「きこりん」(写真右)を擁する住友林業は創業326年、同左の「くま所長」がマスコットの熊谷組も今年で創業120周年。業界の名門同士を提携に走らせた背景には、将来の事業環境に対する強い危機感があった(記者撮影)

住宅メーカーとゼネコンに蜜月は訪れるのか。

11月9日、住宅メーカー大手の住友林業と中堅ゼネコンの熊谷組は業務・資本提携すると発表した。住友林業が熊谷組に20%を、熊谷組は住友林業に2.85%を相互出資する。

住友林業はここ数年、住宅業界の縮小を見越して、木造の大型施設の受注や、米国や豪州の同業の買収などを進めていた。

相次ぐハウスメーカーとゼネコンの連合


業務・資本提携を発表した住友林業の市川晃社長(右)と熊谷組の樋口靖社長(左)(記者撮影)

そんな同社にとって熊谷組は、台湾の超高層タワー「台北101」などアジアでの施工実績があるなど、魅力的な存在だった。

「大規模木造建築で圧倒的地位を獲得するには、ゼネコン機能が不可欠だ」(住友林業の市川晃社長)と、両社の強みを生かし、国内外での木造建築の展開強化を狙う。

一方の熊谷組は、住友林業との提携で得る約350億円の一部を、木造建築を取り入れた大規模な首都圏での再開発事業に充当する。

熊谷組の樋口靖社長は「今後はESG(環境、社会、ガバナンスの英語の頭文字を組み合わせた略語)投資が主流になる。そのために森林資源を活用した持続可能な建築事業を育てたい」と語る。

住宅メーカーが主戦場とする住宅市場は縮小が続く。住宅着工戸数は2016年度に約97万戸と、この20年間で約4割も減少した。そこで住宅メーカー各社は単純な戸建てやマンションの建設から脱却し、高層マンションや商業施設など、多角化を急ぐ。

そのためには、施工力があり幅広い物件の建設を請け負えるゼネコンの協力が不可欠だ。

実際に大和ハウス工業や積水ハウス、旭化成傘下の旭化成ホームズはそれぞれ中堅ゼネコンを囲い込んだ。パナホームを抱えるパナソニックも、松村組を買収するとこの11月に公表したばかりだ。


他方で、出資を受けたゼネコンの多くにも共通項がある。1980年代後半のバブル時代に、不動産開発事業に手を出した結果、経営再建を迫られたのだ。

積水ハウスが出資した鴻池組も、「地元関西では積水ハウスが出資するまでは経営不安がささやかれていた」(中堅ゼネコン幹部)。

相乗効果は未知数

もちろん、課題もある。住宅メーカーの得意とする戸建てと、ゼネコンが手掛ける土木・建築では必要な技術が異なるため、相乗効果は未知数だ。

海外進出にしても、ゼネコン各社は工事の原価管理や現場作業員の手配に苦心しており、大々的な展開には二の足を踏んでいる。

大和ハウスは海外展開の強化を狙い準大手ゼネコンのフジタを買収したが、「買収を契機に積極的に海外展開を仕掛けている様子はない」(大手ゼネコン幹部)。大和ハウスはフジタ以外のゼネコンにも数多く発注しており、施工の内製化が進んでいるとはいえない。

さらに今回、住友林業と熊谷組が提携の主眼に据える木造建築は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造に比べ、耐火性や耐震性が劣る。

外国産木材との価格差もネックで、木造が採用されやすい公共施設ですら「国産材に固執すれば入札で負ける」(別の大手ゼネコン幹部)のが実態だ。

足元は活況に沸くゼネコン業界だが、建設需要は「中長期的には縮小均衡に向かう」(樋口社長)。木造建築強化を打ち出した両社は業界に風穴を開けることができるか。


樋口社長は「今後は目先の業績ではなく、中長期的な社会貢献が評価される」と強調する(撮影:ヒダキトモコ)

木造高層建築、という前人未到の分野へと舵を切った熊谷組。鉄骨や鉄筋コンクリート造の建物が増える中、なぜあえて木造という選択肢を選んだのか。その真意を樋口社長に聞いた。

「あくまで対等なパートナー」

――住友林業との提携を決断した理由は

持続的な成長のためには、建設業界でもESG投資が必要だという思いがもともとあった。建設業は今後も当社の中心であり続けるが、その成長はいずれ限界が来る。

東京五輪後も建設業の活況はある程度続くだろう。業績が好調な今こそ、この先の成長に対して投資をしていかなければならない。自前の研究所ですべての技術を丸抱えする経営はもうはやらない。今後は競争力のある技術を持ちつつ、異業種との提携が重要だ。

――なぜ提携先が住友林業なのか?

