「半チャンラーメン」を食べられるお店が減っている?(筆者撮影)

安くてお腹いっぱいになれる、うれしいメニューが…

お昼時にお腹をすかせたサラリーマンが、ふと入った中華料理屋で何を食べるか迷う。ラーメンを食べたいがチャーハンも食べたい。2つ頼むのもやりすぎだな――。そんなときにうれしいのが、ラーメンと半(分の)チャーハン(半炒飯)がセットになった「半チャンラーメン」だ。


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安くてお腹いっぱいになれるサラリーマンや学生の味方。その半チャンラーメンが静かに衰退している。

東京・神保町。千代田区の神田地域に属するこの一帯は、小学館や集英社といった大手をはじめとする出版社や出版問屋の取次店、古本屋を含む書店などが集まる本屋の町として知られる。神保町周辺には会社も多く、大学や専門学校も集中していることもあって、サラリーマンや学生を対象にしたリーズナブルな価格によるメニューを展開する飲食店が立ち並ぶ。


看板を下ろした張り紙のある、「さぶちゃん」(筆者撮影)

その神保町で長らく愛されてきた老舗の名ラーメン店が、ひっそりとその看板を下ろした。「さぶちゃん」。1966年に店主の木下三郎さん(さぶちゃん)が開いたお店だ。食べログで3.54点(11月20日現在、掲載保留状態)という高得点がつくほど、熱心なファンを獲得しており、行列が目立つお店として有名だったが最近は休業状態になっていた。

そのさぶちゃんをめぐって、「どうやら閉店したらしい」とのうわさを聞きつけたのが11月20日。筆者が現地に向かったところ、確かに「お知らせ さぶちゃんの店は(平成)29年11月より閉店致しました」との張り紙が、店頭に貼られていた。

さぶちゃん来店客のほとんどが注文していたのが、「半ちゃんラーメン」(750円)。生姜の効いたスープのラーメンと醤油の濃いチャーハンをセットにした看板メニューだ。諸説あるが、もともと店主の木下さんが「ラーメンとチャーハンを両方食べたい」というお客さんのリクエストに応えたのが、そもそも半チャンラーメンというメニューが世に誕生したきっかけだったといわれている。


ラーメンが430円、半チャンラーメンは何と630円の「伊峡」(筆者撮影)

神保町というとカレーのおいしいお店が集う地だというイメージを持っている人も少なくないかもしれないが、ラーメンファンの間では、「半チャンラーメンの聖地」として神保町が挙げられる。「さぶちゃん」「伊峡」「成光」というお店が「神保町半チャンラーメン御三家」(これに「たいよう軒」を加えて「四天王」と呼ぶこともある)と呼ばれてきた。

まるで「町中華」の凋落を象徴しているかのよう

価格も全体的にリーズナブル。「伊峡」ではラーメンが430円、半チャンラーメンは何と630円だ(2017年9月現在)。ただ、中でも元祖といっていい「さぶちゃん」が閉店してしまったのは、「半チャンラーメン」というメニューを提供してきた「町中華」の凋落を象徴しているようでもある。

とにかくメニューが豊富だったり、マンガが置いてあったり、店主の中華鍋の音がカンカンと響いたり――。そんな「町中華」の定番メニューが「半チャンラーメン」だ。ただ、「町中華」は今、店主の高齢化や後継者問題に悩んでいる。

厚生労働省が2011年に発表した「飲食店営業(中華料理店)の実態の経営改善の方策」によれば、個人経営の中華店の店主の年齢は50歳以上で72%。5年以上前のデータなので、今はさらに高齢化が進んでいるだろう。

このうち営業時間が10時間以上の個人店は30.8%。閉店時刻も「21時以降」が73.9%を占め、長時間営業が当たり前となっている。そして、「後継者がいない」と答えたお店は何と全体の62%に上った。

店主の高齢化が進み、後継者探しも難しく、長時間労働となると閉店もやむなし。実数を把握できないが、2000軒以上のラーメン店・中華料理店を食べ歩いている私から見ても、「町中華」は確実に町から減ってきている。おのずと「半チャンラーメン」を出すお店も減っていっているということだ。

町中華自体の減少以外にも、「半チャンラーメン」を提供しているお店が少なくなってきている理由が3つある。まずは価格の問題だ。

ラーメン店や中華店には、つねに「1000円の壁」という課題がある。心理的に1つのメニューが1000円を超えるか超えないかは、いくら美味しくても食べ手が本当に高いと感じる可能性があり、ラーメン店や中華店の店主はつねにそこに悩んでいる。


黒いチャーハンが人気の「京紫灯花繚乱」(筆者撮影)

「半チャンラーメン」も例外ではない。庶民の味方である「半チャンラーメン」を1000円以上にするのはまずニーズに合わない。提供しているお店もこの値付けはかなり苦労している。京都系の黒いチャーハンが人気の「京紫灯花繚乱」(四谷)は990円、博多豚骨ラーメンの「博多だるまJAPAN」(みなとみらい)も990円だった。ギリギリ1000円以下を保っている状態なのだ。

糖質制限食ブームに逆行する「炭水化物+炭水化物」

2つ目の理由は現在の健康志向に合わないということだろう。ご飯やパン、麵類など糖質の摂取を控える「糖質制限食」がブームになる中で、ラーメンにチャーハンという「炭水化物+炭水化物」を組み合わせる「半チャンラーメン」は、それに逆行する。カロリーも糖質もたっぷり摂ってしまう「半チャンラーメン」は、近ごろのラーメン店や中華店が取り込みに腐心する女性客への売りにはなりにくい。


「半チャンラーメン」は、お店にとっての悩ましいメニューだった?(筆者撮影)

最後の理由はつくる作業に手間がかかることだ。中華そば+半焼飯のセットを出している「京紫灯花繚乱」の川瀬裕也店主が言う。

「チャーハンは、『厨房で鍋を振るう』というラーメンにはない工程が一つ加わります。1杯のチャーハンを作るならまだしも、半チャーハンとなると工程的に結構大変な部分が多いです。通常のお店だとやはりご飯ものは手間の少ないチャーシュー丼などを選ぶことが多いでしょうね」。価格を上げられないうえに工程が増えてしまうのが、お店にとっての悩ましさなのだ。

半チャンラーメンの起源には諸説あるものの、実は「半ちゃんラーメン」(「ちゃん」はひらがな表記)は、大手チェーンの「幸楽苑」が商標登録している。幸楽苑のウェブサイトによれば、「半ちゃんラーメン」のネーミングは、現社長の新井田傅氏が郡山市に出店した当時、麻雀帰りのお客の会話がヒントとなり生まれたという。「半荘(はんちゃん)」という言葉からインスパイアされ、幸楽苑がメニューとして発案したと明記されている。

町中華の凋落とともに、「半チャンラーメン」は「幸楽苑」の独壇場になってしまうかもしれない。