空前の半導体好況を受けてサムスン電子の業績も絶好調だ。「信賞必罰」で知られるだけに、過去最大規模の役員人事を断行した。

 韓国は超競争社会だ。サムスングループは「夢の就職先」だ。その中でもサムスン電子は飛び抜けた収益力だ。この会社の役員というのは、だから、サラリーマンの頂点でもある。

 サムスン電子は、2017年11月16日までに役員人事を発表した。好業績を背景に、過去最大規模の昇格人事だった。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

年末年始が慣例だが早まる

 サムスン電子などサムスングループや、韓国の財閥は、毎年1回、年末か年始に役員人事を実施する。

 ほとんどの企業が12月決算で、2月に株主総会や年間決算発表をする。本来なら、役員人事もこの時期に合わせてもいいのだが、「年末か年始」というのが慣例になっている。

 「新しい1年を新しい体制で」という意味があるのだろうが、一部では、「オーナー会長が絶対的な人事権を持っており、株主総会が形骸化していたからだ」という批判もある。

 ただ、「役員人事」とは言うが、株主総会で選任する「登記役員(取締役に相当)」は数人から10人強に過ぎない。

 毎年発表になる「役員」はほとんどが、日本でいう執行役員のことだ。

 サムスングループは数年前までは、グループ全体の役員人事をまとめて発表していた。「未来戦略室」という事実上のグループ本社が、オーナーの意向受けて役員人事を決め、発表していた。

 ところが、朴槿恵(パク・クネ=1952年生)前大統領、知人である崔順実(チェ・スンシル)氏に対する機密資金不法拠出疑惑が発覚し、「法的根拠がない未来戦略室に権限が集中していることが構造的な問題だ」という批判が高まり、廃止してしまった。

 だから今は、グループ全体の本部機能はない。役員人事も、グループ会社ごとに実施する。

 年末年始に発表、実施してきたサムスン電子の役員人事だが、2017年は、1か月以上早かった。

 というのは、2017年10月13日に、サムスン電子の代表理事(代表取締役に相当)である権五鉉(クォン・オヒョン=1952年生)副会長が、辞任する意向を表明したからだ。

 ある程度予想されていたこととはいえ、10月半ばという時期の表明だったため、全体の人事が前倒しになった。

 サムスン電子はここ数年、事実上のグループ総帥である李在鎔(イ・ジェヨン=1968年生)氏と権五鉉氏が「副会長」として率いてきた。

 だが、2016年に発覚した一連の「朴槿恵、崔順実スキャンダル」で李在鎔氏が逮捕、起訴、有罪となって拘置所に入ったこともあり、半導体部門のトップを兼ねる権五鉉氏とスマホなどを手がける「ITモバイル部門」、家電部門を率いる2人の社長の3人が、「事業部門CEO」として分業体制で事業に責任を負ってきた。

3部門トップがすべて交代

 今回の人事では、この3部門のトップがすべて交代した。

 半導体部門の社長には、金奇南(キム・キナム=1958年生)氏、ITモバイル部門の社長には高東真(コ・トンジン=1961年生)、家電部門の社長には金荽奭(キム・ヒョンソク=1961年生)氏がそれぞれ就任した。

 金奇南社長はソウル大電子工学科卒後、韓国科学技術院(現KAIST、大学院)を経てサムスン電子入り。一貫して半導体の研究開発部門を歩んだ。早くから権五鉉氏の後継者と見られ、同じような道を進んできた。

 高東真社長は成均館大産業工学科卒後、サムスン電子では無線事業部で携帯電話機事業に長年かかわった。金荽奭社長は、漢陽大電子工学科卒後、サムスン電子では、半導体事業部門を皮切りに映像ディスプレー事業部門で昇進を重ねた。

 「若返り」

 韓国メディアは社長の交代をこう説明している。確かに、これまでの3人の部門CEOが1952年と1956年生まれだったことに比べれば、6〜9歳ほど若返ったことにはなる。

若返りとは言うものの

 だが、前任の3人がいったい何歳でその役職についたのか?

 権五鉉氏の場合は、50代前半で半導体部門トップに昇格していた。そう考えれば、来年で満60歳になる金奇南氏の社長昇格は「若返り」とまで言えるのか。

 おまけに、部門CEOを務めていた3人は、権五鉉氏が、サムスン総合技術院会長になるなったほか、他の2人も「副会長」になった。

 何のことはない。60歳を越えて揃って昇格したのだ。これでも若返りと言えるのか?

 「JY人事」「JY人脈」

 韓国メディアはこうも解説するが、これも分からない。

 韓国では、李在鎔副会長のことを「JY」を呼ぶ。今回も、副会長が人事を決めたというのだ。

 そうかもしれないが、そうだとしたら、李在鎔副会長は、ずっと拘置所にいる。いったいどうやって人事を決めたのか?

拘置所で人事を決めた?

 「JY人事」と書いた大手紙記者に「拘置所にいる副会長がいったいどうやって意思決定したのか?」と聞いてみたが、「さぁ? 誰かが伝達役をしたんじゃないのかな?」と心もとない返事だった。

 社長級、副社長級の人事は、ひと言で言えば、「順当な人事」だった。これを順送り人事とも言うのだろうか。サプライズも、抜擢もない人事だった。

 「JY人事」と書いているが、全体で見れば、きわめて順当で、面白みのない人事だった。面白い人事というのは、問題も多く、そういう意味では、まともな人事なのだ。

 だが、当たり前といえば当たり前かもしれない。

 サムスン電子は空前の好業績だ。2017年の営業利益は日本円換算で5兆円を超え、アップルなどを上回る公算が高い。

 おまけに、李在鎔副会長は、拘置所にいる。無難な人事にならざるを得ないのだ。

 それにしても、メディアの報じ方も相変わらずだ。李在鎔副会長は、贈賄罪などで実験判決を受けて控訴審が進行中だ。

 オーナー経営のあり方も批判を受けているのに、相変わらず、検証も根拠もないままに「JY人事」と書くのだ。何でもかんでもオーナーが決めたことになるのだ。

役員は1000人

 サムスン電子には、常務以上の「役員」がざっと1000人いる。

 2017年11月の人事では、常務、専務、副社長への昇格者が221人いた。好業績を受けて過去最大規模だった。女性や外国人の昇格者も出た。

 業績好調なだけに「仕事した人に報いる」という人事だったようだ。

 サムスン電子の役員になると、会社から車が提供される。運転手さんまで付くのは、専務や副社長以上だが、燃料代や保険料をすべて会社が払うクルマが付く。

 常務3000cc以下、専務3500cc以下、副社長4000cc以下、社長4500cc以下と、排気量別に厳格に決まっている。

 利益連動型でいまのように業績が良い場合は、高額のボーナスも支給されるが、クルマやゴルフ場の会員権など「役得」も充実している。

 管理は厳しく、猛烈に働く。実績不振だとすぐにアウトになる。50代前半で役員になってわずかの期間で「退任」という例も多い。

 その代わり、ドカンと払うものは払う。人事も公平だという評価だ。韓国のビジネス界で頂点に立つ「1000人」だと言える存在だ。

筆者:玉置 直司