ドラッグストアの店頭に、使い捨てカイロや入浴剤が並ぶ季節になりました。お肌の乾燥にも要注意。前回は「かゆみ止め」を使う前の基礎知識をお話ししました。ひとくちに「かゆみ止め」といっても効き目、その強さはピンキリです。

「白色ワセリン」と「プロペト」の違いは?

以前、医療用保湿剤「ヒルドイド」についてご説明しましたが、この薬はアトピーや乾燥肌の患者さんによく処方されます。そして「ヒルドイド」と並んでよく処方されるのが「白色ワセリン」や「プロペト」です。

ワセリンはみなさんもよくご存知でしょう。ドラッグストアでも売っています。ワセリンは石油を蒸留し、皮膚に塗っても安全なレベルまで精製したものです。なので、ワセリンはまるごと油です。それ以外の成分はほとんど入っていません。医療用に精製度を高めたのが「白色ワセリン」、さらに高めたのが「プロペト」です。純度はこうなります。

ワセリン<白色ワセリン<プロペト

色も上の順番に白くなっていきます。「プロペト」には不純物がほとんど入っていないので、顔や目の周りにも使えます。言い換えれば目に入っても安全というレベルです。ですからアトピーの患者にも処方されるのです。長く使われている薬で、副作用もほとんどありません。

ワセリンは皮膚上にとどまることに意味がある

薬効成分が入っていないのなら、ワセリンって何の薬なの?ということになりますが、保湿剤です。「ヒルドイド」は、ヘパリン様物質という有効成分が皮膚に浸透していくことで薬効を発揮します。一方、ワセリンは皮膚上にとどまることで皮膚を保湿します。

ワセリンは油です。油と水は混ざりませんよね。なので、ワセリンを塗ると皮膚上に油のベールをかぶせたようになり、皮膚から水分の蒸発を防ぐことができるのです。水分の蒸発を抑えるだけで乾燥肌はかなり改善されます。また、ホコリや花粉など外からの異物が皮膚に浸入するのも、ある程度防ぐことができます。

症状によりますが、それほど重症化していない肌荒れや乾燥肌であれば、「かゆみ止め」の薬を使うより、ワセリンを上手に使ったほうがいいかもしれません。薬効成分が皮膚に浸透し、やがて血管にも浸透する薬より、皮膚上にとどまって保湿してくれるワセリンのほうがより安心、安全だと思うからです。

処方薬と市販薬の中身は同じ

「白色ワセリン」も「プロペト」も第3類医薬品で、手頃な価格で市販されています。「白色ワセリン」は50g入りで500円もしません。カサカサ肌はもちろん、お風呂上がりに塗れば保湿効果も高く、その後のかゆみ発生を抑えられるでしょう。手荒れにも唇の荒れにも、何でも使える万能保湿剤です。

とはいえ「白色ワセリン」はベッタリしています。肌にスーッとは伸びませんし、顔に塗ればテカります。その点、純度の高い「プロペト」のほうがノビやすいです。また、ノビのいいクリームタイプの「白色ワセリン」も市販されています。いずれも普通の「白色ワセリン」よりお値段高め。といっても低価格なので、上手に使い分けてください。

なお、病院で処方される「白色ワセリン」「プロペト」と市販のものに違いはありません。次回は、その他の「かゆみ止め」を見てみましょう。

ドラッグストアで買える「白色ワセリン」。クリームではないので、このまま塗るとベッタリします。



■賢人のまとめ
ドラッグストアでも買える「白色ワセリン」「プロペト」には特別な薬効成分は入っていませんが、その分、安全性、万能性の面ですぐれた保湿剤といえます。かゆくてたまらない乾燥肌は、「かゆみ止め」を試す前に、まず「白色ワセリン」で保湿してみてはいかがでしょうか。

■プロフィール

薬の賢人 宇多川久美子

薬剤師、栄養学博士。(一社)国際感食協会理事長。明治薬科大学を卒業後、薬剤師として総合病院に勤務。46歳のときデューク更家の弟子に入り、ウォーキングをマスター。今は、オリジナルの「ハッピーウォーク」の主宰、栄養学と運動生理学の知識を取り入れた五感で食べる「感食」、オリジナルエクササイズ「ベジタサイズ」などを通じて薬に頼らない生き方を提案中。「食を断つことが最大の治療」と考え、ファスティング断食合宿も定期開催。著書に『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)など。