英語を学ばせるには周囲からの働きかけと、刺激が欠かせません(写真 : Greyscale / PIXTA)

「子どもに英語を学ばせたい」と考えている親御さんの多くは、「最初に何をすべきか」という点で悩むようです。英語レッスンに通わせるか、「聞くだけ教材」を利用するか、家庭教師をつけるか――。

そのうえで、知っておくべきことがあります。それは、子どもが英語を身に付けるには、「母語の習得(日本人の場合は日本語)に近い形で学ぶ」のが理想的だということです。

そして、それには周囲からの働きかけと、刺激が欠かせません。米国の言語学者ノーム・チョムスキー氏は「子どもは、生まれながらにして言葉を発する力を持っている」と言いますが、子どもは周りの人からの働きかけがあってこそ、言葉を身に付けることができるのです。

必要な言葉をつかみとれるような指導が必要

日本語を習得するのには、まずは母親が大きな役割を果たします。母親はわが子が生まれた直後から話しかけます。最初の語りかけは短くて単純で文法的に正しく、発音は明瞭で繰り返しが多いのが特徴。そして赤ちゃんの言葉の発達が進んでくると、言葉がけも変化し、だんだんと複雑になっていきます。発達に応じて働きかけを変えているのです。

ただし、赤ちゃんは働きかけや刺激のすべてを自分に取り込んで言葉を習得するわけではありません。受けたものの中から、自分が興味を持った、または必要とする言葉を選び、自分の言葉として身に付けていきます。また、体調が悪かったり、疲れていたり、緊張していたりすると、スムーズに新しい言葉を覚えることはできません。

これと同じように、英語を学ぶ場合でも、子どもの様子を見て、子ども自身が必要なときに、必要な言葉をつかみとれるような指導が必要となってきます。そして、英語を自然に習得するには、指導者と生徒の間に、母親と子どもと同じような、自然なコミュニケーションが成り立つことが望ましいのです。

それでは、子どもが英語を学ぶのには、具体的にどのような指導者が適しているでしょうか。

よく「英語を学ぶならネイティブスピーカー」という意見を聞きます。英語のネイティブスピーカーとは、英語を母語にもつ人という意味です(最近は第2言語として英語を流暢に扱える人も、ネイティブスピーカーと呼んでいます)。子どもが英語を習うのには、本当にネイティブに習うのが最良なのでしょうか。実はこれは必ずしもそうとは言えません。

理由の1つは、英語を聞く「時間」が短すぎることにあります。確かにネイティブの英語は流暢なので、その自然な英語を耳にできることは学習者にとっては価値があります。

しかし、英語を本当に身に付けようとするのであれば、週に1回のレッスンでネイティブの英語を聞く程度では、十分ではありません。母語に近い形で英語を習得するには、まずは多くの英語音声を聞く必要がありますが、1回60分のレッスンだったとしても、先生の英語を耳にするのは数十分程度。それでは、英語の音声に慣れ親しむには不十分です。

英語をいつでも聞ける環境を作ればいい

赤ちゃんは母親の語りかけだけでなく、母親と父親の会話やほかの大人の会話、もしくは周囲の兄姉の言葉を聞いて真似をし始めます。母語と同じ量の英語を耳にすることは不可能に近いですが、できるだけ多くの英語を耳にする必要はあります。ですから日常生活の中に自然に英語を耳にできる環境を作り、子どもが多くの英語音声を聞けるようにするのが望ましいのです。

たとえば、英語音声が収録されているCDを日常生活の中で流すと、子どもは英語を耳にすることになります。内容は子どもが好んで聞くことのできる物語や歌で、英語だけでは内容を理解することはできませんから、英語と日本語の両方が収録されている作品がいいでしょう。

朝起きるとき、おやつのとき、おもちゃで遊んでいるときなどにかけ、存分に英語の音声を耳にします。そのときに子どもはじっと英語を聞いている必要はありません。子どもは聞いていないようで聞いているので、「ながら聞き」で十分です。何をどのように聞くかといったことを、日本語話者の指導者は子どもの様子を見ながらアドバイスすることができます。

