが問題だった。

 パスを出すだけなら怖さはない。ワンツーでの突破にしろ、ドリブルにしろ、ミドルシュートにしろ、攻め上がってワンタッチでのシュートにしろ、ゴールに絡む動きがなければ、対戦相手はいやがってくれない。

実力と結果でメンバー入りの権利を勝ち取った平川

 懸念をよそに、平川が“怖さ”を身につけるまでにそう多くの時間はかからなかった。U-17ワールドカップから帰国、しばしの休息を得たあとの日本復帰初戦、10月28日のJ3第29節で、平川はFC東京U-18から昇格の内田宅哉そして久保との連係から出てきたパスを受けると、ペナルティボックスの右角からダイアゴナルに運んで深くえぐり、マイナスのパスをボックス左に位置していたリッピ・ヴェローゾに供給、同点ゴールをアシストした。完璧な崩しであると同時に、安間監督が求めていたものの答えであることはあきらかだった。

 J1デビュー前日の17日、安間監督は「課題である30メートル前、エリアのなかでプレーできるような怖い選手になっていけばいい」と言っていた。平川は実力と結果で認めさせ、メンバー入りの権利を勝ち取ったのだ。

 18日。平川がピーター・ウタカとの交替でベストアメニティスタジアムのピッチを踏んだとき、スコアは既に2-0となっており、2点をリードしたサガン鳥栖は青木剛を投入して5-3-2へと陣形を変えていた。カルチョが染み付いたマッシモ・フィッカデンティ監督とすれば当然の策だっただろう。

 平川もこの状況はよくわかっていた。

「もう、鳥栖は守っている状態で、やることがはっきりしていて。自分のところではプレッシャーなく持つことができました」

 相手の圧がない中盤でボールを持つと得意のロングパス。投入されてから40秒後、右サイドを上がっていた右ウイングバックの室屋成を狙ったものだった。

 とはいえ、競り合う場面ももちろんある。コロンビア出身の188cmビクトル イバルボに競り勝つことはできなかったが、イバルボを含めてどの選手にも果敢にぶつかっていった。足りないものはゴールに直結したプレーだけだった。

「個人としてはまだまだやることもたくさんある。あの時間帯に入ったら、結果を残すくらいになっていきたい」

鳥栖戦後、平川のプレーを賞賛した大久保嘉人

 残り時間20分での投入。スーパーサブとして得点に関与できないことが心残りだった。結局、東京唯一の得点を挙げたのは、相手ボールをかっさらい独力でフィニッシュにまで持ち込んだ大久保嘉人だった。その大久保は試合後、平川を賞賛した。

「よかったと思います。いまの東京で、ふつうに出たほうがいい。落ち着いているし、ほんとうにこれからが楽しみですよね」

 試合後の共同記者会見では安間監督が賛辞を送っていた。

「よくやってくれたと思います。エリア内の密集のところにしっかりとパスを出せるのが(平川)怜のクオリティだと思っていますし、そこからスピードを上げられるのも彼だと思います。

 入った直後に(室屋)成に出したパスなどからは、トップチームの選手も彼を信じて動き出すことができていることがわかりますし、あの歳にして『ここに出してくる』という感覚をチームメイトに植えつけているのはいいこと。

 ライン際でファイトしていたところは、U-17ワールドカップで圧力に対してなかなかプレーできなかったという反省をもとに、次の段階に行くためのトライだと思います」

 いい選手たちを活かすには、彼らの周囲で支援にまわれる選手、あるいはグループの核となれる選手が必要だ。今後のFC東京、そして東京五輪以後の日本代表を考えると、まずピッチ上で中心になる存在を鍛えなくてはいけない。当然その候補に平川は入ってくる。

 かつての10番タイプは、現代サッカーにおいてはフォワード、トップ下またはサイドハーフに回収される運命にあるが、4番タイプから派生した万能の選手も、センターハーフを基本にサイドにもトップ下にも行くこと、攻守に幅広い活躍が求められている。

 7月1日のJ3第15節ブラウブリッツ秋田戦では、得点に直接かかわっていく課題に立ち向かうためか、久保とのコンビを前線で組む布陣でプレーしていた。

 中盤を構成しながらゴール前にも顔を出す4番派生の中心選手としての完成形は、鳥栖戦での約22分半だけでなく、ここまでの歩みすべてを高い水準で体現したものになる。そうした予感を漂わせるJ1デビューイヤーだった。

(取材・文:後藤勝)

text by 後藤勝