中国の農村の風景。中国では都市住民と農民の間に圧倒的な格差が存在する(資料写真)


 10月に中国・北京で第19回中国共産党大会が開催された。内外の注目は人事に集中し、話題は汚職摘発の先頭に立った王岐山の去就や、チャイナ7(政治局常務委員)に次の総書記になる可能性がある50代が入るかどうかなどに集中した。

 王岐山はチャイナ7に留まらなかったものの、その他の人事は習近平の思惑通りとなったことから、マスコミは一斉に「習近平への権力集中が進んだ」と報じた。

 習近平は3時間以上にも及ぶ演説の中で2つの指針を示した。1つは「新時代の中国の特色ある社会主義」であり、もう1つは「中華民族の偉大な復興」である。この2つの目標は、その底流において深く関連している。

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生まれ落ちた時から格差がある

 大手マスコミは全くと言ってよいほど非難しなかったが、習近平が「新時代の中国の特色ある社会主義」と言っているものは、とても歴史の審判に耐えうる代物ではない。まさに噴飯ものである。

 そもそも社会主義は人々の権利の平等と所得分配の公平を謳う思想であろう。根底に平等がなければ社会主義とは言えない。

 中国にはものすごい格差が存在する。共産党幹部と深いつながりを有する一部の富裕層が天文学的な富を蓄えた。そして、それに連なる人々も裕福になった。その子弟は海外に留学するとともに、ショッピングバックを抱えて銀座を闊歩している。

 だが、日本に観光旅行に来て銀座で爆買いできる層は、多く見積もっても13億人の1割程度であろう。だから日本に来る観光客の数が、人口が5000万人の韓国を少し上回る程度でしかないのだ。

 中国には都市住民と農民を峻別する戸籍制度が存在する。この制度は中国がものすごい格差社会になった原因の1つである。現在、都市戸籍の保有者は約4億人であり、農民戸籍は9億人。

 都市戸籍になるか農民戸籍になるかは、「おぎゃー」と生まれ落ちた時に決まる。都市戸籍を持つ親から生まれると都市戸籍、農民戸籍を持つ親から生まれると農民戸籍になる。それは武士と農民を分けていた日本の江戸時代にそっくりだ。21世紀になっても中世さながらの制度が存在する。

 農民戸籍を持つ9億人の中の約3億人が都市に働きに出ている。しかし、都市戸籍を有さないために、子供を都市の学校に通わせることができない。最近は都市郊外に農民工の子供のための学校が作られているが、これはまさにかつて南アフリカで行われていたアパルトヘイト(隔離政策)そのものと言ってよい。

 中国の都市の住宅価格が高騰し、バブル状態を呈していることはよく知られている。普通のサラリーマンが住宅を手に入れようとすると、勢い郊外に目を向けざるを得ない。だが、いくら安いと言っても、農民工が多く住む周辺には住みたくないと言う。それは子供を農民工が通う低いレベルの学校に通わせるわけにはいかないからだ。そのために少々狭くとも中心部に住む。これは中国で不動産バブルが崩壊しない原因の1つになっている。

維持される戸籍制度

 中国共産党は戸籍制度が格差の原因になっていることをよく認識している。そのために、胡錦濤政権では「和諧社会」なるスローガンを作って、格差の是正に取り組もうとした。しかし、胡錦濤の政治力では分厚い既得権益の壁を崩すことはできなかった。格差は胡錦濤の10年間で一層拡大した。

 このような状況にあるから、もし習近平が本気で社会主義社会を建設したいのであれば、政権基盤が強くなった第2期目において、「和諧社会」の建設に邁進すべきであった。それこそが共産党の使命なのだ。

 しかし、習近平は格差是正に舵を切らなかった。「新時代の中国の特色ある社会主義」では戸籍制度を維持するつもりのようだ。

 また、現在、中国には不動産に対する固定資産税や相続税が存在しない。このことが都市に住む富裕層に、富を不動産に移して効率的に蓄えることを可能とさせている。固定資産税や相続税をかけることは、戸籍制度の廃止とともに格差是正の切り札になる。しかし、それは都市の富裕層から激しい反撃を受けることになろう。だから、それについての言及もない。

 つまり、「新時代の中国の特色ある社会主義」とは、ものすごい格差を固定し、それを維持する体制を言う。それによって強い中国を作るということだ。

 それは「社会主義」と言うよりも「絶対王政」と言い換えた方がよい。ビスマルクが唱えてもおかしくない「軍国主義」であり、「中華民族の偉大な復興」とは、格差に苦しむ庶民に対して国威を誇示して不満をそらすことを言う。まさに19世紀である。

共産党は民衆の反逆を恐れている

 習近平の今度の演説は、中国共産党が都市に住む富裕層の利益を代表する政党であることを明言したものである。

 しかし、いくらきれいな言葉で糊塗しても、虐げられた庶民はその本質を肌感覚で見抜いている。その結果、共産党は民衆の反逆を恐れる政党になりさがってしまった。強権的に市民をコントロールし続けており、治安維持に要する費用が軍事費を上回っている。また、インターネットを通じて共産党批判が広がることが恐れ、それを押さえることに血道を上げている。中国ではビックデータとは、共産党に批判的な者をあぶりだす手法を言う。

 歴史的な視点に立つとき、習近平は第2期目において19世紀の帝国主義路線に舵を切ったと言ってよい。それは、日本の今後に対しても大きな影響を及ぼすことになろう。

筆者:川島 博之