49分に同点弾を決めた渡(16番)や杉本(26番)といったテクニックに優れた日本人選手が徳島の攻撃を牽引した。(C) SOCCER DIGEST

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 プレーオフ出場権争いは、最後の最後で大どんでん返しが待っていた。42試合のJ2をマラソンに喩えるなら、トラックでの大逆転劇。ロスタイムに千葉が決勝弾を決めたことで、5位で最終節を迎えた徳島が突然、シーズンの終わりを迎える羽目になった。

 
 この最終節、私は東京Vと徳島のゲームを観戦したが、味スタに足を運んで良かったと思った。というのも敗れた徳島のプレーが、非常に素晴らしいものだったからだ。
 
 東京在住の私は、徳島をちゃんとフォローしているわけではない。スタジアム観戦に至っては春先の千葉戦以来、これが2度目。だが開始10分ほど見ただけで、徳島が昇格争いをしている理由がはっきりと分かった。ひと言でいえば、フィールドプレイヤーがボールを持つことを怖がっていない。
 
 J2は技術の低い選手が走力頼みでプレスをかけ合う、悪い意味で忙しいゲームが多い。互いが自らのリスクを回避し、敵のミスを誘おうとするため、ボールが忙しく飛び交う。
 
 だが、徳島は違った。このチームは、一人ひとりがしっかりとボールを持つ。つまりリスクを引き受けている。
 
 ボールを持つ選手には当然、敵がプレッシャーをかけるが、徳島は敵が間合いに入ってきても慌てたりしない。それはボールと敵の間に自分の身体を入れてしまえば、そうそうボールを失うことがないと熟知しているからだ。しかも敵を間合いに入れた方が、敵の背後は取りやすくなる。蹴って逃げるか、誘き寄せるか。間合いの感覚ひとつで、ゲームの可能性は劇的に変わってくる。
 
 もちろん、言うは易し、行なうは難し。この安定したキープ、パス回しは日々の鍛錬によって培われたに違いない。
 
 身体を使って落ち着いてボールを持ち、前後左右に開いた味方に確実にパスをつなぐ。ここで感心するのは、スピードよりも正確性を重視しているところだ。
 
 日本のチームは代表チームも含めて、スピードで局面を打開しようとする傾向が強い。これは20年近く、「日本人はフィジカルが弱いから、スピードで勝負しろ」と唱え続けるメディアのせいでもあるだろう。
 
 だが、徳島はスピードには頼らない。スピードに頼りすぎると正確性を欠くことになるからだ。だから彼らは急ぐことなく、落ち着いてパスをつなぎ、敵の組織を崩しにかかる。この最終節でも確実につないでゲームを支配し、内容で東京Vを凌駕した。

【PHOTO】徳島、惜しくもプレーオフ進出ならず…
 最終的にプレーオフは逃したが、それでも徳島の培ったプレースタイルと結果は称賛に値する。というのも彼らは、戦力的に限られた中で、充実したゲームをやっているからだ。
 
「持てる者」ではない徳島は、福岡や名古屋、千葉のように、タレントを集めることはできない。もちろん、ウェリントンやシモビッチ、ガブリエル・シャビエル、ラリベイのような大砲もいない。
 
 つまり勝とうと思えば、能力が高いとは言えない日本人選手の中身を変えるしかない。これは気が遠くなることだ。だが、それをリカルド・ロドリゲス監督は就任1年目でやってのけた。見事な手腕だと思う。
 
 私が原稿を書いているいま、徳島の選手やサポーターは失意に暮れているだろう。部外者である私にかける言葉など見つかるはずもないが、少なくとも胸を張ってホームタウンに帰ってほしい。徳島のサッカーは、日本サッカー界が参考にするエッセンスがたくさんある。
 私が保証する。
 
文:熊崎 敬(スポーツライター)