「ロボットを人間と比較するのは時期尚早だ」(林さん)

写真拡大

 サービスロボットが産業用ロボットに代わって今後のロボット市場をけん引すると期待されている。現状では、音声認識などの機能が進化した半面、家事を手伝うなど生活を直接支援する機能はまだ未成熟だ。サービスロボットは将来、どんな形で人の生活に役立つのだろうか。ソフトバンクで「Pepper(ペッパー)」の開発プロジェクトの責任者を務めた後、ロボットベンチャー企業のGROOVE X(グルーブエックス)を立ち上げ、新たな概念のロボットを生み出そうとしている林要さんに聞いた。

AIの進化はこれから
―サービスロボットの現状をどう受け止めていますか。
 「過去のロボット研究では、物理的な動きの制御が主なテーマになっていた。物を握ったり二足歩行する制御技術が『すごい』と言われた時代もあった。最近は人工知能(AI)技術の機械学習によって音声や画像等の認識能力が飛躍した、米アマゾン・ドットコムやグーグルのAIスピーカーも出てきた。産業用ではロボット技術ともセットになりつつある。とはいえ、家庭用ではAIとロボットを組み合わせた技術はまだまれだ。AIを使ってカメラやマイクの情報を統合してヒトの知覚機能を持たせようという研究はまだ始まったばかりで、これから本格的に実用化し、盛り上がると考えている」

 ―AIとロボットの組み合わせで何ができるようになりますか。
 「AIは認識だけではなく、限定的な環境下であれば良質な学習ができ、未知なる現象に対して人より良い判断を行うケースもでてきている。グーグル傘下のディープマインドが開発した『AlphaGo Zero(アルファ碁ゼロ)』は、AI同士が対戦して幾何級数的に碁のスキルを高められる事が確認された。これを踏まえると、ロボットに使うAIにおいても、人間を含む環境を一部でも適切にモデル化できれば、シミュレーションに基づく判断ができるようになる。従来より『(人が)してもらいたい』ことに応じられるようになる。最初は頻出する状況からになるが、徐々に頻度が少なくても一般解を導き出すことができるようになるだろう。人間はたった一回の経験から学ぶという意味では、まだその差は大きいが、AIも徐々に生物に近い学習ができるようになるだろう。そうすると自律的、能動的にセンシングができるロボットは学習を加速させる事ができるため、能力が飛躍的にあがり、普及が本格化していく」

 ―いまはAIのおかげでロボットの頭が進化し、手や脚など身体の進化が遅れているのではないでしょうか。
 「機械学習の進化によって認識性能の向上に焦点が当たってきた。だが、機械学習に必要なデータのクレンジング(重複や誤記を改めるなどデータを利用できる品質に高める)の自動化ができるようになれば、認識に関するAIの研究はいったん落ち着いて、物理的な動きを伴う実空間での学習に研究の焦点が移るはずだ。「自ら人に近づいて必要なコミュニケーションをとりにいく」「移動して環境情報をモニタリングする」といった物理的な動きによってロボットが必要なデータを自律的に取りに行くことで、学習効率が飛躍的に高まるからだ」

人間のレベルは高い
 「しかし、まだロボットを人間と比較するのは時期尚早だ。実空間での学習機能を比べるとAIは人間のはるか手前にいる。人間は生物の中でもかなり特殊で、これほど器用で多様な生物はいない。ヒトは真っ白な状態で生まれながら、多様な知識や機能を経験から獲得していく。このように知識獲得のための学習プラットフォーム(基盤)としては、ヒトは他の生物よりかなり進化した生体システムと捉えることができる。そう考えると、現状のAIは他の動物にも劣る面が多く、やらなければいけない事がたくさんある。故にまだヒトのような最高水準のものといきなり比較しなくてもいいのでは」