かつてビットバレーと呼ばれた渋谷で、Plug and Play Japanが新たなムーブメントを起こそうとしている(写真:Plug and Play Japan)

シリコンバレーのスタートアップ支援組織として有名な「Plug and Play」が、ついに日本進出。東京都・渋谷のオフィスビルに活動拠点をオープンしました。
Plug and Playは、三菱東京UFJ銀行、東急不動産、SOMPOホールディングスをはじめとする大企業のサポートを受けながら、グローバルにつながるイノベーションのプラットフォームづくりを目指していきます。本稿ではその取り組みを概観します。

オープニングイベントは大盛況


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11月10日、渋谷のオフィスビル1階のホールは300人を超えるビジネスパーソンや起業家でにぎわっていました。シリコンバレーのスタートアップ支援で活躍するPlug and Playの日本でのプログラム開始イベントが行われたためです。主催者側のあいさつ、講演、パネルディスカッションと併せ、支援対象となるスタートアップによる新しい技術やビジネスモデルのプレゼンもありました。

スタートアップの多くは、シリコンバレーをはじめとする米国や欧州など海外勢。技術や事業企画のレベルも高く、さながら、本場シリコンバレーのピッチイベントを見るようでした。

ただ、シリコンバレーと異なるのは、聴衆にスーツ姿のビジネスマンが多数という点。スタートアップと連携を図ろうとする大企業の新事業担当です。シリコンバレー流と日本的なビジネスシーンが交差する面白いイベントになりました。

Plug and Playはシリコンバレーのサニーベールに本拠を構えるスタートアップ支援組織。「アクセラレーター」といわれ、創業初期の事業立ち上げを加速する役割を担います。

支援プログラムでは、幅広く起業家を募集し、多数の応募の中から選んだ潜在力のある起業家に対して、3カ月の期間限定で支援を実施します。オフィス、専門スタッフによる経営アドバイス、投資家や経営人材のネットワークなど、必要な資源を集中的・効率的に提供することで成長促進を図るモデル。また、起業家、投資家、連携企業の集まるイベントやミートアップも数多く開催しています。

2006年の創設で、支援先企業は2000社以上。それらの資金調達総額は60億ドルを超えます。投資部門であるPlug and Play Venturesは1998年から投資活動をしており、PayPalをはじめ、Dropbox、LendingClubなどグローバル展開するユニコーン企業も投資先です。そして、「Silicon Varley in a Box」 をキャッチフレーズに、全米各地、欧州、アジアに22拠点を構え、シリコンバレーの活力を凝縮してそれぞれの施設で提供しています。

日本進出の狙いは?

Plug and Play Japan代表のフィリップ・誠慈・ビンセント氏は今回の日本展開について次のように語ります。

「私たちはこれまで、世界各地のさまざまなベンチャーエコシステムづくりをサポートしてきました。そして今回の挑戦は、かつてテクノロジーで世界の頂点にいた日本に、最新のイノベーションを活用してもらうことです。まだ若い日本のベンチャーエコシステムを各国のベンチャーエコシステムとつなげることで、新しいグローバル化の波をつくりたいと思います。私たちの持つ、さまざまな産業分野でのプラットフォームづくりのノウハウと、日本のトップ企業のご経験や経営資源を組み合わせることで、日本社会の起業家精神に火をつけたいと考えています。そのためにまずは、スタートアップと大企業の確固たるパートナーシップの形成をしっかりと進めます」

Plug and Play Japanのオープニングに際して特に目立ったのは、日本の大企業の強力なバックアップ。主軸パートナーとして運営面をサポートするのは三菱東京UFJ銀行。イベントでは、荒木三郎副頭取が、同社のスタートアップ支援プログラム「Rise Up Festa」の赤いポロシャツでさっそうと登壇、今後の展開について語っています。


三菱東京UFJ銀行の荒木三郎副頭取(写真:Plug and Play Japan)

「MUFGは、Plug and Playのグローバルネットワークを活用し、スタートアップへの支援強化と本邦ベンチャー業界発展への貢献を企画しています。アカデミア、行政、大企業が相互に連携し、“オールジャパン”での取り組みに発展させたいと思います」