今年4月、住友林業から協業の提案を受けた。あちらは創業から300年以上も経つ歴史ある企業で、これまでも森林保全などを通じて社会貢献を果たしてきた。そこに当社も協力できないかと思い、提携を模索してきた。

森林は鉄やセメントなどと異なり50年程度で循環し、環境負荷も少ない。だが伐採適齢期の木を使い、新しく植樹しなければ森林は循環しない。そこで木は建築物、間伐材はバイオマス発電という形で当社が出口を作り、森林の循環を促す。日本の面積の7割は山林で、材料が豊富にあるだけでなく、きちんと手入れをすれば防災など国土保全にも寄与する。

――業務提携ではなく相互出資という資本提携を選んだ理由は何か。

業務提携は「こういうことをやった」とメディアにアピールするだけで、本気にならない。だが資本提携は利益にハネ返る面で真剣さが求められる。出資比率についてはさまざまな選択肢があった。相乗効果を生み出すという観点から、今回の比率に落ち着いた

住友林業の20%という数字は、住友林業が株主に提携への覚悟を示すための数字だ。本当は10%でもいいのだろうが、あちらにしてみれば覚悟を示すには20%必要だということだ。

当社が住友林業に20%を出資しないのは、手元の資金が足りないこともあるが、そもそも会社の規模が違うので、対等の出資比率である必要はない。

もう1つは、住友林業は住友金属鉱山から枝分かれした会社で、同社は今も住友林業株の5〜6%を保有する大株主だ。提携するとはいえ、それを超えて出資するのは生意気だ。

そうすると3〜4%でもよかったが、相乗効果を生み出すのには100億円規模の投資が必要という結論に達し、それを比率に換算したところ2.85%になった。数字ありきの出資ではない。

――ハウスメーカーとゼネコンの協業はあったが、過去の例も参考にしたか?

今回は上場会社の業務資本提携であり、これまでのように一方的な出資で傘下に入るのではない。数字上の違いにこだわることはない。会社の歴史も規模も違ううえ、伝統ある会社が筆頭株主になることは、当社にとって信用補完や自己資本が増えたときの買収防衛にもなる。

なぜ今、木造建築なのか

――ただ、提携発表直前、11月9日の3610円という株価から、足元は3100円程度。希釈化分を折り込み、株価は低迷している。

11月9日の記者会見以来、市場にもさまざまな反応があった。だが目先の業績で上下するのは本来の姿ではない。海外では社会貢献への姿勢も加味して投資をするのに、日本ではまだまだ短期的な結果で判断されてしまうのか、と思う。

株主に対しては、今回の提携は株主にも利益になることをアピールしていきたい。株式が希釈化されたから利益が減る、というのは短絡的だ。本当の投資家は中長期的に見ているのではないか。今後当社がESGに注力していると認めてくれれば、いずれ戻ってくるだろう。

――木造高層建築に需要はあるか。


樋口靖(ひぐち やすし)/1952年生まれ。1976年東北大学大学院修了、熊谷組入社。2008年執行役員を経て、2013年から現職(撮影:ヒダキトモコ)

需要はこれから喚起していく必要がある。現状ではコストと法規制のハードルがあるが、これがクリアできれば木造建築は普及していく。

学校や病院では間違いなく使われるだろう。公共建築では国産木材の使用を指定している物件もある。木材の耐火性についても、国土交通省は規制を緩和する方針だが、これも追い風だ。

むろん官公庁だけなく、民間での普及も不可欠だ。木材は軽い素材で、耐震性や施工性にも優れているため、後は耐火性や防音性などを技術でカバーし、普及を促していく。

台湾でも木化緑化事業の展開を検討しており、すでに現地の顧客からも話が来ている。

海外では20階建ての木造建築もすでに存在するうえ、コスト的にも他の部材と遜色なくなっている。都内に立つ300メートルもの超高層ビルでも、計算上では木造建築で実現可能だ。普及が進めば価格競争力も上がる。その先鞭をつけていきたい。

――同業他社は建設業以外の分野に進出しようとしている。その中で木造建築を選んだ理由は。


当記事は「週刊東洋経済」11月25日号 <11月20日発売>の記事に一部加筆したものです

各社は賃貸事業や不動産事業、(空港や道路など公共施設の運営受託である)コンセッションなどを展開しているが、当社はあくまで建設業だ。建設技術を用いて顧客の役に立つことを目指す。木造建築を軸にした再開発事業も手掛けていく。われわれはもう不動産屋にはならない。

――今回の事業は何年先まで見据えているのか。

300年先まで見ている。少なくとも、森林は50年スパンで循環しているため、それくらいまでは見通さないといけない。今回は当社が先鞭をつけたが、他社が続いていけば、木造建築が普及の後押しになるし、むしろそうした流れになっていくべきだ。短期的な受注ではなく、長期的に考えることが成長には不可欠だ。