もう1つの理由は、コミュニケーションの問題です。前述のとおり、子どもが言葉を習得するには、母親のように子どもの「発達に応じた働きかけ」ができ、コミュニケーションがとれる指導者が必要です。もちろん、ネイティブの中にも、日本人の子どもが話す日本語を理解し、的確なコミュニケーションをとれる人もいるでしょう。が、この点においては、日本語を話す指導者のほうが、有利であると言えます。

大人の場合、英語を学ぶ動機や目標があるため、自ら質問するなどして自主的に学ぶことができます。この場合は、ネイティブの指導者が大いに役に立つでしょう。しかし、日本で日本人の子どもが英語を身に付けるには、子どもの成長を見守って的確な対応をしてくれる指導者が必要です。

英語を身に付けるには、まず日本語が大事

たとえば、家で聞いた英語の内容を子どもは話したくなるものです。「主人公は勇気があるから好き」「私はあの場面にドキドキしちゃった」「最後は幸せになったね」などと、内容を誰かに伝え共有したいものです。指導者はそのとき子どもの気持ちを的確に受け止め、理解する必要があります。そしてさらに英語が聞けるように促す言葉がけが必要です。日本人の指導者だと、このように子どもの状態に対応することが可能なのです。

ただし、日本語が流ちょうな指導者なら誰でもいいのか、といえばそういうわけではありません。上記のような子どもの発達や、指導方法を熟知している指導者でなければいけません。なおかつ、わが子を預けるなら、子どもの教育に対して、愛情と情熱をもって指導してくれる先生に出会いたいものです。

さらにもう1つ、英語ネイティブより、日本語が流ちょうな指導者のほうが、子どもの英語指導に適している理由があります。それは、英語を身に付けるには母語のしっかりとした土台が不可欠で、日本語ができる指導者だと、子どもの日本語能力を育てながら、英語を指導することができるからです。

英語を身に付けるのに日本語が必要というのは驚きかもしれません。しかしながら、言葉は思考や発話、理解の基盤となっているものですから、母語の基盤がなければ英語を身に付けることはできないのです。

以前、「子どもには普段から英語で話しかけてます」とお話しされるお母さんと、お子さん(2歳女子)に出会ったことがあります。そのお嬢さんは日本語がきちんとできないころから母親には英語で話しかけられていたのです。留学経験のあるお母さんが彼女に話す英語は命令や指示が多く、子どもに発語や笑顔が見られなかったのが印象的でした。彼女はお母さんに話しかけられて戸惑っていたのかもしれません。

お茶の水女子大学の内田伸子教授(発達心理学・認知心理学)も、『ことばの学び、英語の学び』で、「母語の土台がしっかりしていれば、第二言語の習得が容易」になると指摘しています。

日本語能力は外国語取得に役立つ

たとえば、3歳から13歳まで親の転勤でカナダに移住した子どもがいました。彼女は家では日本語、学校では英語の生活を送っている内に、発音はネイティブスピーカー並みになったけれども、小学校高学年になると学力が落ちてしまったそうです。発音はできても、読み書きを伴った学習言語としての英語の読解力に問題があったからです。

一方、ある調査によると、ネイティブスピーカー並みの読解力を身に付けるのが最も早かったのは、7歳から9歳まで日本にいてカナダに行った子で、次が小学校まで日本語で学習を受けた10〜12歳だったそうです。つまり、外国語を身に付けるには、言葉を相対化する必要があり、まずは自分の母語をしっかりと身に付けることが不可欠だということがわかります。

どの言語にも共通する「メタ言語能力」があると、外国語の習得も容易になります。母語である日本語を話せるだけでなく、日本語について知っていると、英語を学ぶ際に役に立つのです。どんな言語でもネイティブは「母語はわかっている」と思いがちですが、ネイティブほど母語については知らないものです。

文部科学省は現状把握として、「小学校低学年における学力差は、その後の学力差に大きく影響すると言われる中で、語彙の量と質の違いが学力差に大きく影響しているとの指摘もあり、言語能力の育成は課題となっている」と、日本語能力向上の必要性を認めています。日本語の土台をおろそかにしたまま、英語を学ぶことは本末転倒になりかねない、ということです。