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5万5千人を動員した、60代になって初のドーム公演


11月12日、東京ドームで桑田佳祐が我々に見せてくれたのは、日本のポップミュージックの最前線で長年戦い続けているひとりの歌い手の“むき出しの生き様”でした。


8月にリリースされたニューアルバム『がらくた』を携えての全国ツアー。まだツアー中ということで詳細なセットリストは割愛させていただきますが、朝ドラ主題歌として多くの人に愛されている「若い広場」で会場中の合唱を促したかと思えば、往年の代表曲「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」が大きな歓声を持って迎え入れられるなど、新旧織り交ぜた楽曲の数々が5万5千人の観客を大いに盛り上げました。



自身のパーソナリティそのものを大衆的な娯楽に変換する一級のエンターテイナー


この日のステージで強く感じたのは、桑田佳祐という人が“今もなお現役バリバリのステージアクターである”ということ。そして、“自身のパーソナリティそのものを大衆的な娯楽に変換する一級のエンターテイナーである”ということです。


今回のライブは桑田にとって60代に突入して初めてのドームライブでした。しかし、そのステージから寄る年波には勝てず……というような雰囲気はまったく感じられません。ブルージーな楽曲を情感たっぷりに力強く歌い上げたと思えば、アップテンポのナンバーではステージ上を動き回りながら全身で曲の世界を表現するなど、その様子はまさにエネルギッシュ以外の形容詞が見つかりません。かつては大病を患ったこともある彼のこのステージパフォーマンスは、感動的ですらありました。



“見ちゃいけないけど見たい、と猛烈に惹きつけられる”空気


もちろん、すごいのはそういったアクションの部分だけではありません。この日際立っていたのが、そのボーカルの独自性です。日本語の発音ルールを解体してスムーズにメロディに乗せていく、桑田のボーカリゼーションは、いまだに唯一無二の輝きを放っています。その魅力は、中年のぼやきのような歌詞を不思議な中毒性のある世界に昇華させた「ヨシ子さん」で特に発揮されていたように思います。ゆったりしたグルーヴに乗って放たれる彼の呪文のような歌は、確実に東京ドーム全体を異空間に飛ばしていました。


「ヨシ子さん」にはEDMをEDにもじって『“いざ”言う時に勃たないヤツかい?』という歌詞が出てきますが、こういった下世話な話が出てくるのも桑田の表現の魅力のひとつ。桑田佳祐のライブには、そんな楽曲のムードを反映してか、どこか猥雑で、小さい頃に深夜のテレビ番組の世界をこっそり覗き見たくなるかのような“見ちゃいけないけど見たい、と猛烈に惹きつけられる”空気があります。そしてこの猥雑な感じは、桑田の心象風景であると同時に、実は人間誰しもが持っているものです。多くの人に共通する情けない部分やだらしない部分(普段は殊更に人に言わない部分でもあります)を、桑田は刺激的なエンターテインメントへと変えていきます。



日本の大衆歌謡の継承者としての桑田


この鮮やかな手さばきには、彼のベースとなっている音楽性も大きく寄与していると推察します。桑田佳祐の音楽のルーツにはアメリカのロックンロールやソウルミュージック(昨今のハイセンスな若手ミュージシャンと同じです)などがありますが、それらと同時に大きな比率を占めているのが歌謡曲、さらには民謡や祭囃子といった“Jポップ以前の日本の大衆歌謡”です。垢抜けきらない、だけどなぜか懐かしく感じる、そういった音楽と、人々の弱いところやダメな部分をときにユーモアも交えて語る彼の表現の親和性は非常に高いです。そして、桑田フォロワーのボーカル、桑田っぽい曲を書こうとするミュージシャンはたくさんいても、“日本の大衆歌謡の継承者としての桑田”を正しく受け継いでいる音楽家は、現時点ではいないのではないでしょうか。


大晦日の横浜アリーナまで続く今回のツアーは、桑田佳祐が改めて“唯一無二の存在 ”であることを示すものになりそうです。ステージ上では「もう60だけどまだまだ『ひよっこ』!」なんてMCもありましたが、この先も末永く日本のポップミュージックを支えていってほしいと思います。


TEXT BY レジー(音楽ブロガー/ライター)

PHOTOGRAPHY BY 岸田哲平



桑田佳祐

WOWOW presents 桑田佳祐 LIVE TOUR 2017 「がらくた」supported by JTB

2017年11月12日@東京ドーム



SETLIST


ツアー中のため、セットリストの公表は控えさせていただきます。