このほか、東急不動産が、施設の提供、会員制コワーキングスペースの共同運営などで参画。SOMPOホールディングス、パナソニック、富士通、デンソー、フジクラなどもパートナーに名を連ねます。

業界横断コンソーシアムの形成を目指す

Plug and Play Japanでは、「日本で1番海外ベンチャーに会える場所」をキャッチフレーズに掲げ、そのネットワークで選りすぐりの海外有力ベンチャーを渋谷に招致。当該企業と、日本企業を1社でなく複数社つなげることで、ベンチャーをハブとした業界横断コンソーシアムの形成を目指します。

海外で力のあるベンチャーを見つけて事業提携などの交渉をするのは大きな労力がかかり、また、現地コネクションがなければむずかしい仕事。しかし、Plug and Playのネットワークを活用すれば、技術や経営のレベルの高いスタートアップで、かつ、日本企業との連携に興味のある企業と、日本に居ながらにして出合うことができます。このような、マッチメーカーとしての役割に大企業側の期待も大いに高まっていると考えられます。また、本格的な海外スタートアップの日本進出は、国内のスタートアップとの健全な競争も引き起こし、エコシステムの向上につながります。

今回のプログラム第1弾では、150社の応募から21社を選定。3カ月にわたって支援プログラムを開催予定です。うち13社は海外スタートアップで、その多くはすでに、海外の大企業との連携実績があります。

海外スタートアップの経営者は、「すでに事業展開している米国と同様に市場が成熟している日本で、自社のサービスの拡大を図りたい」「日本のものづくりの精密さや、作り込みのすごさとの連携が楽しみ」など、日本企業への期待を口にしていました。


日本企業との連携を提案する海外の起業家たち(写真:Plug and Play Japan)

米国のスタートアップが日本へ

今回の支援先企業は以下のとおりです。

<海外企業>
artisense、DataRobot、DynoSense、ipvive 、Litmus Automation、nCore Communications、Nikola Labs、NoPassword、Skymind、Sureify、Vizru(以上米国)、BreezoMeter(イスラエル)、Sentiance(ベルギー)

<日本企業>
Aba、KeyChain、Laboratik、Phoenix Solution、Pixoo、ReiFrontier、TeNKYU、Warrantee

Plug and Play Japanのチームには、日本におけるアクセラレーターの先駆けであるサムライインキュベートで2013年から起業家支援してきた矢澤麻里子氏もCOOとして参加。渋谷での意気込みを語ります。

「これまで、キャピタリストとしてスタートアップを支援していく中で、大企業とスタートアップの連携の難しさに直面する機会が多くありました。特にクロスボーダーとなると、そこに文化や商慣習・言語の問題などが相まって残念な結果になったケースも。われわれは、これまでのアクセラレーターが実施していなかった海外スタートアップも日本に呼び込み、一緒に支援をしていきます。その中で、大企業・国内スタートアップ・海外スタートアップのミックスだからこそできる、”日本の当たり前に縛られない価値“を生み出していきたいと思います。また、これが実現できるのは日本を代表するそうそうたる企業様に全面的にバックアップいただいているからだと思います。皆さんからお力添えいただき、しっかり還元できるよう尽力してまいります」

誰でも入っていけるオープンな雰囲気

Plug and Playはシリコンバレーの地で、起業家や投資家と連携を図ろうとする人がまず訪れるべき入門編の場所といわれてきました。活気があり、誰でも入っていけるオープンな雰囲気があるからです。

今回のイベントでも、ほかのスタートアップイベントでは見られないスーツ姿の人も多数出席し、参画プレーヤーの広がりを感じることができました。コアなメンバーだけでなく少し離れた人たちを巻き込むことが大切。かつてビットバレーと呼ばれ、日本におけるスタートアップムーブメントの発祥の地となった渋谷においてPlug and Play Japanが、新たなムーブメントを起こそうとしていることは意義深いと思います。

筆者は、創設まもないPlug and Playを訪問したことがあります。恒例になっている壁へのサインを書きながら、「このようなオープンで活力のある拠点が日本にもできれば」と思っていました。それから10年、日本のスタートアップをめぐる環境は大きく変化し、Plug and Play Japanが発進。渋谷にできたシリコンバレーのさらなる拡大と、それと連動する日本企業のイノベーションの加速を期待しています。