消費者に選ばれるために理解しておきたいのが「無意識」です(写真:Sergey Nivens / PIXTA)

生き方にも働き方にも、多様な価値観が認められる現代では、従来のマーケティングの限界が見えてきています。ダイレクトメールや電話営業など、かつて有効とされてきた手法が、望むような効果を得られないことが増えてきています。

消費者が何を求めているのかを知り、それを充足させなければビジネスは成り立ちません。そこに有用といわれるのが、「ニューロマーケティング」という比較的新しいマーケティング理論です。

「ニューロマーケティング」とは、脳科学の見地から、従来のマーケティングリサーチでは把握できなかった、消費者の心理や行動のベースにある“ホンネ”をとらえようという考え方です。

そこには「無意識」が大きくかかわってきます。

近年の脳科学、心理学、行動経済学の研究によると、人が何かを選び取るとき、意識はあくまで副次的な役割しか持たず、主体的に選択を行うのは無意識であることがわかってきました。

つまり、消費者に商品が購買されるとき、一般的な感覚としては、理性的な判断に基づいて消費者は意思決定を行っているように思えますが、9割以上の場合でそれは違い、実際には無意識により選び取られているのです。

わかっているようでわからない「無意識」とは?

「無意識」とは何でしょう。

私たちの誰もが言葉としては知っていますし、その意味についても何となく理解しています。しかし、説明しようとすると、「無意識とは、意識していない状態のことだ」などとあやふやです。

ここで、意識と無意識の違いを整理してみましょう。

2017年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学教授で経済学者のリチャード・セイラーと、ハーバード大学ロースクール教授のキャス・サンスティーンの共著によれば、無意識は「自動システム」、意識は「熟考システム」として表せます。


(出所)『顧客を説得する7つの秘密』(原題:7 SECRETS OF PERSUASION、すばる舎リンケージ)

さて、ではその、「無意識」をマーケティングに生かすためには、どのようにすればよいのでしょう。

拙著『顧客を説得する7つの秘密』(原題:7 SECRETS OF PERSUASION)にも詳しく解説した、消費者の無意識に訴求するためのテクニックをいくつか紹介しましょう。

考えは行動に引っ張られる

その1つに「考えではなく行動を狙え」というものがあります。人がどのように行動するかは、その人の考えと状況によって決められます。

考えを変えようとすれば、少なからず相手の心理的抵抗を生みますし、ともすれば反発すら抱かれかねませんが、状況を変えるのは比較的容易です。そして、その状況の変化により、相手の行動も変化させられるのです。

“心理的リアクタンス”の発見で有名な心理学者ジャック・ブレームは、人々に、それらの違いにさほど関心がないような2つの品物を提示し、1つをプレゼントする、という実験をしました。

するとその後、人々は、選ぶ前と比べると、自らが選んだものをよりポジティブに、選ばなかったものはネガティブに考えるようになっていたそうです。

つまり、自分の行動を合理化するために、自分の考えを調整したわけです。マーケティングにおいても、消費者の考えを変えようとするのは大変だし手段も限られますが、行動を変えるのは考えを変えるより容易で、手段も多くあります。

「経験に先行して期待を作り出せ」というのも、無意識に訴求するテクニックの1つです。かつてスタンフォード大学で意思決定神経科学研究所の所長を務め、現在ではアリゾナ州立大学教授のサミュエル・マクルーアは、人々にコカ・コーラのラベル付きのコーラと、ラベルのないコーラを飲んでもらい、どちらが好きだったかを聞くとともに、その際の脳の活動を記録しました。


すると、人々は、中身は同じコーラなのに、コカ・コーラのラベルの付いたコーラのほうがおいしかったと答えたのです。

しかし、驚くべきなのは、脳の活動においても、ラベル付きのコーラを飲んでいるときにより快感を覚えていることが表れたということです。物質的にはまったく同じ特性でも、ラベル付きのコーラとラベルなしのコーラでは、それを飲む体験に違いが出るわけです。

つまり、人間の予想・期待により、実際にそれを得たり経験したりする際の結果は変えられるということです。事前イメージをよりポジティブなものに変えるだけで、消費者に選ばれる確率は確実に上がり、満足度も上げることができるのです。

人間の選択の9割は無意識が担っている?

ほかにも簡単ですが、以下のようなテクニックもあります。

「“無意識”の言葉を話せ」
……無意識には独自のコミュニケーション方法、つまり、独特の文法とスタイルを持った言語がある
「望みを変えるな、望みを満たせ」
……相手の欲しいものは、どのようにして手に入れればいいかを示すことで、相手をその気にさせることができる
「尋ねるな、掘り起こせ」
……人は、自分がなぜその行動をするのかわかっていないことが多い。しかし、その「なぜ」を見つけ出すことはできる
「感情に訴えろ」
……事実を提示しても、相手の感情的な選択を変えることはできない
「ひと工夫しろ」
……ちょっとしたアートを取り入れることで、相手の無意識を惹(ひ)きつけることができる

環境も人々の嗜好も目まぐるしく変化し、製品のライフサイクルも短くなっていても、人々の無意識の中心にある、「快感を追い求め苦痛を忌避する」という性質は変わりません。だからこそ、このような時代で効力を発揮するのです。

人間の選択の9割は無意識が担っているといわれるほどです。マーケターや広告・広報に携わる方を強力にサポートするテクニックであることは疑いないでしょう。